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銀月の狼 人獣の王たち  作者: 不某逸馬
第三部 第一章『希望と絶望』
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第三部 第一章 第一話(終)『健康優良悪党稼業』

 ゴート帝国西部域にある大州シュタイエルスカの州都を、モルテヘイムと言った。

 北の大都市とも言うべきそこには、州を修めるステンボック家の大公トルステン・ステンボックが住むブレスト城がある。


 このトルステン大公は、皇帝ゴスフレズⅢ世の友人であり、かつてはヴォルグ六騎士に名を連ねていたほどの、名のある騎士将軍でもあった。彼は七年前の戦で負った怪我が原因で、六騎士の座を譲ったものの、武辺で名の通った気骨はまだまだ健在であり、騎士としての実力も未だ錆びつかず老いて尚健在とまで言われていた。

 それに大公という位からも分かる通り、ステンボック家は皇帝家の縁戚にあたり、更に次の皇帝への任命権を持つ、三皇家と呼ばれる特別な家のひとつにも当たるのだ。

 トルステンはその一族の大守であり、皇室にも強い影響力を持っていた。


 ただし、いた、と過去形にはなるのだが。

 その理由は単純で――



 彼は次期皇帝であるハーラル皇子をとても毛嫌いしていた――からだった。



 それ故にハーラルを支持する者達から疎んじられ、隠棲のような現在に至るのである。

 ハーラル皇子を嫌う理由は、友でもあるゴスフレズⅢ世からの影響というのもあったが、根はもっと単純でかつ深い。



 先に述べた七年前の戦の折、彼は怪我を負ったものの、軍自体は勝利した。ただ、トルステンが怪我を負うほどの激戦という事は、当然、味方の損耗も激しくならざるを得なかった。

 彼は帝都に帰還後それを報告したのだが、病床にいた皇帝に代わり、まだ少年だったハーラルが代理としてそれを聞いた。

 当時はまだ十代前半の、幼さも残るハーラルである。戦の機微など分からないだろうから、ともあれトルステンの奮闘と武功を、皇子が労うのだろうと誰もが思っていたら、いきなり皇子は、トルステンを叱責しはじめたのだ。

 ハーラルは兵法の常道に照らし、損害を大きくした事に激しい痛罵を浴びせた。のみならず、軍籍を剥奪し処罰するとまで言い出したのだ。慌てて他の六将や武官がこれを諌め、結果的には何とか事無きを得たのだが、それでもハーラル自体は不承不承といった態度で、最後まで首を傾げる始末だった。


 これに、トルステンは激怒した。


 これほどの侮辱はない。いくら皇子といえど、本当の戦場も知らぬ雛っ子風情が、ちょっと書物を齧った程度で小賢しいにもほどがある。何をもってここまで自分を愚弄するか、と。

 なるほど、ハーラルの言いは兵法書に照らせば筋の通った理屈かもしれない。だが、所詮は書物で学んだだけの机上の理屈事。実際の戦場だけでなく、今までの功績も省みない誹謗はあまりに稚拙すぎると言わざるを得なかった。

 それに目くじらをたてるトルステンも大人げないと言えば大人げないが、この時彼は、あまりに無機的で酷薄な皇子の態度に、得体の知れぬ不気味なものを覚え、自ら六騎士の座を降りると憤慨混じりに叩き付けたのだった。


 以来ずっと、トルステンはハーラルを嫌っており、次期皇帝というのにもいかがなものかと反対の意を表明していたのである。


 平たく言えば親子も歳の離れた相手とソリが合わない――そういう訳だ。


 これに目をつけたのが、皇太子を持ち上げる一派と反目する、いわゆる〝皇帝派〟の連中であった。権威も影響力も大きなトルステンのもとへと、皇帝派の貴族達が、彼を派閥の領袖として担ぎ上げようと何度も近寄ってきたのである。

 根は武人のトルステンなだけに、最初はひたすら無視を決め込んでいたが、ハーラルが政事(まつりごと)の表舞台で采配を振るい出すと、彼の嫌悪はいよいよ増していき、いつの間にやら皇帝派の首魁とまで言われるようになっていた。




 さて、そんなトルステン・ステンボックが、居城で珍しい来客を迎えていた。

 先述したブレスト城の応接間で向かい合う剽悍な若者、ジョルト・ジャルマトがそれである。


 そもそもジェジェン首長国とゴート帝国の関係は、友好的とは言い難く、戦端を開く事も少なくなかった。ただ、戦ばかりというわけでもなく、交易という形で接する事もままあり、緊張関係を保った油断ならざる隣人、といった評が正しいところであろう。

 ジョルトはそのジェジェンの代表アールパード大首長(ジュラ)の息子であり、どちらかと言えば交易で会う事の多い間柄であった。


「久しいですな。アールパード様のご令息がどういったご用で拙宅に参られましたので?」


 トルステンの風貌は、絵に描いたような厳めしい貴族の代表格、といった姿をしている。

 白いものの混じる濃灰色の髪と、口元全体が隠れた豊かな髭。顔も体も実際の数字より大きく見えるほどの威圧感に溢れ、大貴族というより王者と呼ばれる方がさぞかし似合うだろうと思える。


「わざわざお時間を作っていただき、こちらこそいたみいります。ま、固い挨拶という我らでもないかと思いますので、単刀直入に――。本日お会いしたかったのは私ではなく私の連れ。こちらのイーリオ・ヴェクセルバルグの方なのです」


 ジョルトが彼の後ろに控える年若の青年をさした。


「イーリオ……さてもその名、聞いた事がありますな。確か百獣王カイゼルンの高弟で、数々の戦で武功を上げただけでなく、オグール公国の〝聖剣大公〟ヴカシンより聖剣を譲り受けた、あの――」

「ええ、そうです。そのイーリオ・ヴェクセルバルグです」

「おお、まさにそのイーリオ殿か。〝恐炎公子(エルド・フォース)〟の二つ名はこのゴートでも聞き及んでおる。それに、ヴェクセルバルグという姓……。よもやと思うが、貴殿はあのムスタ卿とも所縁(ゆかり)があるのかな」


 不意に出た父の名に、イーリオは少しだけ意外な心持ちになった。とはいえここは幼い頃より育ったゴート帝国。名工として知られる父の名が出てもおかしくはないと思えた。


「はい。ムスタは私の父です」

「そうか、なるほどな。あのムスタの子ならそれもかくありなん、だな」


 イーリオの返事に、トルステン大公は感じ入った頷きを繰り返す。ムスタの子なら、と言わしめるほど父が高名な事に、イーリオは妙な誇らしさと照れ臭さが同居する。


「で、そのイーリオ殿が、私にどのような用があるので?」


 一瞬、ほんの一瞬だがイーリオは目を伏せた。


 ここから先は未知の領域。


 自分の発言でこの大公がどんな反応をするか。下手をすれば何もかもが水泡に帰す可能性さえある。

 それでもやるしかない。

 やる理由はあれど、やらない理由などないからだ。

 そして目的のためなら自分の持てる手札は余さず使う。

 可能な限り、有効な手際で――


「近々、帝国の皇太子殿下が即位され、ご結婚もされるとか」


 思わぬ話題に、トルステンの片眉がピクリと反応した。


「しかしその結婚をされる女性――シャルロッタは、私の婚約者なのです」

「何?」

「私は、婚約者を取り戻したい。そのためにお力添えいただけませんでしょうか、大公殿下」


 こうも直球すぎる発言をいきなりするとは思ってなかっただけに、ジョルトは庇う事も出来ず硬直した。


 おい、何をいきなり――そう言おうにもトルステンの両目は驚きに見開かれてしまった後だ。


「ほ、ほほほ……ふふ、いやいや、いきなり何を申されるかと思いきや、これは思いもよらぬ……」

「どうかご助力を賜りたく存じます、殿下」

「いやいや、まあ待て。少し待たれよ。――そうさな……まずはその話、本当なのか?」

「彼女とは将来を誓い合った仲です。偽りはございません」


 こちらを正面から見据える目は、曇りがない――少なくともトルステンにはそう感じられた。

 詐欺とか虚偽とかをつくような若者にも見えない。

 そもそも、目的は何だ? 本当にこの若者の言っている事が全てなのか?

 だとしたらこれは、なかなかに扱い辛い話になるかもしれないと、トルステンは思考を巡らせる。


「まあ……仮にその話を私が信じたとしても、しかしだ……。皇太子殿下のご婚儀に口を挟むなど出来ると思うか? 古今、洋の東西を問わず見ても、王族皇族に伴侶を奪われるなどの話はままある事。それを良しとするのは騎士の道に反するかもしれぬが、それでも楯突いたところでいかほどの事か。お気持ちは察するが、この隠居同然の老人にしてやれる事は何もないだろう。すまぬな」


 理屈ではある。

 とはいえ、ジョルトは思わずカッとなったし、そんな勿体ぶった言葉を並べられたところで、はいそうですかと引き下がれるはずもない。だからこそ、いきなり直球で目的を言うなんて、とイーリオに対しても思った。


 ところが、その本人は、老大公の言葉に反論するでもなく、むしろ冷静にさえ思える顔で、これを凝と聞いていた。そして襟元に手を入れて、服に隠されていたペンダントを取り出し、首からはずす。


 ――何してんだ?


 トルステンだけでなく、ジョルトもまたイーリオの行動がまるで読めない。

 戸惑う二人を意に介さず、イーリオはペンダントの竜頭を器用な仕草でまわし、蓋を開いた。

 パカ、パカと、開く音は二回。


「何だ?」


 トルステンの言葉と共に、イーリオはペンダントを手に乗せ、見えるように前へ出した。

 老大公の目が、おもむろに出された首飾りに吸い寄せられる。

 目に飛び込んだのは、とある紋章。

 ツノの生えた狼。その両隣りにオオツノヒツジを侍らせて――。


 トルステンの目が驚愕に見開かれる。


 この帝国で、知らぬ者のない紋章――ゴート帝国の国章。

 だが全体的に、少し違った。

 それもそのはず。これは限られた者だけが知る、秘紋の形象が施されたものだからだ。

 帝国を表す意匠はこれに酷似しているが、まず狼の形が違っていた。ペンダントのものは、タテガミのように首周りが大きく逆立ち、何よりツノが光っていた。

 ツノの部分には宝石のトルマリンが嵌められているのだ。それを許されるのは、皇帝とその一族のみの――


「ホルス・ハルヤ……!」


 呻くように呟いた後、トルステンは絶句した。


 ゴート帝国皇帝家の中でも、皇位継承者資格者(・・・・・・・・)のみが持つ事を(・・・・・・・)許された(・・・・)至尊の紋章。


 限られた者にしか知られていない高貴なる者の証。

 イーリオは、そのままペンダントを差し出した。


「はい、ゴート帝国皇帝家の証、皇帝紋ホルス・ハルヤです」

「何故、これを……?」


 言いながら既に理解していた。

 その噂は、トルステンの耳にも届いていたからだ。

 生きているという、その噂。


「私の名は、イーリオ・ヴェクセルバルグ。……けれどその名を付けられる前、別の名で呼ばれていたのです。その名が――」


 ジョルトも固唾を飲んだ。

 何が起きているか、彼は一人理解していなかったが、何かとてつもない事を、イーリオは言おうとしている事だけは分かった。

 そう、ジョルトは知らないのだ。

 イーリオの出自を――



「オーラヴ・ゴート。ゴート帝国皇子オーラヴ。それが私の、もう一つの名前です」



※※※



 寒風が吹きすさぶ中、ぐるりと取り囲まれた怪盗騎士ゼロ=オルクスは、まさに万事休すの状態だった。


 いくら初春間近とはいえ、ゴート帝国でも北部域までくれば、寒さは大陸中部の冬空と変わらない。辺りは白い雪原だし、いつ吹雪がきてもおかしくないほどに天候はぐずついている。

 まばらな原生林が点在する北辺。見渡した敵騎の数は、ざっと三〇騎はあろうか。


 お宝を盗んだところまでは良かったが、屈強で知られた帝国北部域の警護は、さすがに彼の跳梁を許してくれなかったようだ。追いつめられ、もはや剣を抜かざるを得ない状況であるが――彼は剣を抜けない。


 過去に起きた心の傷が原因で、ゼロは戦おうとすると手足が震え、呼吸も大きく乱れてしまう。その事が分かっているだけに、この状況はまさに絶体絶命と言えた。逃げ場を見出そうにも、雪中の戦いに長けた騎獣が多く、隙がない。

 既に逃げ切ろうとして、今に至るのである。


「賊め、盗んだものを返してもらうぞ」


 囲んだ内、アイベックスの騎士が言った。

 クロヒョウの鎧獣(ガルー)の中、ゼロの首筋を伝う嫌な汗。

 周囲に目を走らせる。思考を全力で回転させた。何とか自力での突破口を見出そうとする。

 だが、自力での糸口が何もない。


 その時だった――。


 ぎゃっ、という悲鳴が上がったかと思えば、囲んだ一団の二カ所から鎧獣騎士(ガルーリッター)が次々に吹き飛ばされ、包囲網が崩れはじめたのである。


 二つの影がリズミカルに踊るたび、倒れる敵の数が増えていく。一方は猛烈な勢いで。もう一方は凄まじい速度で。

 ゼロが呆気に取られる中、気付けば帝国騎士の一団は、全員がその場で倒れ伏していた。


 その中に並び立つ二騎の影。


 しばし呆然となったが、身の危険が去った事にゼロは安堵の笑みを漏らした。


「いや、助かったよ。あんたらに頼んでおいてほんとに良かった」


 一騎は狼――いや、口吻の形、太い牙、目つきなど、どちらかと言えば古い種別の巨大なイヌ科に見える鎧獣騎士(ガルーリッター)


 もう一騎は全体が丸みを帯びた体つき(シルエット)に、尻尾までコロコロした姿。厳めしさより愛嬌さえ感じられる見た目は、およそ戦場に似つかわしくないとさえ思える。


 両者が鎧化(ガルアン)を解除すると、出てきたのは男性二人。

 一人はひょろ長く、上背がある。もう一人は成人にしては低めで妙に特徴的な顔をしていた。


「まあ任せてくれよ。こういう荒事は俺達向きだからなあ。なあ、サイモン」

「ああ。どっちでもいいが、俺は貰えるものさえちゃんと貰えれば何でもいいぜ」

「ん? ちょっと待て。お前今、カッコつけた? 何かカッコつけた?」

「つけてねーわ。支払いを確認するのは当然だろ? こういう稼業なんだからそういうのはキッチリしなきゃいかんだろうが」

「いやいやいやいや。支払いって。貰えるものさえ貰えれば~って違うじゃん。お前、そういうんじゃないじゃん」

「何がだよ」

「いつもはホメられたら、いやぁ~どうもどうも、ってピョコピョコすんのがお前じゃん」

「ピョコピョコって何だよ。ピョコピョコって。なに人を穴から出てきたプレーリードッグみたいに言ってんだよ」

「そうそう。大きさ的にはお前にピッタリ、プレーリードッグ」

「そんなチビじゃねーわ!」


 いきなりはじまったやりとりにどこで口を挟もうかと思ったが、合いの手を出すタイミングが掴めず苦笑する。それよりも自分がまだ鎧化(ガルアン)している事に気付き、ゼロは白煙をあげて姿をさらす事にした。

 右目に片眼鏡(モノクル)。目の前の二人よりも若い貴公子然とした男が、微妙な笑みを浮かべていた。


「ま、まあまあ、支払いはきっちりするさ。そこんとこは信用してくれ。あんたら二人のお蔭で、こうやってお宝も手に入ったしよ。取り分は最初に言った通り六・四。俺はこの〝悲しみの首飾り(ガルパの悲宝)〟さえ貰えりゃあとは好きな宝石を選んでくれていいぜ」


 そう言って、盗品の入った革袋から、豪奢で古めかしい首飾りを抜き取ると、残りを渡すゼロ。

 二人はニヤリと笑い、それぞれ宝石を手にとって頷きあった。


「さすが怪盗なんて名乗るだけあるな。そういうきっちりしてるところ気に入ったぜ」

「ほんとそれ。俺達サイモン&エドガーの座右の銘は、〝健康優良悪党稼業〟だからな。健康的かつ健全に、まっすぐと悪い事をする。アンタも俺達の仲間に入るか? ゼロ&エドガー&サイモンってよ」

「おいちょっと待て。何でしれっと俺が最後になってんだよ。それ言うんならゼロ&サイモン&エドガーだろ。何気に俺を最後に回すな」

「みみっちいなあ。順番なんてどうでもいいじゃん」

「いや、みみっちいのはお前だろ?! 何、涼しい顔して言ってんの?」

「そんな小姑みたいに細かい事言うから、心の器と一緒に体の器も小さくなるんだぜ」

「体の器って何だよ。人を午後のティーカップみたいに言うな!」

「あー、いいじゃん、午後のティーカップ。お前ならゼロさんのこの革袋にも入れるんじゃね? そしたらコンパクトに運べるだろ? だったらやっぱりゼロ&エドガー&サイモンだな。お前一番コンパクトだから」

「そこまで小さくねーわ!」


 背がひょろっと高く、短く濃い髭とモシャモシャ頭をしている方がエドガー・フロスト。

 オオカミよりも巨大な野太い牙を持つ古代絶滅犬種の鎧獣(ガルー)饕餮犬(ボロファグス)を駆る。


 もう一人、小型犬のようにクシャっとした何とも言えない顔つきをした背の小さい方の名が、サイモン・ベック。

 丸っこくフカフカした、およそ戦闘向きとは思えない鎧獣(ガルー)を駆るのだが、見た目で言うならまるで巨大化したアライグマかタヌキようだった。実際にそれは正しく、サイモンの駆るのも古代絶滅種。

 古代巨大(ジャイアント)アライグマ(・アライグマ)と呼ばれる種別である。


 ゼロはひょんな事で二人と出会い、今回の盗みの仕事の荒事部分を任せる事にしたのだが、噂以上に二人の腕前は相当なものだった。


 海を隔てたカレドニア王国。そこで名の知れた二人組の強盗〝サイモン&エドガー〟。


 貴族や王族ばかりを狙って荒らしまくり、下々には手を出さないが、その手口はまるで台風が来たかのように手がつけられないという。だが、下々には手を出さないというところが気に入り、ゼロは今回の盗みの協力者に、彼らを雇ったのであった。


 とかくこのゴート帝国というところは、警備が厳重なところがほとんで、配置された騎士も手だれが多い。なので、いざという時の保険をどうしてもかけておく必要があった。


「……仲間入りはともかく、次の仕事はあの帝都ノルディックハーゲンだ。当分世話になるから頼むよ、お二人さん」


 止む事のない掛け合いに顔を引き攣らせながら、ゼロは捉えどころのない二人に改めて言った。

 小型犬のように小憎らしい愛嬌を滲ませ、サイモンが指をさして微笑みで返す。


「任せときな。このサイモン様がいれば、ゴートだろうが何だろうが怖い思いなんてさせねーよ」

「フゥ~! 言う事カッケぇ~♪ 見た目コッケぇ~♪」

「誰が滑稽だ! シバくぞ!」


 これは放っておくとどこまでも続きそうな気がして、頼んだのが正解だったか失敗だったか、若干の不安が膨らまざるを得ないゼロ・ゼローラであった。

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