公園
昨日思いついたものを書いたものです。感想等お願いします。
ある昼下がり。
急いでやることがなく暇な僕は、風が強く、また晴れ渡って日差しが強い日になんとなく散歩していた。
特に用事があったわけなどない。ただ、こんなに晴れているのだから外に出ようかなと思ったぐらいで散歩をしていた。
親が通学のために借りてくれたアパートの一室から出て鍵をかけた僕は、空を見上げたり周囲の家などを見ながらあてもなく歩いていると、公園に着いた。
何の気なしに足を止める。
その公園は、平日の午後三時くらいから小学生がワイワイ遊ぶ姿が見られる。
片方がグラウンドでサッカーや鬼ごっこをしている子供たち、もう片方がブランコやジャングルジム、砂場や雲梯で遊ぶ子供が結構見られたのだが、今日は休日だからかガランとしていた。
なんだか懐かしくなった僕はそのまま公園に入る。
まず向かったのは、ブランコだ。
何年か前にブランコが危ないとかいう理由で姿を消していたらしいのだが、ここだけは健在のようだ。なんとなく嬉しい。
試しに乗ってみるとうまく座れず、また、足が地面に付きすぎてこぐ動作が難しい。
昔はうまく乗れたのにと思いつつ立って乗る。しかし身長のせいかてっぺんに頭をぶつけて涙目になった。
そしてふと湧く成長したという実感。
なんだか寂しいなと後ろ髪を引かれつつ諦めた僕は、別な遊具に向かった。
だけど結果は同じ。
雲梯は僕が立ってつかむ場所になく、砂場は狭いからか身動きがとり辛い。唯一まともに遊べたジャングルジムでさえ、いともたやすく登れてしまい、達成感がない。
ジャングルジムの頂上で座りながら、強い風に吹かれながら僕は呟いた。
「……本当、年を取ったよなぁ、僕」
はぁっと息を漏らしてジャングルジムからの景色を眺める。
まだ夕方になっていないからか日の明るさは変わらないし、未だに風の強さも変わらない。
周りに家があるからあまり壮大な景色は見えないが、少なくとも夕日が見れるときは感動的だろう。
ここまで考えて昔の自分、子供の頃の自分を思い返す。
昔は良かったというには長く生きてないけど、子供の頃を思い出すと『ああ、よかったな』といつも思う。
純粋に物事を楽しめたあのころ。遊びに夢中になったあのころ。好きな子の話で赤面したあのころ。
毎日が驚きで一杯で、毎日が刺激で一杯だった子供の頃。
いつからだろうかとそのままその場で考える。
いつから、僕は公園に来なかったのだろうかと。
小学生は家に帰ったらすぐに公園に行ってみんなと遊んで、夕飯まで遊び倒してから勉強した。
中学生は学校の帰り道の途中に公園があったのでそこで同じ方向の友達とおしゃべりしたり、集合場所に指定した家で遊んだり、勿論公園でも遊んだ。
高校生にもなると、公園で遊ぶことがなくなったかな。一年生の頃は近所の子供たちに混ざって遊んだ記憶があるけど。基本的に学校でゲームだったりだったし。
で、三年にもなると勉強のせいで遊び自体があまりできなかったから公園自体疎遠になっていた。
となると高校三年の頃から遊んでないのかと結論付け、一年ぐらいしか公園で遊んでいないことに気付いて驚いた。
たった一年。月に直すと十二か月。日にちに直すと三百六十五日。そのぐらいしか遊ばなかった時間がないのに、僕の中では何年も遊んでいないと錯覚していたから。
時というのは恐ろしいものだと思った僕は、何の気なしにジャングルジムのてっぺんに立って公園を見渡す。
そこに映るは毎日と変わらない公園。柵である木が揺れ、公園内に植えられている木も音を立てて揺れる。
当時の僕だったらここまで見渡せないであろう景色。それを見た僕はのどかなぁと思うと同時に、こんなことを思っていた。
公園って楽しいな、と。
公園という一つの空間に、子供たちという存在者が遊ぶ場所。そこで社交性と協調性、コミュニケーション能力や創造能力など様々なものを身に着けられる場所。
無論、当時の僕達にそんな意識などない。今の僕の視点故に語れる、公園という名の空間の有用性だ。
と、ここまで考えて僕は、自分の気持ちが高ぶっているのに気付いた。
なんというか、公園という場所に対して思い入れがあるといったようなものなのだろうけど、どちらかというと童心に帰ったという方が正しい気がする。
誰も周りにいない静かな公園。照りつける太陽と強い風のせいか閑静な周辺。
僕は即決した。
そこからはひたすら一人で遊んだ。部屋に戻って持ってきていたサッカーボールでリフティングしたりジャングルジムにバスケのシュートの要領でいれて自分の中で決めた点数を合計したり、雲梯でどこまで膝を曲げるだけで通れるかというのをやったり、砂場でピラミッド擬きを作ったり、ブランコでは膝を乗せてブランコをこいだりして。
まぁ途中から近所でよく見かける子供たちに「混ぜてー!」とか言われたから一緒に遊んだけど。
時刻は午後六時。ギリギリ夕日が落ち切る寸前で解散した僕達。
サッカーボールを片手に持ちながら、久々に心から楽しんで遊んだ満足感と一抹の虚無を帰りながら僕は感じた。
楽しい時間は速く過ぎる。それは、集中している証拠。こういう遊びというのは、特にそうだ。
時計などを持たずにみんなでワイワイはしゃぐ。親に呼ばれるまで、日が沈むまで、気のすむまで、思いっきり遊び倒す。
やはりこういうのは楽しい。改めて僕はそう思った。
が、終わった後の儚さも強い。同時にそう、思った。
夢はいつかは覚める。それと同じように、僕達は成長し現実に身を投じていく。
今はまだ学生だけど、あと数年もすれば僕も現実という社会の中に身を投じるのだろう。そしてその中で心身ともにすり減らして生きていくことになるだろう。
一寸先は闇だけど、確証のある未来はこんな風に語れる。ただ、そんな未来で自分がどう生きているのかは不明瞭。
ならどうするかなんて考えようと思ったけど、自分の中で何も定まっていないので考えられない。
でも今言えることがあるのなら
「公園ってやっぱり楽しいな……」
うんやっぱり公園はいい。
でも不思議なことに公園の利用は年を取るごとに、具体的に言えば働き盛りの人たちの間はすごい低い。子供と一緒ならあるだろうけど、個人的に利用する人が特に。
やっぱり羞恥心が邪魔をしてるのかなぁと思いながら、僕はふと漏らした。
「大人が遊べる公園ってないのかな……」
無論それは雀荘とかの話でも、ジムでもない。
子供たちが無邪気に遊んでいるような、そんな公園。あんな風に遊具で人の目も気にせずにさまざまな遊びをする公園。
あったらいいなぁと思う半面、とても子供のように遊ぶ姿が想像できなくて苦笑いを浮かべる。
とてもじゃないけど子供のようにはしゃぐという姿が想像できない。だってみんな仕事でてんてこ舞いになってるし、段々と子供のような心を失ってきてるし。
これじゃぁなんだかなぁと思いながらサッカーボールを部屋の玄関に置いて家に入り手を洗っていると、ドアがノックされた。
「はーい」
蛇口を捻って水を止め、洗い終わった手をタオルで拭く。それから玄関のドアノブを開けると、そこにいたのはお隣さんだった。
一応同い年で同じ大学に通っているけど、登校時以外にあまり接点のない。隣同士の挨拶ぐらいなら普通にかわすけど。
そんなお隣さんがいるなんて僕は何かやらかしたのだろうかと戦々恐々していると、彼女は「君って子供みたいにはしゃげるんだね。恥ずかしくないの?」と真顔で聞いてきた。
僕はまさか見られたのかと思い訊ねると、「買い物の帰りに公園を通りかかったら子供たちと一緒に色々遊んでたじゃない。ヒーローごっことか」と答えられ、そこで疑問に思った。
そんなのは僕の事だけであってお隣さんには関係のないこと。なのに、どうして彼女はこんなことを質問してきたのだろうか?
思わず首を傾げると、彼女は怒ったのか若干語尾を強めて「で、どうなの? 恥ずかしくないの?」と訊いてきたので、僕は少し考えてから「……まぁね」と答えた。
「そう。意外ね、君みたいな人ならすぐさま恥ずかしいと答えそうなものなのに」
「君は心理学者か何か? それと、僕みたいな人ってどういう人?」
「う~んたとえるなら……草食動物みたいな感じ?」
前者の質問をスルーされ、後者の質問だけ答えられた。おそらく、バカバカしくて答える気がなかったのだろう。
しかし草食動物か……案外的を得ているな。
そんなことを思っていると、彼女がさらに質問してきた。
「公園ってどう思う?」
僕はさっきまで思っていたことを口にした。
「干渉を受けず、その場にいる全員が楽しく遊べる空間」
その言葉を聞いて彼女は少し驚いたようだったけどすぐに表情を笑顔に戻し、「明日暇だったら部活棟近くにあるプレハブ小屋に来てね」と言って戻ろうとしたところで、「あ、ごめん。これ、よかったらどうぞ」と言ってタッパーに詰められた肉じゃがを差し出された。
反射的に礼を言って受け取った僕は、彼女が部屋に戻った後もその場に佇んでいた。同じ学科で上の階に住んでいる友達に「何立ちっぱなしなの、お前?」といわれるまで。
次の日。
取っていた講義をすべて受け終えた僕は、お隣さんの言葉に従い部活棟近くのプレハブに向かった。
のはいいんだけど……
「結構デカいし。ていうか、本当にここでいいのかな?」
なにやら部活棟に勝るとも劣らない大きさのプレハブが、その部活棟の隣にあるからだ。というより、これ以外のプレハブがない。
とりあえずノックする。
すると扉が引き戸になっていたらしく開き、中から男の人が出てきた。
「どうした?」
「え、えっと。昨日お隣さんからここに来るように言われまして…」
「ん?」
「え?」
首を傾げられたので同じく首を傾げると、後ろから呼び出した本人が声をかけてきた。
「あ、来たんだ。良かった」
振り返ると、後ろにはやはりお隣さんがいた。
……ただし、その後ろに色々な人を従えて。
随分と濃そうな人たちだ。メガネかけてパソコン片手にぶつぶつと呟きながら打ち込んでる少女に、何やら爆薬についての本を怪しそうな笑みで読んでいる少年、身長は低いけど何やら資料を見てはぶつぶつと呟いている少女、筋肉隆々でどこから持ってきたのか鉄パイプを抱えてる男の人等々。
結構個性的な人だなぁと思いつつ、僕はここがなんなのか聞いてみた。
「ねぇ、ここって「遅かったな。また何かもめたのか?」…」
「ちょっと。話を遮っちゃ可哀そうでしょ。それに、私が彼の事を呼び出したんだから」
「……む」
僕の後ろにいた男の人を黙らせた彼女は、僕に向かってこう言った。
「ようこそ公園製作委員会へ。歓迎するよ」
――――これはお隣さんを中心として『大人が遊べてリフレッシュできる公園を作るぞ』という名の下に集まった人たちの、賑やかであり、騒々しくもあり、それでいて楽しい日々の幕開けだった。
さぁって連載書くかー