曖昧な決別
長い年月が経ち、壁面を苔や蔦に覆われながらも未だ保ち続けるビルの群れ。
そのひとつ、その一室で夢見る弩砲騎士とバラパラムは向かい合っていた。
「どほおさん……」
「いや、良い……お前は正しい、バラパラム」
このビル群を、そこに住む〈大地人〉や彼ら〈冒険者〉は家と呼ぶ。
文字通り、雨風を凌ぎ住むための家だ。
バラパラムは、ここに危機が迫ってると虚偽を伝え、弩砲騎士を戦場から引き剥がした。
そうして、バラパラムはとある確信を持った。
「……」
「行くのか」
バラパラムは頷き、弩砲騎士が応える。
「そうか。嘘は気にしちゃいないが、そう言うことでも無いのか」
バラパラムは再び頷き、既に纏めてあった荷物を取って立ち上がった。
「ケジメですかね」
「大事なことだ」
元々、バラパラムはPKが苦手だった。
ここにいる〈冒険者〉は全てPKの集まりなのだから、むしろ今まで出ていかないことが不思議だったのだ。
弩砲騎士は立ち上がらず、バラパラムが部屋から出ていくのを見送る。
そこでふと、バラパラムが振り向き口を開いた。
「どほおさん」
「なんだ?」
「どほおさんは、PKするのも最強になるのも本当は目的じゃ無いんですよね」
首を傾げる弩砲騎士に対して、バラパラムは言葉を続ける。
「……家族が、欲しかったんですよね」
「……何?」
「機巧達に声をかけたのも、ミカさんを拾ったのも。この集落の〈大地人〉と暮らすのも」
ジッとバラパラムは弩砲騎士を見ていた。
家屋の中でもヘルムを外さない弩砲騎士の見えない表情を見ようと、ただジッと。
弩砲騎士は答えなかった。
「貴方のリアルは知りませんが……ゲーム時代からきっと」
──貴方は家族が欲しかった。
バラパラムはそう言い残すと、部屋から出ていった。
やはり、弩砲騎士が答えることは無かった。
*****
「バラパラム!」
「……リッツ?」
集落を出ようとした所で、バラパラムは声をかけられた。
見れば、カランドリッツが遠くから走ってくる。
彼は集落の〈大地人〉アーニャの手を引いていた。
「リッツ、その格好……」
「いくら何でも水くさ過ぎるっしょ。オイラもいくよ」
「機巧は?」
「残るってよ。だから、オイラが機巧侍の代わりに来たってことさ」
「……いやでも」
「旦那が怒ってないのは知ってるよ。でもよ、やっぱあるだろ?そう言うの」
カランドリッツはケジメの話をしている。
バラパラムが弩砲騎士に話した事と一緒だった。
「それは……大事なことですね」
「だろ?」
へへっと笑ったカランドリッツから視線を外して、バラパラムは彼に着いてきたアーニャを見る。
彼女はその視線にビクッとして、しばらくモジモジと逡巡した末に、チラッとカランドリッツの猫顔を見た。
「大丈夫だって。こう言うのは自分で言わないと!」
「は、はい……」
バラパラムが困った様に待っていると、遂に意を決してアーニャが口を開いた。
「わ、私も連れていってください!」
バラパラムは更に困惑して、カランドリッツを見た。
彼はニイッと笑って
「お前に着いていきたいんだってさ。連れてってやろうよ」
とバラパラムを小突く。
アーニャはアーニャで
「ぜ、絶対お役に立ちますから!」
とさっきまでの逡巡を捨てて迫ってくる。
バラパラムは眉を八の字にして困り果ててから、断る言い訳を考えた。
考えたが、危険であることくらいしか思い付かず、それを口にしたところで〈大地人〉にとってそんな危険など日常茶飯事である。
彼女はひかないだろう。
バラパラムは結局困った顔で、頷いたのであった。
*****
そんな3人を、弩砲騎士はビルから見下ろす。
ここから見送るつもりだった。
「……お前は着いていかなくて良かったのか、機巧」
弩砲騎士の横で彼の弩砲をガチャガチャと弄っていた機巧侍は弩砲騎士の言葉で顔もあげずに
「旦那の装備を整備してるのは俺なんだし、居なくなったら困るだろ?」
「……それもそうだな」
「代わりにリッツを行かせたんで、それでってことでな」
そう言って作業を続ける。
弩砲騎士のグリーヴに浮遊の支援魔法を組み込んだり、弩砲を強化したのは機巧侍だった。
特殊な機能を持つ弩砲騎士の装備には、機巧侍の整備が欠かせない。
「すまんな」
「言いっこは無しだ、旦那。謝るのは俺もなんで」
しばらくガチャガチャと機巧侍が作業する音が響く。
パチン、と弩砲に新しい弦を張り直したところで
「機巧侍」
「あん?」
「俺はPKをやめようと思う」
「……ああ」
整備の終わった弩砲の横で、今度は自分の機巧槍を弄りながら機巧侍は口を開く。
「まぁ、旦那に襲う方は似合わん」
機巧侍の言葉に
「俺もそう思う」
弩砲騎士はそう答え、機巧侍も軽く笑うだけだった。




