第5章 逆転の行進曲≪マーチ≫Ⅲ
行進曲編第三話です!!
相変わらず、ずっと陣屋のターンが続いています。
それでは、
はじまり~はじまり~
近接第一防衛ライン
後退が決定してから数分が経過していた。
すでに左右両翼は第二近接防衛ラインまで後退しており、現在は中央に配置されていた生徒達が後退を開始していた。
そんな中、後退していく部隊から少し離れた場所に彼らは立っていた。
彼らとは、近接第一防衛ラインのしんがりを務める七人の生徒。
陣屋とHGの六人の生徒のことだった。
そして、とうとう彼らの出番がやって来た。
中央の部隊が一定ラインまで後退したことにより、敵の足止め役の交代である。しかし、この『足止め役』というのはあくまで一般生徒に向けての仮の役目であり、実際は『騎士を殲滅すべく選りすぐられた上位ランカーの邪魔だから、どいていろ』という意味がこめられていた。
そんな陣屋達に副指揮官だった少女からの念話が入る。
『連絡。中央部隊の後退を確認しました。陣屋先輩、後はお願いします!!』
「へいへい、了解した」
しぶしぶといった感じで、返事をした陣屋は念話の終了と共に、自身と一緒に残った六人の方を向いた。
「残ってもらって悪かった。だが、ここで俺達が頑張らなければ、後々の作戦に支障をきたす。各々それだけは頭の片隅にぶち込んどいてくれ。さぁ、どデカイ花火を打ち上げますか!!」
『オウ!!』
返事をした六人の顔に不安や焦りは微塵も無かった。それを見た陣屋は微笑すると、迫りくる騎士の大群を睨みつける。
そして、次の瞬間。
七人の戦士は地獄のワルツを踊り始める……。
近接第二防衛ライン
そこには、後退してくる生徒をさらに急がせながら、心配そうに戦場に目をやる久吉と沙輝の姿があった。
「ヒサ、陣屋殿は無事だろうか?」
心配そうに尋ねてくる沙輝に、久吉は「心配ないさ」と声をかけてやる。
「あの人は強い。特別な才能を持たないで、四年であのランクということは、あの人が努力を惜しまない人だということだ。そういう人は、強い。武道をやっているお前なら理解出来るだろ?」
「ああ……、頭では理解しているのだがな…」
やはり、心配を完全に拭うことは出来ないようだった。
だからこそ、久吉は祈る。
陣屋の無事を。
元近接第一防衛ライン
「さぁ、どデカイ花火を打ち上げますか!!」
陣屋は言葉と共に、騎士への攻撃を開始する。
だが、多すぎる敵をちまちまと一体ずつ倒していったのではキリが無い。
そこで陣屋は、先程までは使え無かった上級魔法を使おうと詠唱を開始する。
「『大気にあふれる雷の泉よ。我は所望する、途切れる事の無い轟雷の嵐を!攻撃・連続する雷』!!」
陣屋は自身の右手に握っている金色の薙刀の切っ先を、まるで半円を描くように、左肩から頭の上に、
そこから右肩へと移動させる。
すると、切っ先が描いた軌跡をなぞるように、湾曲した金色の棒が出現する。
そして、そこに雷神が背負っている太鼓の様な物が装着された。
その一連の動作を終えた陣屋は、自分に向かってくる数百の騎士を自身の正面に捉え、殲滅のための言葉を口に出す。
「『連続する雷連射設定』」
と。
次の瞬間、耳をつんざく轟音と網膜が焼けそうになる程の閃光が辺りを包みこんだ。
しばらくして、やっとのことで目を開けられるようになった生徒が最初に見た物は、塵芥となった数百の騎士と、悠然と立っている陣屋の姿だった。
数百の騎士を塵芥と化した陣屋は、相変わらずの魔法の威力に目を見張りながら、未だに倒れている六人の生徒達に声をかける。
「おい、お前ら!いつまで休憩しているつもりだ!?さっさとやることやっちまおうぜ!!」
その呼び掛けに、ようやくまともに耳が聞こえるようになった生徒達は大声で応える。
『ハイッ!!』
そして、返事と共に立ち上がり、景色を黒く塗り潰すくらいに数が多い騎士の下へと突き進む。
無論その中には、陣屋の姿も存在していた。
ただ、先程の魔法を維持しているために、残りの生徒とは距離を取っているが……。
◆◇◆◇◆◇
「ハァハァハァ、…っクソが……、ハァハァ」
陣屋達が騎士との戦いを始めてから、既に二十分が経過していた。
六人の疲労はピークに達しており、現在も戦い続けているのは陣屋一人だった。
「さて、真面目にヤバいな。どうしたもんか……」
一人で思案する陣屋だったが、騎士達の攻撃が止むわけでは無い。
『連続する雷』も効果が切れており、薙刀を使って一体ずつ削っている状態だった。
そんな陣屋の下に突然、久吉から念話が届く。
『陣屋さん!こちらはもう大丈夫です。後退を!!』
「あぁ〜、了解。じゃあ引き上げますか」
久吉との念話を終了した陣屋は他の六人に念話を飛ばした。
「もしもし〜。こちら陣屋、リーダーからの後退命令だ。俺が足止めしとくからさっさと後退しろ」
『!?。えっ?でも、それでは!?』
「いいから。つうかお前らがいると、どデカイのが撃てねぇんだよ」
『……、わかりました。後退します』
「聞き分けのいい奴は大好きだぜ」
念話を切った陣屋は、六人が後退を始めたのを見てから、自身最大と自負する魔法の詠唱を始める。
「『我は所望する。全てを包み込む闇を、全てを焼き尽くす炎を。敵なる者は異端の者、一片の慈愛も無い消滅を約束せよ!!尽きぬ黒炎は我が右手に。湧き出る黒影は我が左手に。双頭合わせて塵を成さん!!攻撃・炎影邪騎斬』!!」
詠唱中に頭上に構えた薙刀を、詠唱の終了と共に騎士に向けて振り下ろす。
陣屋の眼前の地面がまるで影が広がっていくかのように、黒く染まっていく。そして、闇夜を思わせるような大量の黒い炎がそこから噴き出し、騎士達を飲み込んだ。
後退した六人を追おうとしていた騎士をはじめ、数十万の騎士が黒炎の中に消えていった。
また、他の騎士も炎々と燃えている黒炎にたじろぎ、前に進めずにいた。
(今なら追っては来ない!)
そう考えた陣屋は、騎士達に背中を向けると大きく肩で息をしながら、久吉達の下へと急いだ。
残る騎士の数…八千八百万体
陣屋のターン終了!!
ということで、次回からは久吉・沙紀のターンとなります。
それでは、次回予告を、
近接第二防衛ラインの戦いがこれから始まる。
リーダーである久吉を筆頭に、どんな戦いを繰り広げるのか!?
「やっと来たぜ、俺たちのターンが!!」
by中津久吉