表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀月の狼 人獣の王たち  作者: 不某逸馬
第一部 第二章『白虎と銀狼』
27/743

第二章 序幕<プロローグ>

 秋雪の淡雪が、風に舞っていた。

 高原の向こう、切り立った断崖の下では、まばらに降る雪が吹きすさぶ風によって、掻き混ぜられた粉末のように舞い踊っている事だろう。だが、今のイーリオに、そのような感慨にふける余裕はない。


 立ち上がれない。


 ザイロウの治癒が追いついていないのだ。

 イーリオの焦燥が伝播したのだろう。彼と共に、鎧獣(ガルー)のザイロウまで、歯ぎしりをする。手にしていた授器リサイバー〝ウルフバード〟は、目の前に転がっている。〝奴〟の一撃で、手元からはじかれたのだ。やがて、両足に血が通う。斬られた脚部は、既に回復していた。

 立ち上がるイーリオ=ザイロウ。

 だが、時間がない。既に多くのものを失った。ドグは地に伏し、その近くでレレケは控えているも、こんな多勢に無勢では彼女もどうしようもない。それに、シャルロッタ。

 彼女は敵の手中にあった。だが、その手は届かない。

 この、ザイロウの力をもってしても、敵わない鎧獣(ガルー)


 敵は、西方に言うところの円月刀に似た形状の剣を肩に乗せ、余裕の構えで銀狼を見つめていた。その氷のような氷雪蒼アイスブルーの瞳は、体にまとった同色の授器リサイバーと同じく、この景色そのものを支配しているかのようであった。


 ゴート帝国帝家鎧獣(ロワイヤルガルー)


 美しく逞しい、白虎の人獣騎士。


 〝ティンガル・ザ・コーネ〟。


 別名〝氷の貴公子〟。


 帝家鎧獣ロワイヤルガルーとは、その国の王家王室の代表がまとう鎧獣(ガルー)であり、決してその国最強というわけではない。旗印である旗幟鎧獣(フラッグガルー)である事は紛れもないのだが、王室の人間が最強の騎士であるはずもなく、あくまで国家武力の象徴として認知されていた。だが、象徴であり、その国の王家が駆る鎧獣(ガルー)なのだ。畢竟、非常に優秀で、強力な鎧獣(ガルー)帝家鎧獣ロワイヤルガルーとなる事が、常であったのも間違いない。

 そして、この〝ティンガル・ザ・コーネ〟こそ、ゴート帝国のまさしく武力の象徴であり、近隣諸国に広く名を知らしめた、帝国屈指の鎧獣(ガルー)であった。


 そのティンガルが、今、イーリオ達の目の前に居て、行く手を阻んでいる――。

 いや、嬲り殺しにしようというのだろう。


 こちらの獣能フィーツァー千疋狼タウゼントヴォルフ〟でさえ効かなかったのだ。その力は間違いなく、帝国最強というに相応しいものであった。

 だが、感嘆ばかりもしていられない。

 この帝国最強を、今まさにこの場で、打ち倒さなければならないのだから。


 ティンガルから、声がした。


「どうした? そんなものか?」


 ―― 一体、どうしてこうなった?


 ザイロウとシャルロッタを狙っていたのが、まさかこの国の最高権力者だったとは――。

 そして、その最高権力者自らが、あり得ない事に、イーリオ達の目の前に佇立していた。

 イーリオは、大地に転がる己の剣を手にし、再び構えを取る。


「来ないなら、こちらから行くぞ」


 ティンガルは、大地を蹴って、一気にイーリオ=ザイロウに肉迫する。その手からは、剛剣が繰り出された。一合、二合、三合――防御で手一杯だ。

 分かっている。この差は、鎧獣(ガルー)の差ではない。駆り手である、騎士スプリンガーの実力差だ。片や、幼い頃より武芸を仕込まれた、興武の帝国の皇太子。片や、山中で育った錬獣術師アルゴールンの息子。身分の貴賤などではない。積み重ねた日々の違い。それがそのまま、二体の差となって表れていた。

 このままでは圧し負ける。

 何とか反撃の糸口を掴もうとするも、流麗で苛烈な剣さばきは、その余裕すら与えない。

 再び強烈な一撃。

 荒れ野を転げ、天然の大理石が、切り立った顎を除かせる断崖の際まで吹き飛ばされる。今度は、体を斬られる事はなかったが、文字通り逃げ場はない。背水の状態である。


 ゆっくりと近付くティンガル。

 それをまとうは、〝氷の皇太子(イクプリンス)〟ハーラル。

 イーリオは立ち上がるも、何も為す術がない。


 戦意を失った相手に慈悲などいらぬとばかりに、無造作に剛剣を跳ね上げる。

 人狼の手から、その剣が吹き飛ばされ、断崖の下へと落ちていった。


「終わりだ」


 死の宣告は、虎頭人身の騎士の姿をしていた。


 人虎の剛剣が、振り下ろされる――。

いよいよ第二章のはじまりです。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


「面白いよ!」


「え? これからどうなるの?! 続きが気になる」


と思っていただけたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願い致します!


面白かったら☆五つ、つまらなかったら☆一つ、正直に感じた感想で大丈夫です。


ブックマークもいただけると本当に嬉しいです!


何卒、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おお。気になるシーンからのスタート。上手いですね。 ここまでに何があったのか…。
[良い点] 第一章読み終わりました! キャラクターたちが出そろい、ザイロウの獣能も解放されて、さぁ物語が始まる…!!と思ったら第二章のプロローグでハーラルにこてんぱんにされていて急展開にびっくりでした…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ