偽物の戦い
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夢見る弩砲騎士が〈オーラセイバー〉の光が消えた拳をそのまま腰に固定された弩砲に当てる。長砲身の弩砲はこのままでは近すぎてイミテイターには当たらない。
「それでどうする気?この距離ならいくら長くても斧の方が有利だよ」
弩砲騎士のヘルムから、フッとした笑いが漏れる。イミテイターがそう言うのを分かっていたかの様な、嘲笑に似た笑いだ。
「何……ムカつくなぁ」
「喋るより殴れよ、小娘」
「望み通りにしてあげるよ!」
斧の刃ではなく、柄の下にある石突きでイミテイターは弩砲騎士を狙う。選択した特技は〈百舌の早贄〉。狙うはヘルムとメイルの間にある隙間。
えげつないほどに渾身の力を込めて、イミテイターは頭をとばす勢いで弩砲騎士の喉を狙った。
しかし
「マジシャンが右手を出した時は左手を見ろ」
「は?」
「弩砲を見すぎだ」
弩砲騎士の左手が左腰に当てられている。そこにあるアタッチメントに固定されているのは弩砲ではなく、ポーチ大の大きさをした金属の箱だ。それらが剣の鞘の様に連なっていた。
コンコンとソレらを叩くと、上下にパカリと開き、内部が露になる。
そこにあったのは細長い矢に似た金属の棒があわせておよそ20。
「炸裂矢。行け!」
その全てがまるでロケットの様に噴射煙を噴き出しながら、イミテイターへと向かっていく。
一発一発のダメージは大したことはない。だが、それが20本も重なれば、例えレベル90のプレイヤーと言えども看過出来ないダメージ……即死級のダメージを与えるだろう。
この至近距離で放たれたそれらを回避するのは、特技をキャンセルしたとしても到底間に合うものではい。
だが、〈武士〉にとってのみ、それは違う。
「〈刹那の見切り〉!」
〈武士〉の持つ防御系必殺特技〈刹那の見切り〉。発動された効果時間中、あらゆる回避可能な攻撃を避けることが出来る、まさに切り札。
戦士職ならではの、無敵時間を作り出す特技だ。
イミテイターはそれを用いて、およそ20本の炸裂矢を全て回避する。
イミテイターの向こう側へ、或いは地面へとぶつかった炸裂矢があげる煙の中から、イミテイターが会心の笑みを浮かべた。
「見通しが甘かったみたいだねぇ、鎧さん」
〈百舌の早贄〉をキャンセルしたイミテイターはしかし、残る特技の余韻を使って弩砲騎士に巨斧を振り下ろす。弩砲騎士の歩幅を計算し尽くした一撃は、この短時間に踏み出せる一歩では避けられない。
〈武士〉と違い、機動に長けない〈守護戦士〉では回避も出来ないだろう。
ここがチャンスであると〈一刀両断〉をのせた渾身の振り下ろしは、特技の補正もあり驚異的な威力をもって弩砲騎士を抉る……はずだった。
「脚部浮遊魔導装置、起動」
まるで地面を滑る様な独特な動きで弩砲騎士が後退。
〈一刀両断〉が滑る弩砲騎士を捉えきれずに、代わりにと地面を深く抉る。
後退した弩砲騎士の動きから、炸裂矢で広がった煙が弾かれる様に吹き散らされていく。
そうして漸くイミテイターは見た。
キリキリとした歯車の音をたてて、弩砲騎士の脚を覆うグリーヴが変形している。そして内部に仕込まれた魔法陣が露出し、同じ形の魔法陣が弩砲騎士の脚部左右の空に展開。仕込まれた浮遊の魔法が弩砲騎士を地面からほんの少しだけ浮かばせていたのを。
「なっ……」
「感度良好。攻撃を再開」
今度は浮遊の魔法によって地面を滑る ─いわゆるホバーやフロート移動─ 弩砲騎士がイミテイターの周囲を回りながら砲撃を加えていく。
手数は多くないが、〈守護戦士〉程の防御力を持たないイミテイターにとっては一発一発が非常に危険な威力を持っている。
〈刹那の見切り〉を使ってしまった今、回避は目と耳と勘で行うしかない。
「ふざけすぎだよ、キミ」
「俺は至って大真面目だ」
「それがムカつくんだって言ってるんだけどなぁ」
鉄矢を回避し、異常な間合いを持つ巨斧を薙いだ。それがホバー移動による慣性の変わった弩砲騎士を捉える。
装填した鉄矢による〈カウンターブレイク〉で巨斧を撃ち落とした弩砲騎士が、反動でクルクルと回りながら〈オンスロート〉をイミテイターへ放った。
紙一重で〈オンスロート〉を避けた……いや、掠めたイミテイターが再びの〈虎口破り〉を敢行する。
突進と共に薙ぐ巨斧を、弩砲騎士が正面から〈アイアンバウンス〉を発動させて迎え撃った。
「偽物の世界で何を真面目にするっていうのかなぁ」
「お前、本気でそう思うのか」
「当たり前でしょ、こんなところ。全部偽物だよ。本物じゃないなら、価値なんて無いんだから」
「偽物に価値が無いとは、笑わせてくれるな」
ホバーを切り、地面に足をつけた弩砲騎士が巨斧の柄に膝蹴りを加える。下から加えられた重い質量が、巨斧を僅かに上へと跳ねた。
「世界は一握りの本物と、雑多な偽物で溢れている。雑多な偽物が本物になろうとする、その行為にこそ価値がある。そうは思わんか?」
「偽物に価値は無いよ。偽物が何をしたところで本物になんてなりはしない。誰もが偽物だと知ってるから、本物になれる訳が無い。〈冒険者〉だってそうさ。本物じゃないなら、〈冒険者〉に価値は無い」
「ふん……ならお前は本物なのか?」
「……」
「今しか見ない事ほど滑稽なことはない。価値が無いのはお前だ、クズが」
割り込まれた弩砲が、イミテイターの顔面へ向けて発射される。イミテイターは左手を捩じ込み盾にするが、数m吹き飛ばさたその場所に、顔面を伝って濡らす血がポタポタと滴り落ちた。
「お前は偽物である俺に倒されるんだよ、偽造者」
「……やってみなよ、夢見る人。どこまで行ったってキミの夢が現実になることは無いんだから」
偽物を断罪する偽造者と、偽物を本物に変えようとする夢追い人。
二人の価値観は平行線を辿ったまま、ぶつかりあいを続ける。
夢という現実ではない偽物に価値を見いだす弩砲騎士と、誰かが正しいと思う本物にしか価値を見いださないイミテイター。




