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狂った騎士の夢  作者: F
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ダメ冒険者製造器、アキバへ

「〈クレセントムーン〉?」


 夢見る弩砲騎士の疑問の声に銀髪の令嬢、†麗沙(れいしゃ)†は頷いた。


「はい。今、アキバで話題になっている軽食販売の屋台です」

「ほう?」


 弩砲騎士が興味を示したのを見て、麗沙は言葉をつづける。


「〈三日月同盟〉というギルドが出店しているのですが……」

「〈三日月同盟〉……?聞いたこと無いな」

「中堅どころのギルドですよ。マリエールという方がギルドマスターをつとめています」

「いや、知らんな。それで、その屋台がどうしたって?」

「ああ、はい。その〈クレセントムーン〉で販売されている品なのですが」


 ここで麗沙は一呼吸おき


「味があるんです」


 だが勿体ぶった言い回しに特段と反応したのは、弩砲騎士ではなく、彼の傍らで家事をしていた、セーラー服の少女ミカだった。


「味があるの!?」

「はい。飲み物にも味があるので、この……」


 と麗沙は手元のオレンジジュースを指し示しつつ


「味のあるジュースの作り方を知っているミカさんなら何か知っているのではと思いましたが、その様子では知らないようですね」

「ええ~?だってこのジュース、果物をただ絞っただけよ?素材そのままなんだから味があるに決まってるじゃない!」

「これ、ただ絞っただけなんですね」


 麗沙は多少失望した表情を見せながらも、オレンジジュースを上品にこきゅと飲み続ける。

 しかしミカはそんな麗沙のリラックスタイムすら粉砕する勢いで彼女に詰め寄ると、その肩を掴んで揺らし続けた。


「ちょっと、あの」

「ねぇ、麗沙さん!私も!私をアキバに連れてって!」

「わか、分かりまし」

「お願い!」

「だから、分かったと言っているじゃありませんか!!」

「あ、ごめんなさい」


 ミカがパッと手を放すと、麗沙が少し憔悴した顔でまたジュースを口に含む。


「はぁ……元々ミカさんをアキバに連れていこうと思っていましたからね。ちょうど良いです」

「む……?何故だ」

「何故もなにも。ミカさんのリスポーンポイントをアキバに設定するためですよ」

「ん?ミカさん、リスポーンはどこに設定されてる?」


 弩砲騎士がミカを見ると、ミカは今まで考えもしなかったという顔でメニューを開いた。

 ミカはしばらくキョロキョロと探して


「えーと……フジ?」

「ゴフッ!」

「うわ、きたねぇ!」

「カモガワぁ、少し落ち着けよぉ」


 話に聞き耳をたてていたカモガワがジュースを噴き出す。

 慌てて布巾を持ってきたミカが床を拭いていると、信じられないものを聞いた口調でカモガワが喋り出した。


「フジっつったら、フジレイドじゃないッスか!あそこのリスポーンポイントって樹海ッスよ、樹海!高レベルのフジ樹海ダンジョン!」

「何……?」


 弩砲騎士が汚れたカモガワからミカに視線を移すと、ミカは少し照れた様に話を始めた。


「んーと、私が〈大災害〉?にあった時、私ね、フジの樹海にいたんだ」


 それからポツポツと、ミカはこの世界に来た当初のことを振り返る。


「多分、ログインの時にそこにいたんだと思う。目が覚めた時はひとりでそこにいて……」

「良く一人で出てこれたッスね」

「偶然、私を見つけて助けてくれた人達がいたから。ほら、どほーさん達と最初に出会った時に私といた……」

「ああ、俺らがPKしそこねた奴なぁ」


 ニコがポツりと漏らした言葉に、麗沙が非難がましい目線を周囲に送る。

 ミカに頼りきって堕落した元PK達は、揃って目をそらした。


「私ひとりだと何度も死んじゃったから、あの人達に見つけてもらったのは運が良かったのね」


 最初にミカと出会った時、既に全身の装備がボロボロだったのを弩砲騎士は覚えている。

 フジレイドは、フジ樹海のダンジョンを越えた先にあるレイドゾーンだ。

 その入り口はフジ樹海のど真ん中に設定されており、遊び半分で中堅以下のプレイヤーが立ち入ると出るのも苦労する。

 そんな場所で、しかも〈大災害〉直後の何も分からない状況となれば、リスポーンポイントである安全地帯から出ることもままならなかっただろう。


「まぁ、そう言うことですので可及的速やかにミカさんをアキバに連れていきたく思います」

「そうだな。それなら仕方ない」

「アキバに行けば、〈クレセントムーン〉だけじゃなくミカさんを助けた……アーマンフィさん達にも会えると思いますよ」

「ホント?やった!」


 ミカはきゃっきゃっとひとしきり喜んだあと


「それじゃあ、早速行く準備をしましょ、どほーさん!」

「え゛、俺も行くのか」

「どほーさんが私をここに連れてきたんだからね!責任を取って保護者をして貰わないと!」

「む……だが、PKの俺が街に行ってもややこしくなるだけだと思うのだが……」


 そう言われると返す言葉の無い弩砲騎士は軽く頭を抱えながら麗沙に助けを求める。

 麗沙はひとつ頷くと


「私が捕まえたPKということにしましょう」

「余計状況が悪化しないかそれは」

「この際なんでも良いんですよ。そもそも護衛も必要ですしね」

「お前のギルドから出せばいいだろう」

「この場所(集落)を教える訳にはいきませんので」

「律儀な奴だ」

「騎士ですから。名前だけの貴方と違って」


 ふん、と弩砲騎士は麗沙を鼻で笑うと、ホールで堕落しきった仲間達を視界にいれた。


「しばらく留守にするぞ」

「うーッス」

「いてらー」

「ミカちゃんいないと死んじゃうから、なるべく早く帰ってきてくれ」

「お前ら……」

「ニートの集団ですね」

「狩りぐらいには行ってくれよ」


 溜め息を着くと、弩砲騎士は立ち上がった。

 麗沙も弩砲騎士に着いて、ホールの出口へ向かう。

 そこへパタパタとミカが合流してくれば、準備は完了だ。


「どほーさん、どほーさん、格好はこれで良いかしら?」

「良いんじゃないか?」

「まるで夫婦ですね」

「言ってろ」


 外に出て、他の〈大地人〉にもしばらくの留守を伝える。

 こうして3人は、アキバへと出発した。

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