ダメ冒険者製造器、開戦
弩砲騎士達が拠点とするビル群は、アキバから多少離れた位置にある。
とはいえ、何日も距離がある訳ではない。
あまりに距離がありすぎるとアキバへの移動が困難となり、彼らの本分であったPKをするためのポジショニングが出来なくなるからだ。
だが、アキバから簡単に訪れることが出来る様な場所ではダメだ。
アキバの大手ギルドや報復を狙う者、あるいは他のPKに攻め込まれてしまっては、如何なPKの達人が揃っているとはいえ〈大地人〉を守りながらでは有効な戦術が望めない。
そのため、元々のリーダーであった機巧侍がここを拠点とする時、集落の〈大地人〉と話しあい、全てのビルに周りの森林や廃墟と溶け込むカモフラージュを行っていた。
さらに言えば、他の〈冒険者〉から繋がりの不明瞭差から対応の難易度を上げるため、弩砲騎士の指示でギルドを解散し、あえてギルドホールとしてのゾーンの購入―ここのビルのゾーンは非常に安い―もしていない。
死亡した場合はまだ知名度の低いメンバーを使ってアキバを隠れて脱出できるルートを確保し、行動する際は必ず1PTのみが動くというルールを徹底することでアキバ側の知名度の高い弩砲騎士以外のメンバーの把握や追跡も困難にさせている。
それだけ厳重に気を使って拠点を隠していても、〈D.D.D〉の麗沙にバレた―弩砲騎士がバラしたとも言う―以上、その努力の大半は無に帰しているのだが。
「うーん、今日も良い天気ね!」
「そうですね」
今、麗沙とミカ、そして弩砲騎士は集落とアキバのちょうど間の道を歩いていた。
元が現実の世界をモデルに構築されたエルダーテイルとほぼ変わらないこの世界では、劣化しているとはいえ現実世界の道路が今も使われる街道として残っている―という設定―ため、アキバに向かって真っすぐ歩くこと自体は苦でも何でもない。
むしろ、良くあるファンタジーの世界と比べれば建物も道も揃っている分、非常に移動が楽だ。
それはこの世界の住人たる〈大地人〉達もそうなのだろう。道の途中に見える小さな神代の建物を休憩所代わりに使っている姿が、この世界では度々見られた。
アキバに行くために街道を真っすぐ進む限りは、非常に低いレベルのモンスターとしか出くわさない。
正直、防御特化の二人でも盾で殴れば死ぬくらいのエネミーである。
「ふむ……護衛はいらなかったんじゃないか」
「えーなにそれ?そんなにアキバに行くのが嫌?」
「何とも言えんな……」
弩砲騎士は曖昧に答えると、鎧を鳴らしながら街道を歩く。
街道に出るのは実に数週間振りである。
シャバの空気が旨い……とまでは言わないが、PKの時は周辺のフィールドで網を張るのが普段であった。
故に、こうも開けた場所をただ歩くのは何となく新鮮な気分である様に思えた。
「もう!はっきりしなさい!」
「む……」
「アキバが見えてきました」
麗沙の言葉に、他の二人が前を見た。
街道の前方に、アキバの建物が小さくちらついている。
意外に短い旅程にほーっとミカが息を吐く横で、弩砲騎士が自らの弩砲に矢弾を装填しはじめた。
「なにしてるの、どほーさん?」
「PKにとってアキバの入り口はだな、獲物が確実に通る絶好のポイントだ。カモがネギしょってくるのと同義でな。少人数であるこちらなら、尚更狙ってくる連中もいるだろうよ」
いつしか〈大災害〉と呼ばれる様になったあの混乱が徐々に回復し、治安が安定して来ているとはいえ統治機構も法も無いアキバに安心できることは無い。
精々が先ほどから誰かに到着を念話している麗沙に期待する程度だ。
「出来れば先手を取りたいが……」
「居ないかもよ?」
「それなら俺も嬉しい。腕が鈍ってるんでな」
「腕が鈍ったくらいで遅れを取る様な人では無いでしょう」
「買い被るな。ゲーム以来の親友に見限られた人間だぞ」
「ま、それで落ち込んでたの?大丈夫よ、私がいるじゃない。あ、よしよししてあげよっか?」
「いや……うむ……」
切実な弩砲騎士の声音に思わず麗沙が笑みをこぼすと、飛来してきた矢を左手の盾で防ぐ。
同時に、二人の前に飛び出すと矢が飛んできた方角に向けて〈アンカーハウル〉を発動させタウント。
背後の二人に警告の声を発した。
「予想通り来ましたね。PKです」
「予想通りすぎて不安なくらいだ。アキバも荒れすぎじゃないか?」
「その一旦を担っていたのは誰ですか?」
「ふん、ならその一旦としての力を見せてやるよ」
言うが早いか、弩砲から鉄の矢が射出され当てずっぽうらしい位置に適当に放たれる。
これは牽制だ。種族に〈ヒューマン〉を選択した弩砲騎士の視力では、スナイパー程の遠距離を認識することが難しい。
だから、あぶりだす。
「どほーさん、もう少し奥を狙って」
「見えるのか?」
「まぁね。麗沙さんもわかるでしょ」
「ええ」
言ってから麗沙が軽く鼻をひくつかせる。
〈狼牙族〉である麗沙は鼻が効く。そして、それは同じ種族であるミカであっても違いは無かった。
「俺もヒューマン以外にすれば良かったかな」
「今更言っても仕方の無いことですよ」
「私が目の変わりね!」
「頼むぜ」
矢を射ってきたスナイパーは見えず。
しかし、おそらくそのスナイパーと組んでいるのであろう他の〈冒険者〉達が姿を現していた。
6人フルPTとして設定されているこの世界にしては少し人数が多い。
PK達は数の優位を確信している優秀な者達だ。
だがそれもまた、弩砲騎士と麗沙の予測の範疇を超えることでは無かった。
──戦闘開始だ。




