表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀月の狼 人獣の王たち  作者: 不某逸馬
第一部 第四章『黒き獣と灰堂騎士団』
103/743

第四章 第八話(5)『棘戦棍』

 姿を見せたのは、黒灰色のローブを纏った人物だった。

 モンセブールのガグンラーズとセンティコアの一戦が終わり、ドグが森へと足を踏み入れようとした矢先、叢を揺らして表れたのは。

 黒灰色の後ろには、同色のローブがもう一人。

 先に表れた一人が、声を出す。


「使徒を二人も倒すとはな……」


 呟きがドグやリッキー達にも聞こえてきた。

 二人? 使徒と言えば、さっきのジャコウウシの駆り手の事だろうに、二人とはどういう事だ? 不審に思うリッキーらを余所目に、ローブで全身を覆った人物は、再び続けた。


「メルヴィグの走狗どもよ。フォッケンシュタイナーの娘は頂いた。これでもう、貴様らに打つ手はない」


 一同に戦慄が走る。フォッケンシュタイナーの娘と言えば、レレケの事ではないのか――?! どういう事だ?


「そうさな、今日の借りは近いうちに必ず返す。今はせいぜい、ひと時の安寧を味わっておけ」


 前に出たローブが、不気味なほどの陽気な声音で告げると、後ろにいるローブ――一際背の高い――が、ボソボソと呟いた。


「オレなら、こんなヤツら……今スグ、消せる」

「焦るな。貴公の出番はここではない」


 ローブ達のやりとりに、リッキーが激昂した。


「てメェら、どーゆー事だ?! レレケをどーしたってんだ、アァン?!」


 リッキーを制したのは、意外にも伍号獣隊ビースツフュンフ 主席官エアスタールドルフであった。前に出、片手を翳す。だが同時に、ホワイトライオンの鎧獣ガルー、ガグンラーズも前に出ていた。


「それで? 我々がみすみすこのままお主らを逃がすと思うか?」


 純白の獅子が緊張感を強くする。今にも飛び出しそうな勢いだ。


「やれやれ……。こちらがわざわざ見逃してやろうというのに」


 言葉とは裏腹の陽気な口調で呟いた後、背の低い方のローブが、片手を翳した。と、後方の長身のローブが、頭部を覆い隠すフードを取る。

 表れたのは男。

 顔中に裂傷の跡が残る、厳めしい顔つき。歴戦の傷跡とでもいうのだろうか。赤銅色の肌と相まって、息を呑む迫力を醸し出していた。

 男は、両腕を大きく広げると、何の躊躇いもなく、「白化アルベド」と叫んだ。

 いきなり白煙があがる。

 咄嗟にルドルフも、「白化アルベド」と告げた。

 両者の白煙が掻き消えると同時に、人獣の騎士となったガグンラーズに、巨大な〝何か〟が突進してきた。


 轟音をあげ、吹き飛ばされるガグンラーズ。


 先ほど、あのジャコウウシとの一戦ですら、吹き飛ばされる事はなかったのに――。


「兄上!」


 カレルが叫んだ。

 吹き飛ばされた先の瓦礫を押しのけ、ガグンラーズが立ち上がる。その見据える先にいるのは、雄牛の人牛騎士。


 ジャコウウシではない。筋肉質の黒い体表。

 角は少し似た形状だが、より鋭利で逞しく、バイソンやジャコウウシよりも、力強い体躯をしていた。手には先端が棘付きの球体が付いた戦棍メイス、いわゆるモーニングスターを持っている。


 漆黒の人牛騎士、いや、その姿はさながら人牛闘士というべきか――。


「もういい。そこまでにしよう」


 もう一人のローブが、人牛を制した。


「何故、だ?」


 片言で、人牛がローブを睨みつける。


「〝彼奴〟の命で来たわけではあるまい? 貴公がいるのは偶々だ。お互いもっと大事な任務があるだろう」

「ついで、に、コロしても、イイ」

「今は止せよ。ここにいるのは、このホワイトライオンだけではないぞ。もうすぐクダンをやった、銀狼の孺子こぞうも来る。それにまだ、隠れている(・・・・・)ようだしな」

「構、わない。みんな、オレ、一人で充分」

「まぁなぁ、お前さんならやってのけるだろうがな。……ま、あの女の護衛もある。〝彼奴〟のためにも、今はここまでにしておけよ。な? 〝彼奴〟ならきっと、同じ事を言うぜ」


 ローブの言葉に、渋々といった態で、人牛は頷き返した。


「待て……見逃すと思うか」


 立ち上がったガグンラーズが、跳躍をかけようとすると、人牛がモーニングスターで、地面を強く叩いた。

 有り得ぬほどの膂力。地面が抉れ。土塊が巻き起こる。それはさながら、さきほどのジャコウウシが見せた、爆発する角の獣能フィーツァーと同程度の威力を誇っていた。

 ただの一振りが、である。

 土塊に視界を防がれ、その場に居る全員が立ち竦んだ。

 パラパラと土砂が落ち、土煙が晴れた頃――。



 そこにはあのローブと、人牛の姿はいなかった。


 まるで雲か霞にでも身を隠したかのように。



 リッキーもカレルも、ほぞを噛むような思いであった。

 いいようにあしらわれ、気付けば姿がいない。

 そして対戦したルドルフは――無言のまま、消えていった強敵の姿を見つめていた。その白獅子の瞳に映るのは、何であろうか。それは彼にしかわからなかった。

 だがそこにいる全員に共通してわかっていたのは、今の二人――少なくともあの人牛の鎧獣騎士ガルーリッターは、桁外れの脅威となって、彼らに立ちはだかってくるだろうという、確信に近い予感であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ