第2章 強襲の狂詩曲≪ラプソディー≫Ⅶ
前回、なんか封印を解除しちゃった久吉ですが、一体何がおこるのか…!?
それでは、
はじまり~はじまり~
習魔学園本棟大校庭
「封印解除」
久吉の言葉の後、まず最初に異変が起こったのは大地だった。
久吉の周りの小さな小石が宙に浮き上がり始る。
次に異変が起こったのは風、今まで無風だったのにもかかわらず突然、突風が吹き荒れた。
そして、気温が変わった。先程まではポカポカと暖かい小春日和だった。
しかし、今は違う。
久吉の周囲一キロの気温が小春日和から真冬の気温へと変動した。
突然の事態に戸惑う騎士も何体かいた。
しかし、それは周囲の天候故では無い。周囲の魔力が変わったのだ。
気を抜けば押し潰されそうになる圧力、殺意。
そして、そんな魔力の中心に位置するのは他でも無い久吉だった。
久吉は先程までとは打って変わった様子で、騎士を睨みつけて独り言を開始する。
「はぁ、この力はあまり使ってはいけないよ、って爺ちゃんに言われてたのに……。まぁ人間の力でこの数を相手するのはキツイし、不可能だよなぁ。あっ、そうだ、オイ、そこに隠れてる奴。隠れてないで出てこいよ」
久吉は騎士の一人に声をかけた。すると、呼びかけられた騎士の甲冑が音を立てて外れ、中から金髪のジュール・ジルエットが現れた。
「よくぞ見破ったな、小僧。褒めてやるぞ?」
「別に。あんた、存在感消すの下手だね」
「貴様は目上の人間に対する口の聞き方を知らんのか?」
「知っているさ。ただ、お前に対しては使う必要性を見出だせ無かっただけだ」
「つまり、貴様は殺されたいと?」
「お前にできるなら」
その言葉が開戦の合図だった。
ジュールは手を挙げ命令する。
「騎士よ奴を蹂躙しろ」
騎士は命令に従い行動を開始する。五十体の騎士が久吉に向け飛び掛かる。
それに対し久吉も動きだす。
「四分の一で充分か……。『我、封印されし力を今ここに解き放つ。量は二割と五分。今再び我の刃となれ!!』」
久吉の目の下に逆三角の赤い印が浮き上がり、纏う魔力が黒く、重くなった。
そして久吉は再度詠唱を開始する。
「『二重詠唱、今在りし刃は姿を変える。その姿は偉大で荘厳なる者へ、我が手と交ざりしその刃、風を纏いて敵を蹂躙せん!!憑依・四大刀一剣風剣ゼフィロス!!』」
久吉の右手に握られていた刃が霧の様に姿を変えると、右手全体に纏わり付き回転を開始する。魔力がその渦に集約され、刃が形を成す。色は薄い緑、曲線を描くその刃は大刀の二文字が良く似合う。そして剣は完全に久吉の右手と同化していた。
久吉はチラリと刀に目を落とすと、向かってくる騎士の方向に刀を振った。剣の間合の遥か先にいた五十の騎士は、腰の辺りを切断され消え去った。
久吉以外は何が起こったのか誰も理解をしていなかった。間合いの遥か遠くにいた騎士がやられたのだ、戸惑うのは当然であろう。
しかし、久吉はその僅かな思考の時間さえも与えない。矢継ぎ早に刀を縦横無尽に振っていく。その刀は直接何かに中ることは無い。しかし、騎士の数はどんどん減っていった。
やがて、騎士の数が半分ぐらい減った所でジュールが口を開く。
「やはりそうか、貴様の持つその剣は風を媒体にして敵を斬っているだろう?」
「なんならお前に向けてやろうか?」
「いや、結構。しかし、からくりが判明すれば、簡単だ。剣の軌道に居なければ良い、もしくはその刃が届かない距離に離れるか、防御をしてしまえば良い」
「お前に出来るのか?」
「さぁ、どうだろう?」
ジュールは言葉と共に前へ出る。
「『大地に眠りし矮小なる鉄よ、集まれ我が元に、合わされ大きく巨大に!!鉄壁のその姿を鎧に変えて我と交われ!!防御・皇帝盾鎧!!』」
走るジュールの身体に地面から湧き出る砂鉄が纏わり、あっという間に左手に盾、右手に剣という中世の騎士を思わせる格好になった。
それを見た久吉はただただ無表情に刀を振るう。
しかし、先程までとは違いその鎧が斬れることは無かった。
多少驚愕の表情を浮かべた久吉だったが、また元の顔に戻ると風の力を使い、一瞬でジュールとの間合いを詰める。
そして、その喉元に刀を突き入れる。
だが、喉元に到達する前にジュールの盾が刀を防ぐ。そして、勢いをそのままに久吉に切り掛かった。
久吉は飛翔することでその攻撃をかわし、上空から攻めに転じる。
刀と剣のぶつかり合う激しい音と衝撃が周囲に撒き散らされた。
それに充てられた騎士の何体かが塵と化すぐらいに、二人の打ち合いは凄まじかった。
数分間打ち合いが続き周囲の地形が変わってきた時、久吉が動いた。一瞬で敵との距離を取ると詠唱を始める。
「『大気に散在する水の結晶よ、今その姿氷雨と成し敵に百の華を咲かせよ!!攻撃・氷雨百華繚乱』!!」
詠唱と共に振った刃から氷の結晶が雨の様にジュールに降り注ぎ、着弾した所からどんどんと氷結していった。
「貴様!?これは一体!?クッ………!!『我が身は太陽、今その温度を極に高めよ強化・体温極上昇!』」
魔法によってジュールの身体に纏わりついていた氷は溶けたが、それによって一瞬の隙が生まれた。
「ッ……!!しまっ………」
「遅い!!」
ズバッッッッッ!!
久吉の刀がジュールの肩から下半身までを切り裂いた。
「ガッ………」
「眠れよ地獄の大火に抱かれて……」
久吉は一瞬哀れみの様な視線をジュールに向けると、残ってる騎士の方に顔を向ける。
「さて、ゴミ掃除だ!!」
それから数分間、久吉が騎士を一方的に切り裂く音だけが校庭に響き渡った。
数分後、何も居なくなった校庭で久吉は一人詠唱を始める。
「『我が過ぎたる力は両刃の剣、今再び我が身に鎮める。封印・魔鬼静掌』」
詠唱が終わった後に、久吉の目の下の逆三角は消えており、久吉は肩で息をし始めた。
「やっぱし、……まだ……はや、か……った、か………」
バタリと久吉はその場に倒れ、意識は闇へと堕ちていった…………。
唐突ですが、今回で『強襲の狂詩曲』編ラストです!!
すいません突然で……(-_-;)
次回からは。『追憶の夜想曲』編です!!
ブラックアウトした久吉の、過去のお話をお送りしたいと思います!(・。・)!
ではまた、次回に・・・・・・。