この恋はハッピーエンド
恋愛運 大吉!!
あなたの恋は、ハッピーエンドを迎えるでしょう♪
「…………あ、」
部屋を整理していたら、出てきた昔の手帳。
一番後ろのページに、きっちり名前が書いてあるのが何とも生真面目。
そんな、当時らしさを醸し出す手帳。二枝幸寧。ニエダユキネ。私の名前だ。
何気なくパラパラと開いてしまったのが、駄目だった。
二十年前の二月十四日、見開き二週間のウィークリー部分。そこに書いてあったのは……その日の運勢。
確か朝番組の占いコーナーのやつ、だったと思う。
思わず、手帳のあたまのほう。二月のマンスリーページもめくる。やっぱり……あった。十四の数字に、ぐるぐると大きな花丸がつけられている。そして、マス目の中には赤字で、
運命の日→両思い記念日っ!!
「……………はぁ……」
記念日っ!!の小さな「っ」が私の心の中の痛いツボを、ゴリゴリに削ってくる。
二十年前、中学二年生、十四歳のバレンタインデー。私は同じクラスの夢野未来に告白した。好きになったきっかけは、本当に些細なものだった。
中一の春。
地味で、少し人見知りな私は次々と完成されていくグループの輪に、見事に入り損ねた。
そんな孤立寸前だった私を優しく手招きして、あげくの果てに「みくちゃん、って呼んでね!コードネームは39だよ!」なんて。
……落ちないはずが無かった。コードネーム、なんてちょっと派手めのキラキラ女子にしてはらしくないような言い回しも……何だか、ちょっと、刺さってしまったのだ。
そして……二年近く。未来は、変わらず仲良くしてくれた。けど、私はどうしても踏み出したくて、でも迷って……。
結果。
告白は、上手くいった。まさかの二つ返事。
でも、長くは持たなかった。
環境の変化。
そう。三年生に上がって、初めてクラスが分かれて……そのまま。
私は目の前に開かれた手帳の、ウィークリーページに再び戻る。
「この占い、全然当たらなかったなあ~……」
いや、告白自体は成功したんだから、当たってるのかな?
でも、肝心の、ハッピーエンド♪って所が……。
違うじゃん。
私は二十年前の占いの結果を、思いっきり睨みつけた。そしてバシン!と思いっきり手帳を閉じる。
捨てるのは踏ん切りがつかなかった。けれど、視界に入るのも嫌で。
再び押し入れの奥の蓋付きの箱の中へと、追いやった。
二枝幸寧、三十四歳。パートナー無し恋人無し好きな人無しの、非正規雇用事務職。
何だか常に末吉と凶の間くらいを、ずっと彷徨ってるような人生を送っている。
あれから、いくつかの季節が流れた。
「そろそろ、世間はバレンタインデーかあ……」
気付けば三十七歳。恋人どころか、好きな人もナシ。
唯一の交際経験は二十三年前の、わずか数ヶ月。
二月十四日、バレンタインデー。チョコレート、告白……。
この時期になると自然と思い出す、淡い初恋。
(……中学の時の初恋を、今でも引きずってるみたいで……我ながらちょっと……)
でも、最近良い事もあった。
派遣先で拾って貰って、なんと正社員に昇格したのだ。
「うわっ……出てきちゃったよ、この手帳……」
これを機に、職場の近くに引っ越すべく荷造りの真っ最中。
何年か前に発掘したけど、くさい物に蓋の要領で押し入れの最奥で眠りこけていた、中二の時のこの手帳。
「捨てる?残す?………うーん………」
考えることしばらく。
「………あー、もう!一旦、休むっ!」
この手帳を処分するかどうかの判断は、どうも私の肩には重すぎるみたいだった。
手帳を一旦、保留箱へ入れる。そして、折りたたみ式のローテーブルに置いてあったスマホを引っつかみ、背中から思いっきりベッドにダイブする。
そして、何となしに検索アプリを開く。トップ画面をスクロールしていくと、私の興味に合わせた記事がいくつも、いくつも流れていくのだった。
私の興味に合わせて表示されているとは言っても、何だかんだ見出しだけ見たら満足してしまうものが大半。そんな中、
「……ん?」
同性パートナーが居る女性に聞いてみた、恋と仕事と人生!
「………………」
タップした。スクロールしていく。
「………やっぱ、こういうインタビュー受けるような人は、何だかんだ勝ち組だよね……」
記事は取材対象の一人につき、一記事。第1回から始まって、現在第16回まであった。
……けれど。
バリキャリ、医療系、クリエイター……。
女性が好き。
それが同じなだけで、他はまるで遠い世界の出来事のようだった。
最近、やっとこさ正規雇用になった、私のような人間には……キラキラしすぎている。
それでもスマホを操る手が、止まらない。
第14回をタップする。
「………え?」
未来さん 三十七歳 カフェ経営者
未来。三十七歳。
そのワードが、棘のように心に引っかかって、突き刺す。
妙な、偶然もあるもんだな……。
そう思いながら、記事をスクロールしていく。
「やっぱ、私とは違うなあ~」
脱サラして、夢だったカフェを経営。最近軌道に乗ってきて、二店舗目を計画中。
記事には長々とそんな話が続いて、そろそろ疲れてきた。別のアプリを開こうかと思った矢先、インタビュアーがその「未来さん」に、人生の転機は?という質問を投げかける。
未来さん:大分、昔の事なんですけど……初恋、ですね。
中学二年生のバレンタインデーの事でした。
「え……?」
未来さん:同じクラスの友達が、告白してくれて。それで付き合い始めたんですよ。
編集者A:うわあ!甘酸っぱい!!
未来さん:でも、数ヶ月で自然消滅しちゃって。
「まさか………」
編集者A:あら~。そうなんですね……。
未来さん:だけど、その子が勇気を出してくれたから。今、私は大好きな彼女と付き合えているんです。
編集者A:その話聞いたら、彼女さん……嫉妬しちゃいませんか?(笑)
未来さん:あはは、そんな必要ないって言っておきます。私は、今が一番好きで、一番……幸せだから。
「……………未来……」
喉の奥の方で押しつぶされたみたいに、声が掠れる。頬を伝う涙が、二十年前からくすぶらせていたモヤモヤを、外へと流していく。
あの恋は無駄じゃ、なかった。
ベッドから起き上がって、保留箱に入れ込んだ手帳をそっと「思い出品」の箱へと移動して、手元のスマホのインタビュー記事を閉じ、検索窓に入力する。
女性同士 出会い
未来はハッピーエンドに向かって、生きている。
私も、ハッピーエンドを目指したい。
違う道の先で。
きっと、
この恋は、ハッピーエンド。
終わり。




