そして未来は消え去った
しかし、彼らは運が悪かった。
出会ったのがエリーザとヴィレジーでなければ、いやそもそも冒険者になろうと思わなければ、退屈ながらも幸せな人生が送れたのかもしれない。
冒険者になると決めた時点で、死ぬことは覚悟していただろう。きっとその覚悟は安っぽくちゃちなものでしかない、本当に死ぬ直前になれば容易く崩れ去るような脆いものだった。
けれど、こんな惨めな運命を迎えるとは夢にも思わないはずだ。
運も実力のうちという。要は、若さはあってもそれ以外が足りなかったのだろう。
「1人1匹が限界みたいね」
「それならどんどんやろうぜ」
え?
「アルド、危ない!」
二人の会話に気を取られ、すぐ傍まで迫る新手のスライムに気付かなかった。
顔に伸びてくる触手をギリギリで避ける。ディーの放ったファイヤーボールが直撃し、スライムは燃え尽きた。
「ぼーっとするな、戦いに集中しろ」
見れば、5体のスライムが自分達を取り囲んでいる。先程の3体の仲間だろうか。
「やれるか?」
ノルが尋ねた。もし厳しいならば退路を確保し、逃げるつもりだった。
そうは問屋が卸さないのがヴィレジーとエリーザの二人である。
「きゃー、スライムがあそこにも」
「うわー、こっちにもいるぜ」
演技をする気も無くなった二人は、やる気のない棒読みでアルドたち3人に注意を促した。
つられて二人の指した方向に目を向けると――――「なんだ、あれは……!」
数百匹、いや数千匹かもしれないスライムが、団子になりつつこちらに迫ってくる光景がそこにはあった。
「逃げるぞ!」
「無理だ! こっちからも来てる!」
違う小道からも、同じようなスライムの塊が転がって来ていた。
「逃げ道はっ」
なかった。
逃げ惑っている間にもスライムの巨塊は迫ってくる。数千、数万のスライムが視界を覆い尽くしていく。
水面のように揺れるスライムの海。濁った緑色のそれは、正しく絶望だった。
「ほらほら、戦わないと死んじゃうわよー?」
「スライムに負けたなんて、相当恥ずかしいぜぇ?」
遠くから二人の声が響くが、スライムの壁で視界が遮られ、もう見ることは敵わない。
「――――――――――――!」
叫んでも、頭の声は消えてくれない。
スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた。スライムが現れた―――――――。
ぐじゅぐじゅと捕食されていく3人を、二人は好奇の目で眺めていた。悪趣味だと他人は言うだろうが、二人ともどうして、こういう景色は嫌いじゃない。
「圧勝ね」
「数の力って恐えな」
ふと、ヴィレジーが疑問の声を上げた。
「どうして誰もこれを思いつかなかったんだ?」
エリーザが少し考えて、彼女なりに説明した。
「一つ、召喚士にとって強い魔物を使役することがステータスだから。数なんて関係ないから、スライムを使役しようなんて考える人がいないの。二つ、一人の術者が操作できる魔物の数には限りがあるから。三つ、できると思ってもやらないから。弱いスライムなんて数集めても、大魔術師や大賢者に『ゲヘナ・インフェルノ』やら『バースト・タイタン』とか炎系の大魔法を使われると弱いのよ」
「それ、俺達もヤバくね?」
「きちんと対策はしてあるわ」
さぁ!とエリーザは高らかに笑った。ヴィレジーはそれを子供のように無邪気な目で見つめる。
「冒険者ギルドを襲撃するわよ!」
「おうよ!」
アルド 享年15歳
剣士見習い
頑張ればCランクくらいにはなれた少年。
リーダーシップは一応ある。騒がしい。
来世に期待。
ノル 享年15歳
剣士見習い。
努力すればBランクに至れたかもしれない。
無口。無表情。人付き合いは得意ではない。
来世に期待。
ディー 享年15歳
魔術師見習い。
回復魔法が得意なので順調に成長すれば良いヒーラーになれたはず。
皮肉屋。現実主義。
来世に期待。