逃走
お久しぶりです。
「協力……これで良いんだよな」
「ええ。十分です」
機巧侍の言葉に、†麗沙†がうなずく。
それをみていた機巧侍が舌打ちをしてから、再び口を開いた。
「ちっ、リストのPK同士をぶつけあわせるなんて悪趣味なこと考えるじゃねーか。生き残った方はどうするんで?」
「無論、弱っているところを叩きます」
「けっ、どっちがゲスだかわかんねーな」
バラパラム、麗沙、機巧侍の3人は、夢見る弩砲騎士達の戦う周囲の林に隠れている。
目的はイミテイターを弩砲騎士にぶつけること。
現状、PvPという分野において、弩砲騎士やイミテイター、さらにリストに個人で載るPK達はアキバ周辺では最強を誇る。もしマトモに戦力を投入してぶつけあったら、相手が個人とは言え、リスクの大きいダメージを喰らうだろう。
それは身体的な物だけでは無く、精神的な物もそうだ。
現に、正面から相対したキャンデロロは見るからに弩砲騎士に萎縮している。数少ない戦闘経験者が、PKとの戦い程度で戦線離脱するのは忍びない。
そう判断した麗沙は、PK同士をぶつけることにしたのである。
「味方やアキバに被害が出るよりは、合理的でしょう」
「そりゃそうだがよ……」
「不満ですか?そう言う貴方も本来は討伐対象だと忘れてませんか?」
「うっ……」
「まぁ、これ以上何かしないというのであれば手は出しません。無抵抗な相手をいたぶる気はありませんから」
「あ、ああ……」
機巧侍は一歩引いた。
目の前の、小柄なロシア系の見た目をした少女からは得体の知れない、底知れなさを。
どうも人道から外れない、良く言えば騎士的な考えで動いている様子ではあるため、下手なことをしなければ何ということはあるまい。
しかし現代人とは思えぬ、妙に戦いや修羅場に慣れている様な“違和感”を機巧侍は抱いていた。
ゲームとそっくりなキャラアバターの中身、プレイヤーのことなど勿論、本当のところは分からないのだが。
機巧侍がそんなおぞ気を麗沙に抱いていると、バラパラムが二人やその他の戦う風景から目を離さずに口を開いた。
「これで我々の仕事は終わりでいいですよね」
「は?」
「イミテイターも弩砲騎士も十分弱った。じゃあ、もう終わりでいいですよね」
バラパラムの言葉に、麗沙は怪訝な表情をして頷く。
それを見もせずにバラパラムは、突如として援護歌を発動させ、音に自分の声を乗せて叫んだ。
「弩砲騎士──!」
*****
「──家が襲われています!すぐに戻ってください!」
イミテイターとラッシュを繰り広げていた弩砲騎士が、ピクリと動きを止めた。
(今がチャンスか!)
バラパラムの声に、戦場が一瞬静まり返る。
その隙を逃さず、清祥が叫んだ。
「みんな!全力で家まで戻るぞ!」
「お、おう!」
「戦闘してる場合じゃぁ、ねぇなぁ」
ダガーマニア@レイピア使いが〈ワールウィンド〉で薙ぎ払った隙間を、清祥達が全力で走り抜ける。
無論、邪魔する様にデバフ攻撃や魔法が飛んでくるが、カランドリッツが〈ヴォイドスペル〉や〈ディスペルマジック〉などを用いて的確に弾いていく。
「リッツおまーさん、こんな時ばっかり神テクを発揮すんなや!」
「知らねぇってば!」
「言ってる場合じゃあ、ねぇよなぁ!?」
「いいから走れ!……カモガワ!」
「ッス!」
カモガワが全力で背後に煙玉を叩きつけ、それが5人の姿を隠し、逃走を容易にする。
それを見ていた弩砲騎士が、イミテイターの巨斧をさばいてから、脚部浮遊魔導装置を起動させた。
「逃げる気?」
「そうだ。悪いが貴様と戦ってる場合では無くなった」
「逃がすと思ってるの……かなぁ!」
イミテイターが突撃し、弩砲騎士へと巨斧を薙ぐ。
それを弩砲騎士はマトモに喰らいながら、斧の反動を逆手にとって全速力で後退する。
攻撃後の隙で止まるイミテイターから、みるみるとその距離は離れていった。
「……チッ」
「爆音キャンディ、悪いな」
「へっ?」
「わぁっ!?」
二人の攻防を見ながら固まっていたキャンデロロが抱えていたミカを右手でひっつかみ、弩砲騎士はさらに速度をあげていく。
マジックアイテムの使用でMPが容赦なく減っていくが、今さら気にすることでも無い。
「あっ、ちょっ!」
「じゃあな」
弩砲騎士は、戦線から完全に離脱したのを確認し、最後にチラリと後ろを覗く。
そこには、〈D.D.D〉の面々に囲まれながらも、狂気に満ちた顔で斧を振るうイミテイターの姿があった。
〈D.D.D〉の面々の動きからして、恐らくはイミテイターを殺さず ─殺しても大神殿で復活するため─ 捕縛するつもりだろう。
「なるほど……俺と小娘……両方をこの場で押さえるつもりだったか」
イミテイターとの決着は、もうつけられないかもしれない。
そんなことを思いながら、ボロボロのミカを抱えた、ボロボロの弩砲騎士は走る。
バラパラムの嘘とも知らずに、自らの家へと向かって。
それはまるで、家族を助けるために焦る者の様な姿だった。




