第2章 強襲の狂詩曲≪ラプソディー≫Ⅴ
どうも、ラプソディー編もいよいよ佳境に入ってきました。
これからどうなっていくのでしょうか?
それだは、
はじまり~はじまり~
習魔学園本棟大校庭
走って騎士から逃げた久吉たち四人だったが、校庭に出た瞬間に彼らの顔は絶望に染まった。
なぜなら、彼らの頭の中での騎士たちの総数はせいぜい五十人位であったのにもかかわらず、校庭に出て空を見上げた目線の先には、空を覆い隠すぐらいの数の騎士の姿だったからだ。
そして、少しの希望を持って見た校庭には、既に二百人を優に超える数の騎士が立っており、その足元には騎士にやられたのか五、六人の生徒が血まみれで倒れていた。
「ウソ、だろ………。こんな、こんな馬鹿な事があるかよ」
皆の気持ちを代弁してか、久吉が一人、口を開く。
「あそこに倒れてんのは、うちのクラスの森田亜美………か。酷いな……」
「でもナッツ、校庭を通らないと大講堂には行けないよ!!」
「わかってる、わかってるけど!!……でも、これじゃ……」
「……ですが、ここに立っていても敵に倒されるだけです。やはり、ここは多少のリスクが有っても前に進むべきだと思います」
「金成さんの言う通りだよナッツ、でも決めるのは君だ。君の好きにしてくれ……」
「……ッ、わかった……。わかったよ!!前に進む。それしか生き残る道が無いのなら!!」
「「「……(コクッ)」」」
三人からの力強い同意を受け取った久吉は、作戦を立てる。
「まず、奈々は『黄道十二宮騎士団』を召喚してくれ。出来るか?」
「うん!!」
「よし、次に金成が魔法で相手の動きを止める」
「……わかりました」
「その隙に、俺と維新の上位魔法で道を切り開く」
「わかった」
「そしたら、奈々の召喚魔を先頭に走り抜ける。奈々、一つ質問があるんだが」
「なに?」
「騎士達は首などを切らなくても、ある一定以上のダメージを与えると消えるよな?」
「うん、授業の通りなら……」
「よし、なら大丈夫だ。では、作戦開始!!」
久吉の号令と共に奈々は詠唱を始める。
「『天界に座する十二の騎士よ、黄道十二宮より受け取りし力を我がために使いたまえ!!その力は、友を護るため。愛する者を護るために……いざ、姿を現せ!!召喚・黄道十二宮騎士団!!』」
奈々の詠唱が始まった時点で、彼女の周りに集まっていた魔力が、どんどん彼女を中心に渦を巻いていった。
そして、奈々の詠唱終了と共にその渦は爆発したかの様に飛び散り、そこには十二人の戦士が立っていた。
皆それぞれに装備が異なりつつも、その腕に紋章の描いてある金の腕輪をはめていた。
十二人の戦士の内、巨大な紫の尻尾がついている戦士が口を開く。
「ゲッ、久々のお呼びだしだと思ったら、何かヤバい事になってんじゃん!!俺、帰る!!」
「コラッ、帰るな蠍座のニード。我らが主は我らを必要として、ここに呼出したのだ。だったら、それに答えるのが我ら騎士の役目。敵前逃亡など断じて許さん」
「うっせーよ、水瓶座のアクリエス。そういう騎士道精神は他でやってくれ……」
「相変わらずだな、獅子座のレガルス」
「お互い様にな!!」
会った瞬間からケンカを始めた騎士たちだったが、奈々がパンパンと手を叩くとハッとした顔をして彼女の前にしゃがみ込み、頭を下げる。
そして、十二人の中の一人。射手座のテルニウスが、奈々に挨拶を始める。
「お久しぶりです、マスター。今回はどのようなご要望で?」
「今回は私達四人を護る護衛任務だよ」
「護衛任務、ですか……。わかりました。お引き受けします」
「えっ、本当?ありがとう!!」
「ですが、あれだけの数ともなると私達だけでは、些か無理があるかと」
「わかってるよ。それはこっちで何とかするから」
「わかりました」
奈々との会話を終えたテルニウスは、再び立ち上がると残りの騎士に向かって命令する。
「我らがマスターからの指令が出た。今回、我々は命を賭けてマスターとその御学友をお守りするのだ!!Do you understand?」
「「「Yes,boss!!」」」
十二人の騎士は先程までケンカしていたのが嘘みたいに声を合わせて返事をすると、奈々たちを囲む様にズラリと並んだ。
それを目にした久吉は軽く口笛を吹くと、愛美に目線を向ける。
「金成、今だ!!」
「……わかってるわ。『地面から沸き上がる古の焔よ、その姿は縄。用途は捕縛!!今こそ大罪にまみれた奴らの翼を焼け!!捕縛・紅焔枷鎖!!』」
詠唱が終わってしばらくすると、黒騎士たちが立っている地面から数百の紅い焔の柱が立ち上った。
そして、それらはグニャリと曲がると、まるで蛇の様に騎士たちの首、手首、足首、腰に巻き付いた。
騎士たちはその束縛から逃れようと手足をジタバタとさせるが、焔の枷は全く外れる様子が無い。
「……、足掻いても無駄です。それは煉獄の烈火を何重にも編み込んで出来た枷です。そう簡単には外せません……」
愛美は足掻く騎士を一瞥すると、久吉に話しかける。
「……下準備は終わりました」
「あぁ、わかってる。じゃあ俺達もやろうか、維新」
「おう!!」
二人はハイタッチを交わすと、皆の前に立ちそれぞれに武器を構えると、詠唱を始める。
久「『大気に溢れる豊潤なる水よ、今こそその姿を新たにして我の前に示さん!!孤高の氷狼は我が剣の下に、その牙はなによりも冷たく鋭くあれ!!攻撃・氷狼鬼砲!!』」
維「『天空に瞬く無数の星よ、今流れる身を一時我に預けよ!!その威厳と数で皆を震え上がらせろ!!攻撃・千万彗星砲矢!!』」
二人の詠唱は、ほぼ同時に終了した。
そして、次の瞬間。
久吉の長剣からは、氷の狼が…。
維新の弓からは、一千万の輝く球体が…。
それぞれ飛び出して行き、
ドゴォォォォォォォン!!!!
巨大な地鳴りと共に、その場にいた騎士の約七割が塵と化した。
無論、倒れていた生徒には傷一つ無く、だ。
そんな凄まじい魔法を使った反動か、二人は肩で大きく息をしていたが、すぐに次の行動に移った。
それは、今切り開いた道を走り抜けること。
そして、倒れている生徒の回収も忘れずに……。
しばらく走り、全道のりの半分まで来た時、今まで統制の取れていなかった騎士が突然久吉たちに襲いかかってきた。
その数、実に三十体。
それに比べ、久吉たち四人は戦えるわけも無く、ただただ逃げに徹するだけ…。
しかし、そんないたちごっこも終わりが訪れる。
騎士の壁をやっとの思いで突き破り、講堂を目の前にして奈々が足を小石に引っかけ転倒した。
そして、無情にもその背中に騎士の刃が降り注ぐ。
十二の騎士はそれぞれに戦っており、助けに行けず。
久吉が気づいて走り出すが、間に合わない。
その場の誰もが奈々の人生の終焉を予期した。
ズバッッ!!
物体を刀で切り裂く音が、校庭に響き渡った……。
ここで補足です。
呪文詠唱ですが、
下位魔法:詠唱無し
中位魔法:詠唱あり(上級魔法使いは詠唱破棄も可能)
上位魔法:長文詠唱あり
最上位魔法:魔道具と長文詠唱あり
となっています。
では、次回予告です。
振り下ろされた剣。
奈々の運命や如何に……!!