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狂った騎士の夢  作者: F
22/27

夢見る格闘士

 アキバ周辺の、とある〈大地人〉の村のひとつ。

 そこにある空き屋で、もっしゃもっしゃと四人の旅人が食事をしている。

 その中のひとり、三毛猫模様の猫人族であるカランドリッツが唐突に口を開いた。


「……やっぱ、料理ものにしない方いんじゃね」


 カランドリッツの言葉に金髪のエルフ、バルタザール・Aがカッとカランドリッツに振り向くと


「言わないようにしてたのに!?アーニャさんとバラパラムに失礼だと思わないんですか!!」

「だ、だ、だって仕方ないだろ!お前も思ってたんだろ!?そうなんだろ!?」

「そりゃ思ってましたが、素材のままもどうかなーって気がしません?」

「ああー……うん」

「でしょう?」

「でも塩味ばかりなんつーのも……思わね?バラパラム?」

「……まぁ」


 黒髪のエルフのバラパラムは曖昧に頷くと、手元の味の無い料理─仲間の清祥はダンボール味と言っていた─に塩をかける。

 今のところ、この世界の料理に味をつけるには塩くらいしか無い。

 そんな中、四人で唯一の〈大地人〉であるアーニャがきょとんとして三人に質問をする。


「そのー……〈冒険者〉って料理食べてなかったんですか?」

「いや、食ってた。食ってたんだけど、オイラ達んとこだと料理にも味があるんだよね」

「へー……想像つかないですけど、食べてみたいなぁ」

「オイラも食いてーわ……」

「気持ちは分かります……」


 カランドリッツとバラパラムのテンションが徐々に下がっていく。

 だがふと、バルタザールが何かを思い出したかの様に口を開いた。


「そう言えば、クレセントバーガーって知ってます?」

「なにそれ?オイラ、マックとモス以外見たこと無いよ」

「いえ、リアルの話ではなく。フレンドに念話されたんですが、今アキバでは味のあるハンバーガーの屋台がやってるそうですよ。それがクレセントバーガー。とはいえ、あまりの人気にすぐ売り切れるそうですが」

「へー、すげーじゃん」


 カランドリッツはしばらく「へー」と思いながら料理を咀嚼していたが、動きを止めてバルタザールの話をもう一度考える。

 流れた思考を掴んで再び右から流す作業を脳内で何度か行うと、何を思ったか興奮してイスから転げ落ち、バルタザールに詰め寄った。


「味あんの!?」

「そう聞きました」

「マジかよ!ちょ、オイラも食いてぇ!!」


 アキバに行くんじゃ!とジタバタするカランドリッツを横目に、バラパラムは


「そもそも、俺達はアキバに行けないでしょう。白い目で見られますよ」

「うっ、そうか」

「大人しく製法が広まるまで待ちましょう」

「……あの、バラパラム。アキバに行けないとかあなた達は何をしたんですか?」

「あ、いや、その……」


 バラパラムとカランドリッツが冷や汗を流す。


「ちょっと色々と……」

「そのぅ……話せるときが来たら話すと言うことで」

「はぁ……?まぁ、私も最近はアキバに寄りついてませんから、なんとも言えませんけどね」

「そりゃまた、なんで。アキバを拠点にした方が良いだろ流石に」

「そうなんですけどね……」


 バルタザールはしばらく考え込むと、リンゴジュース─バラパラム製。味がある─を飲み干し


「……街の雰囲気が、どうにも」

「雰囲気?」


 はて何かあったかな、とカランドリッツは思ったがそもそもPKをするために早々とアキバから出ていったカランドリッツは〈大災害〉直後の混乱くらいしか覚えていない。


「無法地帯と言いますか……酷いもんですよ。人が人を簡単に傷付ける場所でしたから」

「……」

「逃げてきたんです。私は。目の前で誰かが傷付くのを見るのが嫌で」


 笑ってください、とバルタザールは自嘲気味に口の端をつり上げた。

 助けの手も出せずに、ただ逃げ出してきた事をバルタザールは悔いている。

 バラパラムは彼からそっと目を逸らした。

 何も言うべき資格を持たない。

 PKをして、傷付ける側に回っていた自分は。


「良いじゃねーか。別に嫌ならどこ行ったって良いんだからさぁ」

「そう……かもしれません。でもやっぱり、私は後悔してるんです。誰も助けられなかった弱い自分を」

「お、おう……真面目すぎるんじゃねぇの……?」

「はは、良く言われます。まぁ、だから、こうして武者修行をしてるんですよ。今度は誰かを助けられる強さを身に付けるためにね」

「くせぇ。くさすぎるぜ!」

「……そうですかね?」

「はーアキバって怖いところなんですね」


 カランドリッツが見せた妙な表情にバルタザールがちょっと落ち込み、アーニャが良く知らない街に思いをはせる。

 バラパラムは無言だった。

 ゲーム時代からそこまで喋る人間じゃなかったバラパラムは、だからこそバルタザールは喋らないのはいつものことだと流している。

 だが、そうではない。

 バラパラムにとって、バルタザールは眩しい相手だ。

 嫌悪するものに勝利するため、自ら力を手にいれる強い心を持っている。

 バラパラムには無い、強い心。


「オイラは別になー。強いのとはやりたくねーよ」

「それはそれで良いと思いますけどね」

「でもリッツさんは〈大地人(私達)〉のために戦ってくれるじゃないですか?」

「いや、そりゃ敵は基本的に弱いからさ。勝てない相手ならアーニャ達連れて逃げるって。オイラ弱いのとしかやりたくねーもん」

「それはそれで情けない様な……」

「うるせーやい!」


 やいのやいのと騒ぐ三人を尻目に、バラパラムは席をたった。

 バルタザールの話を聞いて、自分に酷い嫌悪感が沸いてきていた。

 何故、自分は弩砲騎士と共にPKなどしてしまったのだろうか。

 人の腹を裂いた感触は、今でも鮮明に思い出せる。

 それほどにショックである筈なのに何故……。

 答えは分かっている。

 ただ断り、止めきれなかった自分の弱さが、醜かった。


 今日の食事も、血の味がした。

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