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狂った騎士の夢  作者: F
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偽造者

 イミテイターは望んでこの世界に来たわけではない。それはきっと、〈冒険者〉は皆そうだろう。

 それは抑えようの無い不満である。そのはずだ。

 だが、現実はどうだろうか。〈冒険者〉達は今を過ごすのに必死で、それはまるでどうにかして世界に馴染もうとしているかの様ではないか。

 そんなことは違う。そんなことは許されない。

 死んでも死ねないこの世界。まるでゲームと同じこの世界。ゲームと同じ見た目の身体……。


 そんなものは偽物だ。


 イミテイターは、最初は自分を傷つけた。偽物の身体が感じる偽物の傷み。こんなのは自分ではない。

 周りで笑い、怯え、手を取り合うこの全てが、本物ではない。

 誰もこの世界で生きていない。

 だから壊す。偽物を壊し続ける。


 偽造者(イミテイター)が全てを偽物と断ずる。なんと皮肉で滑稽なことだろう。


 だがしかし、イミテイターはそんな矛盾を露とも気付かないフリをする。

 偽物が偽物を断罪するその行為の全てが偽物なのだから。

 この世界の〈冒険者〉の存在を、誰かが正しいと思っているはずがない。


 故に、今この自分がいる丘の目の前でPKだの、PKから護るだの、そんなことをのたまう彼ら全てが


「──偽物だ」



 *****



「イミテイター!?」

「知り合いか?」

「そんなわけあるか!」


 キャンデロロは夢見る弩砲騎士に噛みつく勢いで怒鳴りながら、子供より小柄な少女、イミテイターの姿を見つめる。

 キャンデロロが手に入れた悪質PKのリストには、弩砲騎士の他にイミテイターの名も乗っていた。だが、危険度は段違いと判断されている。イミテイターの方が上だ。

 悪質PKなど全部同じだとキャンデロロは思っていたが、こうして実際に目の前で別々の人物に対峙してみると分かることがある。


 弩砲騎士はどこまでも腕試しの延長という印象が強い。†麗沙(れいしゃ)†も言っていたが、強い相手と戦いたいだけなのだ。それは実際に戦ってみると分かる。

 弩砲騎士はこちらの攻撃を防ぐだけ。おそらくキャンデロロの攻撃を全て防ぎきれるかどうか、なんてことを考えているのだろう。腹が立つが、武器攻撃職や強力なアイテムを持つトッププレイヤーの様な爆発力の無いキャンデロロの攻撃は、 このままいけば全て防がれるかもしれない。


 だが、それだけだ。

 弩砲騎士はあくまで己の力を高めるために手段を選ばないだけで、見境なく襲うことも無ければ、戦った相手が苦しむのを楽しむゲスではない。

 しかし、イミテイターは違う。

 出会い頭の全てを破壊する。無差別だ。

 時に相手が苦しむのを望むような殺しかたをすることもあると言うが、それでもイミテイターの表情は変わらない。

 理由は分からないが、直接戦った者達を全て偽物と断じていたそうだから、それが理由なのだろうか。


 全てを偽物と断じたくなる気持ちも分からなくは無い。いや、ある意味で全ての〈冒険者〉がああなる可能性を秘めている。

 究極の現実逃避。

 イミテイターからは、そんな狂気を感じた。


「悪いが、休戦といこうか」

「……ん?なんて言った?」

「休戦と言った。これ以上アレに好き勝手されるのは不愉快だ」


 弩砲騎士が弩砲を構える。一瞬攻撃エフェクトが光り、黒鉄の矢が発射された。

 目標は清祥達の乱戦で戦うイミテイター。

 小柄な少女は鉄矢を巨斧で叩き落とすと、ぐるんと言うほどに不気味な動きで弩砲騎士を見た。


「今のキミ?」

「それ以外の誰かに見えるのか貴様は」

「あっそ」


 ほんの20m程度の距離を詰めてイミテイターは巨斧を振り下ろす。

 左手にミカを抱えた弩砲騎士が再び右半身のみで応戦しようとした時


「大丈夫よ」


 両手に二つの〈リーフシールド〉を構えたミカが、弩砲騎士の手の中からイミテイターの攻撃を防いだ。


「その程度、効かないわよ?」

「キミ、さっきまでそこの鎧と戦ってたんじゃなかったっけ」


 一瞬動きの止まったイミテイターへ向けて、弩砲が連射される。巨斧を盾に防がれた勢いで宙を返り、鉄矢の雨を潜り抜けるとイミテイターは無理な姿勢に関わらず難なく着地する。

 弩砲騎士が砲口をゆらゆらと揺らしながら牽制し、イミテイターは斧を横に構えてジリジリと移動する。


「お嬢ちゃんに俺を倒す理由はあっても助ける理由は無いはずだが、何故助けた?」

「うーん、そうねぇ……じゃあ、あとで仕返しするためにここで倒れられちゃ困るからってことにしておいて」

「む……話す気が無いなら、仕方ない……だが、思ったより元気そうで安心した」


 弩砲騎士はそう言うと、背後にいるキャンデロロにミカを放り投げた。


「わっ!?」

「お嬢ちゃんを頼む、爆音キャンディ」

「その名前で呼ぶなっていってんでしょ!!」

「はじめて言われたな」


 尻餅を付きながらキャンデロロがミカを受け止める。

 それを確認もせず弩砲騎士は黒鉄の矢を放った。

 弩砲から飛ばされた矢を潜り、イミテイターが再び接敵する。それに正面から弩砲騎士が踏み出した。

 全力で踏み出した一歩だけの突進。斧の刃が届かない至近に、200㎏超えの巨体が前に来るだけという単純だが、それ故に脅威の力押しである。


「チッ」

「小柄な身体を補うためだろうが、その大きさだと取り回しが悪そうだな小娘!」


 腰に固定された弩砲から右手をはなし、極至近距離まで詰め寄ったイミテイターの斧を握った。

 そのままジャイアントスイングの要領で振り回そうとする。が……ビクともしない。


「何っ」

「発動したスキルを生身で止められる訳無い……〈虎口破り〉!」


 突撃の勢いを緩めないまま、弩砲騎士の身体に斧をぶつけた。そして、逆に弩砲騎士を吹き飛ばす。


「ぬぉお!」

「舐めてるのはそっちだ」


 〈虎口破り〉の効果で一瞬怯んだ弩砲騎士に、イミテイターが畳み掛ける。〈火車の太刀〉で連続で斬り付けながら、円を描く様に弩砲騎士の周囲を移動し狙いをつけさせない。


「そのナリで〈武士(サムライ)〉とはな!」

「キミに言われたくないね」


 弩砲騎士が大きく腕を振り回す。〈オーラセイバー〉をのせた裏拳が〈火車の太刀〉を帯びた巨斧とぶつかり、双方の動きが止まる。


「気に入ったぞ。仕切り直しといこうか、小娘」

イミテイターのキャラシートは以下になります。許可を下さったアロマルさんに感謝を。



▼イミテイター

http://lhrpg.com/lhz/pc?id=57630



ちなみにイミテイターを本編では少女と描写してますが、本人は男だと言ってる性別不詳らしいです。

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