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the school of magic  作者: 長部 真
第5章 逆転の行進曲≪マーチ≫
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第5章 逆転の行進曲≪マーチ≫ⅩⅢ

 千の光球と共に空中に悠然と佇むのは、着流しの白髪の老人だった。


 戦闘が得意そうには見えない、こんな場所にいるより碁会所で碁を打っている方が似合いそうな老人は、上に挙げた両手を下へと、愛美たちの周りの方へと振り下ろした。


 その動きに連動し、光球が我先にと地上へと殺到する。

 辺り一面が白一色に染まった。



 何の備えもしていなかった愛美たちの視界はチカチカと点滅し、辺りの様子などかけらも分からない。

 だが、騎士たちが動く時に出る鎧が擦れる音が聞こえない事から、ある程度の数は削れたのだろうと愛美は検討をつけた。


 実際は『ある程度』どころでは無く、『ほぼ全て』なのだが……。




◆◇◆◇◆◇


 視界が回復し、周囲の様子が判るようになると久美が軽く悲鳴を上げた。



 死んだら消える仕様のお陰で騎士の残骸こそ一欠けらも無いが、それでも周囲の有様は酷い物だった。


 辺り一面に小規模のクレーターがいくつも出来ており、元の平らな地面など見る影も無い。

 また、後ろを振り返ると、先程の閃光の余波で目にダメージを負ったのか、何人かの生徒が目を抑えうずくまっていた。


「結果的には助かりましたが、あの老人は我々の味方なのでしょうか?」

「……わかりません。ですが、今はそんな事を考えている余裕も無さそうです」

 数百メートル先からはさっきの魔法で討ち取り切れなかった騎士がこちらへと向かって来ている。

 その数は約3000体。



 撤退するか、否か。

 

 ラインを統括する司令官として愛美は迷っていた。


 本当は今すぐにでも撤退したい。

 だが、久吉が回復したという報告もまだ無く、陣屋も沙輝もいない今、自分が撤退の判断を下すことによって皆を危険に晒すのではないか、という懸念がその気持ちを押し止めていた。



 俯く愛美に老人の方から声をかけた。


「今まで良く頑張ったのぉ。ここから先は私に任せるが良かろう、早く退きなさい」

「……お言葉はありがたく頂戴します。ですが、まず先に私たちの味方なのかどうかがはっきりしなければ言葉に従うことも出来ません。お名前をお教え頂きたいのですが」

「ほぉ、しっかりした娘さんだ。流石、金成の家の娘じゃのう。申し遅れた、私は多岐仁源(タキジンゲン)。この学校の十六代校長じゃ」

「……校長?校長はたしか京都へ出張だと聞きました。本当に校長なら証拠を示して頂きたい」

「ふむ、では戦の結果でそれを示そうかの!」


 多岐は言うやいなや、数十メートル先に迫った騎士らへと空中から隕石の様に肉薄する。


 先頭の騎士の一メートルくらい前に着地をすると、右手を振り上げ地面へと叩き衝ける。多岐の周囲の岩盤が盛り上がり、騎士たちの隊列が崩れた。


「久々の戦じゃ。血が騒ぐのぉ!」


 その崩れた隊列の中程まで突き進み、近くにいる騎士を殴り飛ばす。殴られた騎士は後ろにいた騎士を巻き添えにして数メートルを吹き飛ばされる。

 それを見届ける事なくどんどん殴り飛ばす多岐。

 その光景は圧巻の一言に尽きた。


 ついさっきまでは恐怖の対象であった騎士が、今や紙切れの如く吹き飛ばされていく。

 これで多岐が味方であることがはっきりとした。いや、はっきりとはしていないが、これで敵だったら手の内ようが無い。


 愛美は急いで部隊に命令する。



「……後退します。怪我をしてる者は周りの人がカバーしてあげて下さい。一気に最終ラインまで退きます。また、これから指示は久美さんの物に従ってください。私はここに残り、校長のサポートに入ります。久美さん、後はよろしくお願いします」

「わかりました。愛美さんもどうか無事で……」

「……ありがとう」


 久美が泣きそうな顔で差し出した右手に、笑顔で微笑む愛美は左手を差し出し強く握りあった。




◆◇◆◇◆◇


 愉快な5人の仲間達を相手に優勢を続ける沙輝は、クロッカスの謎の行動に困惑していた。


 さっきまではブツブツと何かを呟き、それが終わったかと思うと急にあのデカイ本を開き、ページを破り出したのだ。


「ご老体!勝ち目が無いと見て乱心でもなさったか?」

「フン、何を言うか小娘が。今から貴様を葬り去る者を呼んでやる。覚悟するんだな!」

「そう言われてハイそうですかと呼ばせるわけ無いだろうが!!」


 急ぎクロッカスの下へと向かおうとする沙輝を、5人の騎士が妨害する。


「貴様ら、いい加減邪魔だぁっ!!」


 が、更に魔力を解放した沙輝の動きに着いていけず、五人同時にその首を刈られた。


 首を刈った沙輝は発動前の召喚を止めるべく、目の前のクロッカスに切り掛かるが一瞬遅く、術が発動してしまう。


 クロッカスによって破られたページはいつの間にか空中にヒラヒラと舞っており、その一枚一枚が黒く発光する。


「『来たれ、闇夜の主。逆らう者には重罰を、従う者には隷属を。その刀は神をも切り裂き、天下最強の一刀なり。召喚(サモン)閻魔刀妖夢エンマトウヨウム!!』」


 舞っていたページは全て、黒い剣に姿を変えた。

 その数はざっと50本。すべてが剣先を沙輝へと向けた。


「それは閻魔刀妖夢と言ってな、斬った対象の魔法を強制的に解除させる剣なんじゃよ。さて、お嬢さん?全ての剣を避け切れるかな?」 


 剣は沙輝を切り刻まんと、彼女に接近する。

 沙輝はそれら全てを切り払おうとするが、ここでクロッカスの言葉を思い出し、回避に切り替える。


「『斬った対象』というのが、どの範囲にまで及ぶのかわからん。ここは逃げに徹するべきか?」

「ほれほれどうしたお嬢さん?さっきまでの威勢はどこへ行ったのかのぉ?」

「いや、逃げた所で解決策がある分けでもない。だったらっ!!」


 沙輝は剣と剣の合間を縫ってクロッカスへと迫る。

 が、敵もそうやすやすとはやらせてはくれる者ではない。すぐさま剣がクロッカスの前に集まり、沙輝の剣を阻む。


「ちぃ!これでは埒が明かない。ここは後先考えずに大きな魔法一発で勝負を決めるべきか?」


 悩む沙輝だったが、考えている暇は無い。


 ここで勝負を決めようと、詠唱に入った。



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