狂人は相容れない
「貴様のソレはただの八つ当たりだ。この世界にはこの世界なりの矜持がある。そこに価値を見出だせ無い奴に、偽物を断ずる資格など無い」
夢見る弩砲騎士が弩砲を乱射する。一点では無く、散発的に広がる射撃は、先を読んだ回避がしづらい、命中することだけを念頭においた攻撃だ。
直撃するクリティカルヒットとはいかなくても、重い黒鉄の矢は掠めるだけで姿勢を崩させる程の威力がある。
小柄なイミテイターにはなおさら厄介だ。
しかし、イミテイターの武器はリーチがあるとはいえ、斧。弩砲騎士とは間合いが違いすぎる。
故に、イミテイターは斧を盾にしながら強引に突き進む。
「夢しか追いかけない奴がうるさいなぁ……資格なんて必要無いじゃないか。正しく無い世界で正しいことなんて何も無いんだからさ。それとも……キミはこの世界が本物だとでも言うの?こんなゲームみたいな呆れた世界がさ!」
「だとしたら、なんだ?」
「ふふ、それこそ滑稽じゃないか。夢と現実の区別がついてないんだから」
弩砲騎士は動かず、機械的に弩砲を撃ち続ける。
一発、二発、三発……そして、弾切れ。
イミテイターは笑った。
「殺してあげるよ」
絶好の機会。イミテイターも弩砲騎士もHPは半分ほど削れている。
同じ戦士職でも、〈守護戦士〉より〈武士〉の方が攻撃に優れている。ここで畳み掛ければ、勝つのはイミテイターだ。
ほら、やっぱりキミは偽物じゃないか……そんな小さな呟きが、イミテイターの口から漏れた。
「本物じゃない奴は……みんな壊す」
イミテイターの斧が、弩砲騎士の左腕を捉える。振り下ろされた刃が肘から先を斬りとばした。
噴き出した血が、イミテイターをさらに紅く染め上げる。ああ、と愉悦に染まる微笑みを浮かべた顔を。
しかし、弩砲騎士はイミテイターが殺してきた〈冒険者〉とは違う。
彼も、偽物の世界で発狂したイミテイターとは違う意味での、狂人なのだ。
「〈オーラセイバー〉」
「なっ」
弩砲騎士の肘の先が消えた左腕が光る。軽く振るった左腕から噴き出す血に宿った攻撃エフェクトの光が、ムチの様にイミテイターを叩きつけた。
「自分の血で……!」
「まだだ」
斬り飛ばされた左腕を、無事な右腕で掴みとる。元々重いガントレットに、人の肉が詰まったそれはかなりの重量がある。
「〈アーマークラッシュ〉」
弩砲騎士はその左腕を……武器として振るった。
重い腕はしなりのある棍棒の様に、強烈なスキルを纏ってイミテイターを付け狙う。
「チッ……」
「感謝するぞ。武器が増えた」
左腕からは〈冒険者〉補正で鈍くなったとはいえ、激痛が弩砲騎士の脳内を駆け巡っているはずだ。
しかし、弩砲騎士は痛みを感じているなど露とも感じさせず、ゆっくりとした動作でイミテイターを追い詰めていく。
ここではじめて、イミテイターは目の前の鎧騎士にゾクリとした感覚を覚えたのだ。
「血の先までエフェクトがかかるとは知らなかったろう」
「気持ち悪いね……なんでそこまでするんだか」
「決まっている」
ふと、ヘルムのスリット越しに視線を感じた。先程のイミテイターの様な、愉悦の笑みを含んだ視線。
「俺が強いと言うことを証明出来るからだ」
右手が掴んだ腕の棍棒が振り下ろされる。イミテイターは〈切り返し〉で迎撃すると、派手なエフェクトに紛れて弩砲騎士の背後に回り込み〈虎口破り〉を発動した。
ヘルムを被る弩砲騎士は視界が狭い。特に背後は大きな四角となる。
「それが夢と現実の区別がついてないって言ってるんだよ」
〈虎口破り〉を選んだのは体勢を崩す効果があるからだ。そうして体勢を崩した弩砲騎士を攻めきる算段で、イミテイターは巨斧を、その小柄な身体には不釣り合いな程の力でもって薙いだ。
斧は確かに芯から弩砲騎士を捉える。しかし、彼が体勢を崩すことは無い。
「〈ヘヴィアンカー・スタンス〉」
半ばまで斧の刀身を埋めた鎧の身体から、じゃらじゃらと鎖のエフェクトが生み出されイミテイターに巻き付いていく。
武器も身体も止められてようやく、イミテイターは自分が嵌められたことを知った。
「わざと四角に……」
「装填完了。砲身180度回転。発射……〈オンスロート〉」
黒鉄の矢がイミテイターの身体を貫く。
腹を貫通するほどの勢いで発射された鉄の塊が、イミテイターの身体と反動で自分の身体に埋まった斧を吹き飛ばした。
「お前は強い……それだけは認めよう。だが、それだけだ。それ以外の価値は貴様には無い。自分の悲しみを押し付ける力を得て、貴様はそれで満足したな」
「だから何。偽物を壊すだけなんだからさぁ……満足とかそういうの、必要なんて無いよ」
「自分に戦闘の才能があっただけの奴が思い上がるなよ」
弩砲騎士は肘から先が消えた左腕からだらだらと血を流し、傷だらけの鎧を返り血で不気味に染め上げる。武器として使っていた自身の左腕を投げ捨て、残った右腕は腰に固定された弩砲へと回されていた。
一方のイミテイターは、自分の血なのか弩砲騎士の血なのか分からない程にその身体を赤黒く汚している。斧を支えに立ち上がりながら、それでも瞳孔の開ききった目は弩砲騎士を見つめて。
「貴様の強さと、俺の強さの根本は違う」
「お互い、偽物の強さにすがってるだけじゃないか。そこに違いなんて無いね。ポテンシャルは同じなんだ」
弩砲騎士が弩砲でイミテイターを狙い、イミテイターは再び斧を構える。
「どこまでもつまらない奴だ」
「うるさいなぁ……」
「もういい……死ね。死んで精々俺の踏み台になれ」
「ムカつくんだよ、キミさぁ……!」
相容れない敵意のぶつかりは、ようやく終わりの兆しを見せはじめた。




