骨抜き
仲間達や集落の皆が、メインホールとしている大きなビルの一階。
普段から賑やかで人も多いが、今は普段以上に多かった。
理由はある。
この集落を拠点とする〈冒険者〉達のリーダー、夢見る弩砲騎士がここしばらく顔を見せていない。
リーダーがいなければ彼らの生業であるPKだってはかどらないのだ。
それにどうも最近はリーダーの以降で次々と戦闘慣れしてる〈冒険者〉に挑んでるせいか、基本的に弱いものイジメで鬱憤を晴らしていた彼らがウンザリしてたり、自尊心が満足していることもある。
もうひとつの理由が
「ミカちゃ~ん、肩揉んで肩」
「はーい。まぁ、随分凝ってるじゃない。しっかりマッサージしてあげるからね!」
「ミカちゃん、ジュースお代わり!」
「仕方ないわねー。リンゴジュースでいい?」
「ミカちゃん!薪割り終わったよ!」
「ほんと?じゃあ、竈に入れて火をつけてて!」
ミカ。
この茶髪にセーラー服を着た〈森呪遣い〉の少女は、弩砲騎士が戦闘していたPTからヒョイと拾ってきた相手である。
この集落に来ていた当初はボロボロの姿だったが、趣味的な装備─自分が使いもしないセーラー服─を持っていたメンバーから譲り受け、〈大地人〉達の看病を受けて一日で復活した。
そんな少女だが、復活した翌日からは働き始めた。
見ている人間が驚く程に、少女はこの数日間働き続けた。
炊事洗濯掃除……今まで集落の〈大地人〉の女手がやっていた仕事を彼女達と共に、だが彼女達以上に。
ついでに手が空くや否や〈冒険者〉達の世話もする。
ここにいる〈冒険者〉達が男所帯であることもあいまって、少女の人気は劇的どころではなく沸騰した。
つまり、PK達はPKのことなど忘れたかの様に、ミカに入れ込んでいたのである。
アホみたいに。
そしてその光景を見た数日ぶりに上階から降りてきた弩砲騎士が、唖然とした雰囲気を漂わせて階段を降りる一歩手前で固まっていた。
「……なんだこれは」
「まぁ、どう見ても姫プレイヤーの参加で崩壊したPKギルドですね」
弩砲騎士に答えたのは†麗沙†という名の少女。
ボリュームのある銀髪と、小柄でロシア系なアバターの見た目をした〈守護戦士〉である。
だが、彼女はPKではなく、〈D.D.D〉という大手ギルドに所属しそれを討伐する側の人間である。
「何故いる」
「いえ、一応貴方の仲間をたぶらかした謝罪をと思いまして。バラパラムさんから聞いているのですよね」
「ああ、全部聞いた」
彼女は飲んでいたジュースを置いて立ち上がると、弩砲騎士に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。貴方が相手とはいえ、私は随分と卑怯な手段を取りました」
「……」
弩砲騎士は溜め息に似た息を吐くと、彼女を座らせる。
麗沙は不安など無いと言う程に表情を変えていない。
弩砲騎士はそれを鼻で笑うと、やっと許しの言葉を口にした。
「今更いい。俺も気にしちゃいない」
「そうですか?」
「お前さんと戦えなかったのは残念だがな」
麗沙が肩を竦める。
戦うとも戦わないとも、彼女は答えなかった。
*****
「あー!どほーさん!やっと出てきたのね!」
「む……」
ずかずかと怒ったように─小柄すぎるせいで可愛らしさが勝っていたが─ミカが麗沙と話す弩砲騎士の元へとやってきた。
「ひどいじゃない!勝手に連れてきておいてほったらかしなんて!」
「元気だなお前さん」
「ふーん、謝らないんだ」
「ああ、悪かったよ」
「ぜーんぜん心がこもってないわ!」
「む……」
ミカの勢いに押され気味の弩砲騎士に、「そーだそーだ」「気持ちをこめろー!」と言った野次が男達から飛ばされる。
男共はすっかりミカにほだされていた。
「がはは、旦那も女の子は苦手かー」
「女の子というか、ミカさんが特に天敵なだけな気もしますね」
「違いな……ってうぉおお!?お前、いたんか合法ロリ!?」
「……合法ロリ?」
「口が滑った。それより何でいるんだ〈D.D.D〉様がよ!あぁん!?」
「口が悪いですよ」
「PKやってっとこうなるんだよ悪かったのう!!」
弩砲騎士の後から降りてきた機巧侍が麗沙とキャンキャンやりはじめたのを見て、弩砲騎士は再び溜め息に似た息をもらした。
腰に手を当ててふんぞり返るミカを見て弩砲騎士が
「……ああ。悪かった」
「うんうん。それで良いのよ。良くできたわね。許してあげるわ」
苦笑しながら弩砲騎士は頷くと
「随分と馴染んでいる様だな……だが、俺達の世話までする必要は無い」
「良いのよ。私が好きでやってるんだから」
「俺を護った時もそうだが……何故そこまでする?お前にとってはPKされた相手だろう」
その言葉のあと、ミカは弩砲騎士に指をつきつけ
「PKなんかして欲しく無いからよ!」
そう言った。
「私が皆のお世話をぜーんぶやってあげるわ。それこそ、PKなんてしなくてもいいやってなるくらい。ぜーんぶね」
「なんだそれは……」
「何でもいいわ。ずっとずっとずーっとお世話してPKなんてやらせてあげない!」
それは際限の無い理不尽であった。
PKという理不尽に対抗する、理不尽。
弩砲騎士はミカを見た。
いや、視界には入れていたが、今はじめてしっかりと見つめた気がする。
「だからどほーさんもPKなんてしなくていいの。私がいるから。ね?」
彼女はそう言うと、再び家事へと戻っていった。
ふと、ミカの言葉を弩砲騎士は思い出す。
──あとで仕返しをするため……
「……なるほど。確かにこれ以上無いほどの仕返しかもしれんな」
全くもって理不尽ばかりが起きる。
弩砲騎士は〈大災害〉が起きてから初めて、本当に初めて脱力した。
ダメ冒険者製造器の加入によって滅んだPKギルドがひとつここに生まれました。




