キーアイテム入手
「あの3人も森に行くみたいね」
「出来るだけ人に見られたくないんだろ……どうする?」
そうね、とエリーザは考えた。自分達と同じ見習い冒険者。居なくなっても怪しまれない、けれど良い実験体になりそう。
エリーザは特別頭が良いという訳では無いが、ヴィレジーよりは考えることが苦手では無かった。そのため、二人の間で問題が生じた時は、エリーザに判断が委ねられることが多い。
「まぁいいわよ。あの子たちは殺さない。けど、目は離さないでおきましょう。後々、あの子たちを使ってある程度計画の進行を測れるはずだわ」
「んじゃ、殺さない」
『始まりの森』と呼ばれる森がある。広さも手頃、出現するモンスターも弱く、手に入るアイテムも安い物ばかり。初心者が経験値や金を稼ぐ場所として最初に訪れるダンジョンだ。少し慣れてきたと感じたら、多くの冒険者は近くの洞窟のダンジョンに移るため、ここを訪れるのは本当の初心者だけだ。
出されていた依頼はヴィレジーとエリーザが受けられるだけ受けてきてしまったため、人影は無い。受け残した1件をアルドたちが受理したようだが、計画に支障はない。態々ギルドに登録したのは、出来るだけ人払いをするためだ。木々が少し開けた空間を見付けた二人は、最終事項を確認した。
「じゃあ、始めるわよ」
ヴィレジーが懐から取り出した『呼び鈴』を振る。周囲に、リィンと澄んだ音が響き渡って行くのを感じる。
『呼び鈴』とは扉についているあれではなく、れっきとしたアイテムだ。効果は、周囲のモンスターを無差別に呼び寄せる効果がある。臆病なレアモンスターを誘き出したい時や、経験値を一気に稼ぎたいときによく使われる。
「来たぜ」
「分かってるのよ」
うじゃうじゃとモンスターが集まってくる。植物型のモンスターやラビリンと呼ばれる兎の様な鋭い牙をもつモンスター、気持ち悪いくらい大きな昆虫型モンスターなど、一匹一匹は雑魚だが、それでも先程記入したこの二人の職業を考えれば、相当厳しい戦いになるのは間違いなかった。
モンスターの群れの中から、エリーザはルビーのような目を凝らして標的を探す。居るには居るが、他のモンスターに囲まれて、とてもたどり着けそうにない。
「ヴィレジー、あれとって」
「おまっ、そんな簡単に言うなよな。俺が怪我したらどうすんの」
「いーから、早く。お金持ちになったら、ヴィレジーの命くらいいくらでも買ってあげるわ」
「買えるか! チッ、金のためならしゃーねーなーぁ」
渋りながらも、ヴィレジーはモンスターの群れの中へ無造作に踏み入った。一斉にモンスターに攻撃されるも、気にすることなくお目当ての標的を捕まえる。
「投げちゃダメ。絶対にその子を傷付けないように、ここまで持ってきて」
「言うだけなら簡単だよなぁ」
「今回仕事しないんだから、せめて体を張りなさいよ」
「対価は身体で払えってことだな」
群れからようやく抜け出せたヴィレジーの服はボロボロであった。が、その腕にしっかりと捕まえているのは――――スライム。くにょくにょと蠢き腕から逃れようと抵抗している。エリーザの望む、元気な生きの良いスライムのようだ。
「よくやったわ、ヴィレジー!」
口ではそう言いつつ、エリーザの目は完全にスライムに向いている。相方の怪我に注意を払う様子は全くない。
「これで本当に金儲けになんのかぁ?」
ヴィレジーは些か疑わしげな口調だが、そこに隠しきれない期待と嬉しさが滲む。
エリーザがここまで興奮しているのだ。それはもう楽しくて愉快なことが待っているに違いない。
一話あたりの文字数がまちまちなのをなんとかしたい。
次回は今回の二倍あります。