出会い
「ほい」
「くっ……」
〈盗剣士〉のダガーマニア@レイピア使い ─こんな名前で得物はバスターソード─ が〈武闘家〉の男を斬りつける。深くダメージを与える斬り方ではなく、当たれば良いと思っている斬り方だ。
ダメージは少ないが、攻撃を受けた〈武闘家〉の男のステータスに衰弱のバッドステータスアイコンが追加される。
そこに〈付与術師〉であるカランドリッツが短剣でさらに斬り込みバッドステータスを追加。〈武闘家〉の男の受ける継続ダメージが増える。
「ほらほら、早く治さないと死んじゃうよぉ!?」
「まぁ、ヒーラーは……あれだから、望み薄だよね」
カランドリッツが視線を向けた方。そこでは、夢見る弩砲騎士が“ミカ”というキャラネームの〈森呪遣い〉の少女と戦闘している。
驚くべきことに〈森呪遣い〉の少女は、弩砲騎士の半分ほどの体躯にも関わらずその両手に持った盾 ─〈リーフシールド〉という〈森呪遣い〉が装備可能な製作級アイテムの盾─ を駆使して真正面から弩砲騎士の高火力砲撃を受け止めていた。
無論、防御力のみで攻撃を弾くことは出来ず、少しずつHPダメージが蓄積していくが、そこは〈森呪遣い〉。自らに付与した脈動回復で全快までHPを回復する。
弩砲を受け止めるHPの多さ、それとそのHPを全快する脈動回復の回復量は驚嘆すべき脅威だ。これが現在戦っている敵PTに付与されたら一気に戦況を覆される可能性がある。
故に、弩砲騎士が釘付けにしているのだ。
「リッツ!余所見するな!」
「あっぶね。ごめんよ、清祥!」
「ダガー、切り込め!俺も前に出る。ニコ、カウント3でタウント!……2、1!」
「いえっさぁ!〈アンカーハウル〉!」
ニコと呼ばれた〈守護戦士〉 ─なお彼のキャラネームは“⊂⊂⊂(^ω^ )⊃⊃⊃”という顔文字である─ はカランドリッツに攻撃を仕掛けてきた〈武士〉とカランドリッツの間に入り、タウントを行う。
自分の意思ではどうしようも出来ない感覚が敵の〈冒険者〉の間を駆け抜け、ニコへと視線が固定された。
「くそっ……」
「便利だよなぁ、敵にもタウントが効くなんてよぉ!」
「視線を固定された状態は慣れないと辛いッスよね。そのおかげでオイラも動きやすいんスけど」
相手の戦士職がタウントをする前に、〈暗殺者〉のカモガワが〈武士〉の背後から〈フェイタルアンブッシュ〉で攻撃を仕掛ける。小刻みでかつ執拗な攻め手は相手を防御以外の行動に移させない。
今相手にしているPTは戦闘慣れしているのかカランドリッツ達の攻撃を上手くしのいではいる。が、刻一刻と劣勢に追い込まれていく。打開の策はいくつかあるが……
「〈ライトニングネビュラ〉!!」
「〈護法の障壁〉」
そのことごとくを清祥が潰していた。
そんな状況に、PTのリーダーらしき〈召喚術師〉がギリッと歯を食い縛る。
「こんなところでPKと鉢合わせるなんで運が無い……!」
「何とかミカさんだけでもアキバに渡せませんかねっ」
「今の状況じゃ厳しい……くっ、折角彼女もここまで来たというのに……」
チラッと〈召喚術師〉のリーダーがミカと弩砲騎士が戦闘を行う場へ目を向ける。そこでは、装備をボロボロにしながら膝をついたミカ ─戦闘が始まる前からボロボロではあった─ へと弩砲騎士が近付いていく所が目に入った。
そして、その場面を見ていたのは〈召喚術師〉だけでなく、清祥も同様だ。
「向こうはもう決着がつきそうだな」
「くそぉ!!」
〈召喚術師〉のリーダーは悔しげに唇を噛みしめ、清祥は予定通りだと言わん限りの余裕の笑みを見せる。
だが、そんな彼らの予想を斜め上に裏切る言葉が次の瞬間弩砲騎士の兜の中から発せられた。
「やめだ」
「は?」
「え?」
清祥達も、ミカという少女を護ろうとしていたPTも、敵味方関係なく時間が止まったかの様だった。
弩砲騎士はミカを見下ろす位置まで近付くと、弩砲を腰に収納 ─と言っても引っかけるだけだが─ しながらこの場にいる全員に話しかけるかの様に喋り始める。
「決着がつきそうにない。これ以上は無駄だ」
「いや無駄って……このままやれば俺らの勝ちじゃん大将?」
「この娘に勝てない」
弩砲騎士はミカを見下ろす。
ミカは息も絶え絶えな様子で膝をついていた。しかし、その目の光は決して失われることなく、弩砲騎士を見つめている。
〈冒険者〉に備わっている自動洗浄機能のおかげで、〈冒険者〉の装備は大抵いつ見ても綺麗すぎる程に綺麗だ。しかし、目の前の少女の装備はその機能の恩恵を受けていないかの如くにボロボロだ。恐らく、装備の耐久度がもう無いのだろう。
装備の手入れもマトモに出来ず、それでも弩砲騎士と相対できる実力を発揮しなければいけない程の場所からこの娘は来たのだ。
「お前、どんな地獄を見てきた」
「……もう、覚えてないわ」
少女が力なく笑う。
弩砲騎士は無表情の様に感じさせる無機質な動作で、ミカを抱えあげた。
「気に入った。このお嬢ちゃんを連れていく。そこのプレイヤー共も、来るなら来い。歓迎しよう」
「え、お、はぁ……」
突然の事態についていけないのはこの場のほとんどの人間がそうだ。
唯一、カランドリッツと清祥が
「大将、またかよ……」
「実はロリコンだったとかは、勘弁しろよ……」
そう言ってこの場にいる人間の中で、ほんの少しだけ事態を理解していたのだった。
とりあえず人を拾ってくる弩砲騎士