夢見る格闘士
アキバ周辺の、とある〈大地人〉の村のひとつ。
そこにある空き屋で、もっしゃもっしゃと四人の旅人が食事をしている。
その中のひとり、三毛猫模様の猫人族であるカランドリッツが唐突に口を開いた。
「……やっぱ、料理ものにしない方いんじゃね」
カランドリッツの言葉に金髪のエルフ、バルタザール・Aがカッとカランドリッツに振り向くと
「言わないようにしてたのに!?アーニャさんとバラパラムに失礼だと思わないんですか!!」
「だ、だ、だって仕方ないだろ!お前も思ってたんだろ!?そうなんだろ!?」
「そりゃ思ってましたが、素材のままもどうかなーって気がしません?」
「ああー……うん」
「でしょう?」
「でも塩味ばかりなんつーのも……思わね?バラパラム?」
「……まぁ」
黒髪のエルフのバラパラムは曖昧に頷くと、手元の味の無い料理─仲間の清祥はダンボール味と言っていた─に塩をかける。
今のところ、この世界の料理に味をつけるには塩くらいしか無い。
そんな中、四人で唯一の〈大地人〉であるアーニャがきょとんとして三人に質問をする。
「そのー……〈冒険者〉って料理食べてなかったんですか?」
「いや、食ってた。食ってたんだけど、オイラ達んとこだと料理にも味があるんだよね」
「へー……想像つかないですけど、食べてみたいなぁ」
「オイラも食いてーわ……」
「気持ちは分かります……」
カランドリッツとバラパラムのテンションが徐々に下がっていく。
だがふと、バルタザールが何かを思い出したかの様に口を開いた。
「そう言えば、クレセントバーガーって知ってます?」
「なにそれ?オイラ、マックとモス以外見たこと無いよ」
「いえ、リアルの話ではなく。フレンドに念話されたんですが、今アキバでは味のあるハンバーガーの屋台がやってるそうですよ。それがクレセントバーガー。とはいえ、あまりの人気にすぐ売り切れるそうですが」
「へー、すげーじゃん」
カランドリッツはしばらく「へー」と思いながら料理を咀嚼していたが、動きを止めてバルタザールの話をもう一度考える。
流れた思考を掴んで再び右から流す作業を脳内で何度か行うと、何を思ったか興奮してイスから転げ落ち、バルタザールに詰め寄った。
「味あんの!?」
「そう聞きました」
「マジかよ!ちょ、オイラも食いてぇ!!」
アキバに行くんじゃ!とジタバタするカランドリッツを横目に、バラパラムは
「そもそも、俺達はアキバに行けないでしょう。白い目で見られますよ」
「うっ、そうか」
「大人しく製法が広まるまで待ちましょう」
「……あの、バラパラム。アキバに行けないとかあなた達は何をしたんですか?」
「あ、いや、その……」
バラパラムとカランドリッツが冷や汗を流す。
「ちょっと色々と……」
「そのぅ……話せるときが来たら話すと言うことで」
「はぁ……?まぁ、私も最近はアキバに寄りついてませんから、なんとも言えませんけどね」
「そりゃまた、なんで。アキバを拠点にした方が良いだろ流石に」
「そうなんですけどね……」
バルタザールはしばらく考え込むと、リンゴジュース─バラパラム製。味がある─を飲み干し
「……街の雰囲気が、どうにも」
「雰囲気?」
はて何かあったかな、とカランドリッツは思ったがそもそもPKをするために早々とアキバから出ていったカランドリッツは〈大災害〉直後の混乱くらいしか覚えていない。
「無法地帯と言いますか……酷いもんですよ。人が人を簡単に傷付ける場所でしたから」
「……」
「逃げてきたんです。私は。目の前で誰かが傷付くのを見るのが嫌で」
笑ってください、とバルタザールは自嘲気味に口の端をつり上げた。
助けの手も出せずに、ただ逃げ出してきた事をバルタザールは悔いている。
バラパラムは彼からそっと目を逸らした。
何も言うべき資格を持たない。
PKをして、傷付ける側に回っていた自分は。
「良いじゃねーか。別に嫌ならどこ行ったって良いんだからさぁ」
「そう……かもしれません。でもやっぱり、私は後悔してるんです。誰も助けられなかった弱い自分を」
「お、おう……真面目すぎるんじゃねぇの……?」
「はは、良く言われます。まぁ、だから、こうして武者修行をしてるんですよ。今度は誰かを助けられる強さを身に付けるためにね」
「くせぇ。くさすぎるぜ!」
「……そうですかね?」
「はーアキバって怖いところなんですね」
カランドリッツが見せた妙な表情にバルタザールがちょっと落ち込み、アーニャが良く知らない街に思いをはせる。
バラパラムは無言だった。
ゲーム時代からそこまで喋る人間じゃなかったバラパラムは、だからこそバルタザールは喋らないのはいつものことだと流している。
だが、そうではない。
バラパラムにとって、バルタザールは眩しい相手だ。
嫌悪するものに勝利するため、自ら力を手にいれる強い心を持っている。
バラパラムには無い、強い心。
「オイラは別になー。強いのとはやりたくねーよ」
「それはそれで良いと思いますけどね」
「でもリッツさんは〈大地人〉のために戦ってくれるじゃないですか?」
「いや、そりゃ敵は基本的に弱いからさ。勝てない相手ならアーニャ達連れて逃げるって。オイラ弱いのとしかやりたくねーもん」
「それはそれで情けない様な……」
「うるせーやい!」
やいのやいのと騒ぐ三人を尻目に、バラパラムは席をたった。
バルタザールの話を聞いて、自分に酷い嫌悪感が沸いてきていた。
何故、自分は弩砲騎士と共にPKなどしてしまったのだろうか。
人の腹を裂いた感触は、今でも鮮明に思い出せる。
それほどにショックである筈なのに何故……。
答えは分かっている。
ただ断り、止めきれなかった自分の弱さが、醜かった。
今日の食事も、血の味がした。




