エリーザとヴィレジーは牢屋行き?
ある日、子供が死んだ。それだけなら悲劇的ではあるが、珍しくも無い事だ。
重要なのはそれが明らかに毒のせいであることだった。
当初、真っ先に子供の母親が疑われたがその疑いはすぐに晴れた。井戸の水に原因があることが分かったからだ。
「井戸に毒を入れるなんて、酷い事をするものね」
「ああ、全くだな。そのせいで子供が死ぬなんて、酷いことだな」
グレンは、ギルド本部と隣接した酒場でエリーザとヴィレジーを見付けた。
最近、『始まりの森』には何かが居る。それはドリセアに以前報告した通りだ。
Eクラスのパーティーは何事も無く帰還するのだが、Fクラスの弱いパーティーや仮登録しかしていないパーティーとなると何故か皆一様に帰って来ない。
しかし、帰ってきた冒険者たちは何も変わったことが無かったという。手ごたえのないモンスターばかりだと笑い飛ばす程だ。
これは、相手が己の分を弁えて、弱い者達だけを選んで襲い掛かっている可能性が高い。敵はある程度の知性を持ったやつに違いない。
「お待たせして、申し訳ありません」
今日、酒場にこの二人を呼び付けたのはグレンだ。
この二人くらいなのだ。『始まりの森』から無事に帰って来られた新人パーティーは。
「ええ、いいわよ」
「貴方は、たしかギルド長の補佐官の……」
「グレン・シーモアと申します。今回、内密に貴方達と話がしたいと思い、お呼びしました」
少女と青年は『補佐官が何の用だろう』と言いたげに意外そうに顔を見合わせた。
鋭くグレンはその様子を観察する。だが、瞳孔や呼吸に異常は見られない。余程神経が太いのか。
この二人には、なにかがあるはずなのだ。
「ふふ、グレンさんは受付のお姉さん達に人気なのね。今度、お茶に誘われたのよって自慢しようかしら」
「駄目だろう、エリーザ。彼は内密にと言っているんだから」
くすくすと笑う少女を、兄が諌める。それだけなのに、この違和感は何だ。余裕があり過ぎる。
「単刀直入に言います。お二人には、ある嫌疑がかかっています」
「あら」
「……僕達が、何をしたというのでしょう?」
グレンは淡々と述べた。
先日の、井戸に毒を入れられた事件。その犯人として、二人の名前が挙がっているということ。当日、二人の姿を井戸の近くで見たという目撃情報があるということ。道具屋の主人から、二人が毒を購入したとの報告があること。
「貴方達は、井戸の近くで、何をやっていたのですか?」
「何もしてないわ。買ったのも、モンスターを狩るための毒よ。ナイフや剣に塗って使ったわ」
「偶然通りかかっただけです。証拠がそれだけで、僕たちを犯人扱いするのですか?」
「申し訳ありませんが、その通りです。……お二人の身柄を、拘束させていただきます」
咄嗟に逃げようとしたのだろう、少女が立ち上がり、走り出そうとするのをすぐ後ろのカウンター席に座っていた男が捕まえた。
「エリーザ!!」
「このっ、放しなさいよ! こんなことをして、ただで済むと思ったら――――」
青年が少女を助けんと男に掴みかかるが、不意に膝をついた。そろそろ、薬が効いてくる頃だ。
前もって、酒場の主人に話を通し、二人の飲み物に薬を混ぜておいたのだ。二重に罪を犯した疑いがある以上、絶対に取り逃がす訳にはいかない。
「連れて行け」
短く命令して、ぐったりと意識を失った二人を担ぎ上げる部下を見送った。
ギルドの地下牢に二人を拘束し、様子を見る。これで被害が出なくなれば、間違いなく二人は黒だ。
「ドリセア様、これであの2人が白だったら大変ですよ」
「お前が言ったんだろう。私はお前を信じている、自信を持て。それに、白だったとしたら多少の色を付けて詫びるしかないさ」
1週間後。―――――二人は、白だった。
彼らが拘束されている間に、また2人の子供が井戸水で命を落とし、3つのパーティーが失踪した。
「……真に、申し訳ございませんでした」
「全くよ!! こんな薄汚い所に閉じ込めて、どう落とし前付けてくれるのかしら!」
「何にせよ、疑いが晴れたようで安心しました」
烈火のごとく怒る―――演技をするエリーザと、それを窘める―――振りをするヴィレジー。
たっぷりの謝礼と宿泊代を無料にすること、持ち込んだ素材の高価買取などの約束を取り付けて、二人は薄暗い湿った地下牢を後にした。
「グレンさんは、きっとまだ私達の事を疑っているでしょうね」
「疑われるってのはなんかゾクゾクするな」
「悪事っていうものは、人の心のお菓子みたいなものよ。いい、これから私とあなたは別行動。やることは分かっているわね?」
子供1 享年6歳
子供2 享年8歳
その他冒険者
全員来世に期待。