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金はなくとも希望はある!

 アルドとノルとディーの3人は、その日も『始まりの森』に居た。

 本来ならばさっさと次のダンジョンに行きたいのだが、路銀が尽きてしまったのだ。このままでは野宿だ。

 安定した収入を得るために、ハイリスクハイリターンな中級ダンジョンより、ノーリスクローリターンな初級ダンジョンを取ったのだ。万が一怪我をしても、ポーションを買う金すらもう無い。


「こんなんで、俺達やっていけんのかな……」

 つい、弱音を溢した。アルドの中では、既にちょっとしたことで名を上げて、注目のルーキーギルドとして名を馳せている予定だったのだ。それがどうだ。現実では、その日の金にすら困る毎日。宿代だって馬鹿にならないし、ポーションも高い。新しい武器など買おうと思ったら破産するしかない。

「パーティーとしてはよくやっていると思う」

 そうノルが慰めた。

 剣士のアルドとノルを前衛とし、基本的な敵を撃破する。その後ろから、傷ついた仲間を援護するのがディーだ。決して悪くない構成だった。


 問題なのは、装備と彼ら自身の実力だ。どちらも弱い。

 それが、歯がゆかった。


 ちゃんとした鎧さえあれば、もっと勢いよく敵に突撃していけるし、怪我を負うことだって少なくなる。ディーのMPをヒーリングだけで使い果たさせてしまうようなこともなくなるはずだ。

 もっと丈夫な剣なら、より強い敵を倒して、多くの経験値を手に入れられる。そうすれば、もっと早くアルドたちは強くなれるはずだった。


「情けねーな、俺……」

 金が欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。喉から手が出る程に欲しい。

 退屈な村だった。畑も牛も放り出して、今まで溜めた貯金と家にあった剣を持ち出して、冒険者になろうと決意した。

 必死に引き止めた家族を振り払ってきた結果がこれだ。情けなくて仕方がない。


「では、あきらめますか?」

 揶揄するような口調の質問。ディーが意地悪いのはいつものことだ。


「諦めない。ここで諦めたら、全部お終いだ。ここを乗り越えて、それから俺たちの冒険が始まるんだ」

「その通りだ」

 元気付けるように笑う仲間達を見て、アルドの胸が熱くなる。こんな自分に付いてきてくれたのだ。後悔なんて、させて堪るか。

しょぼくれていた自分を鼓舞し、視線をあげる。太陽の光が、やけに目に突き刺さるような気がした。


 その時、悲鳴が聞こえた。どこかで聞いたことのある声だった。

「――――!」

「行くぞっ」

「はい!」


 悲鳴の上がった方へ走れば、一人の少女がスライム3体に囲まれていた。前にギルドでぶつかった青年の妹だった。

 大げさな悲鳴だったのでずいぶん焦ったが、これなら今の自分達でも対処できる。


「大丈夫かっ?」

「兄さんの方はどうした」

 少女を背に庇うように、スライムと対峙する。少女の美貌も相まって、まるで物語の騎士になったかのようだ。

 涙を浮かべた少女は、嗚咽混じりに答えた。

「薬草を、採っていたら、えぐっ、兄様とはぐれて、しまってっ。お願い、助けて!」

「ああ、いいぜ! これくらい、俺たちが軽く倒してやるよ!」

 安心させるように振り向いて微笑めば、少女は不安に強張った頬を緩ませた。

 アルドが少女の笑顔に心を奪われ見惚れていると、後衛のディーがそっと囁く。

「この子を助ければ、謝礼を貰えるでしょう。良い所のお嬢様でしょうから……きっと期待できますよ、これは」

 現実的な幼馴染の意見に苦笑する。それでも、この3人だからこそ、これまでやって来られたのだ。


「いくぞ!」


 伸びあがってくるスライムの触手を切り払い、核を目指す。緑色の液体の中、ぼんやりと白い塊が浮かんでいるのが、核だ。いくら触手を斬っても核を壊さなければ弱らせるだけで殺すことは出来ない。

 触手を掻い潜り、アルドは核に剣を突き立てた。

 ぷぎぃ、と声をあげて死んでいくスライム。体液が顔に飛び散るが、それすらも心地いい程気分は爽快だった。

 ノルも同じように一匹を仕留め、ディーの前には黒焦げのスライムだったものが落ちていた。

 

 不意に近くの木陰がガサガサと揺れる。第二の敵かと身構えるが、現れたのは少女の兄だった。

「無事か、エリーザ!?」

「ヴィレジー! 遅いわよっ」

 兄の元へ一直線に走っていく彼女に、『せめてありがとうくらい言ってほしい』などという思いがよぎる。

けれど、誰かを守れた、というその事実はアルドの世界を明るく照らした。



感想が欲しくて彷徨い歩く妖怪とかいませんかね

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