第一章 幕間〈エピローグ〉
まるで、竜巻が去った後のようであった。
かつて、近隣を震え上がらせた〝山の牙〟のアジトであった面影は微塵もなく、そこには、無法者達の無惨な末路が残されているのみだった。
ぽつり、ぽつり、と天空からの雫が落ちてくる。
秋の雨はタチが悪い。山に居るのなら、すぐに安全な場所に行くべきだろうが、その女は、雨の事などまるで意にも介さず、ゆっくりと瓦礫を見て回った。
破壊の殆どは、あの熊の鎧獣によるものだろう。
だが、瓦礫が避けるように、ある一部分だけぽっかりと空いた箇所がある。そこに横たわる、焼け焦げた巨躯は、件の熊の鎧獣のもので間違いなかった。
――〝目覚めた〟のね。
女は長い睫毛を伏せ、静かに思いを馳せる。
伝説は語る――。
懐郷の夜の日、
そなたの眠りは終わりを告げた。
目覚めよ、獣たち、
斃れたる戦士たちよ!
目覚めよと呪文を唱えて、
そなたたちを呼び出さん!
窓の向こうには、
おお! 虹の幕がかかる!
祈りては今こそ、
願いは永遠に叶えられん!
始まりの日よ! 始まりの日よ!
今こそ懐郷に帰らん!
古い詩を思い出し、女は薄く笑みを浮かべた。口元は美しい三日月型だったが、禍々しさは、その美しさを際立たせるものでしかなかった。
これからの事を夢想すると、女の全身は、えも言われぬ悦びに満ち溢れてくるようだった。
傍らには、女と同じ、夜よりも深い昏黒の獣。その姿は、闇に紛れて定かではない。
エッダは、恍惚とした表情を浮かべて、雨脚の強くなった空を見上げる。
――そう! 今こそ始まりよ!
その瞳に映るのは、少女の闇か、少年の光か――。
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