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銀月の狼 人獣の王たち  作者: 不某逸馬
第三部 奪還編 序幕〈プロローグ〉
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第三部  序幕〈プロローグ〉

第三部開始を前に、前夜祭的にプロローグが入ります。


 その少年を見た時、彼女は時が止まったような、または落雷に打たれたような、今までの長い時間の中で(・・・・・・・)、初めての衝撃を感じた。

 少年の事は、幼い頃より知っている。それこそ、生まれる前からずっと。

 けれども奇禍に見舞われ、とうの昔に命を失ったと思っていた。が、どうやら彼は運良く生き延び、再び宮殿に姿を見せたのだという。


 少年――と言ってもまだ幼児も同然の幼さだ。

 実母にあやされる姿は、寂しげで悲しげで、とてもひ弱なものだった。

 しかし彼女には分かった。確信した。瞳の色や髪の色などではない。彼女の中にある膨大な情報から導き出された答えにより、紛れもなく少年こそ〝そう〟であると訴えていたのだ。

 ……いや、そうに違いないと〝直感〟したに過ぎなかったのかもしれないが。

 ともあれ――


 彼こそ内なる魂の最適者。

 果たせなかった約束の主。

 〝世界の開拓者(ヴェルト・ピオニア)〟にして〝王たちの王〟。


 そのように結論付けた。

 その時から、彼女の目的はひとつになった。

 少年を導く。

 果たせなかった約束を叶えるため、少年を正しい道に導く(・・・・・・・)。それに全てを注いだ。


 〝あれら〟も本格的に暗躍しているようだが、真なる〝世界の開拓者(ヴェルト・ピオニア)〟は少年をおいて他にない。例えもう幾年(いくとせ)も〝あれら〟と繋がっておらずとも、彼女の確信は揺るがなかった。そしてそれは、月日の重なりと共に益々確信を強めていった。


 だが、予想外の出来事が起こる。

 認められるはずの儀式。

 叶うはずの契約が〝巫女〟によって拒絶されたのだ。


 いや、確かにその可能性がないとは言い切れない。

 遺伝的因子において、その可能性を孕んでいる事は十二分に承知している。

 しかし肉体などただの器。

 本質は重なり合うカタチ(・・・・・・・・)にこそあるのだ。

 そして彼こそ、その意味において最も〝選ばれるべき存在〟だと、彼女は確信していたのに。


 そんな馬鹿な。

 彼女は狼狽える。

 何度も計算し直す。

 だが導き出される結果は同じ。


 ――理解不能。


 有り得ない。

 少年以外にないのだ。

 巫女が覚醒の兆しを見せたのも、それを裏付けるものだったのではないのか。

 そこでひとつの仮説をたてる。

 狼――。

 巫女を守護するためだけに製造(つく)られた、紛い物。

 あれが邪魔をしているのではないのかと。

 事実、〝扉〟に至るには、原初たる狼が必要なのはわかっていたが、それは狼でなくとも良かったはず。だから彼女は、少年に〝もうひとつ〟を授けるよう、根回ししたのだから。

 だがもしも、長い年月の中で巫女と紛い物が何らかの並列的な繋がりを持ったのだとしたら、どうだろう。突拍子もない発想だが、それ以外に考えつかない。

 模造騎を継承したがゆえに、狼が少年を認めず、巫女も認めなかったのだとすれば――。


 となると、約束を果たせなくなってしまう。


 彼女はそう考えた。

 駄目だ。そんな事は許されない。私は誓ったのだ。今度こそ必ず、想いを成就させると。


 ならば狼を処分すればいいのでは?

 駄目だ。万が一巫女との繋がりが事実だとすれば、どのような状態にあるか今の彼女では(・・・・・・)分からない以上、下手に抹消すれば巫女にどのような負荷がかかるか予測がつかない。しかしこのままではどうしようもない。出自がどうとか、そんな下らない事などどうでも良かった。問題はこの(おもい)だ。

 だから彼女は、万に一つの賭けに出て、誰も考えつかなかった行動に出たのであった。


 不完全な覚醒のまま、巫女を無理矢理に起動させる――


 そうして、紛い物の狼を疲弊させ、繋がりを断ち切る事が出来れば――


 結果として、彼女の思惑は目論見通りになる。


 偽りの適合者と共に次々に〝扉〟を開け、徐々に巫女と狼の繋がりは薄れていった。

 やがて巫女は完全なる覚醒の一歩手前にまで至り、今ではこの手の中に収める事が叶った。


 遂に――


 遂に――


 報われる時が――


 夢見た約束を果たせる時がきたのだ――


 夢?


 夢か……。


 そんなものを自分が見るなんて、思いもよらなかった。

 まさか自分は、同じ人間になったというのだろうか?

 それもいいかもしれない。

 もう時間は残されていないのだから。


 でも、必ず叶えてみせる。


 嗚呼……ロムルス。


 貴方こそ、ロムルス。

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