終話 「希望は今に持つ」
第十五話
希望は今に持つ
足首まで水がある浜辺、下には星の海が広がっていて、ひどく静かな場所だった。風も、木々の葉が擦れ合う音もない。
「ボスぅ、……やっちゃいましたね。もう終わりですよ……、完全にルール違反ですよぅ……」
今にも泣きそうなしゅんとした声でハービットが言った。
「ま、仕方ない。今アーサーを死なせたら奴の魂がどうなるかわからなかったからな」
淡々とダニエルが言った。
「……死がひどくなっているから?」
やるせない顔でハービットが言って、その後ハービットは長い間シクシクと泣いた。
もう終わりだの、全部台無しだの、枝葉の世界、わざわざ未来の存在しないはずのパラレルワールドまでいって、そこでもうまくいかなくて……、結局この世界のアーサーを救おうとしたけど、自分たちがペナルティを受けるなら希望はもうないだの。
「大丈夫だよ、ハービット。まだ希望はあるさ」
優しい声色でダニエルが言う。
「そんなことない!そんなこと絶対ないっ! ぜんぶ!ぜぇーんぶ! 失敗に終わったんだ!ブッダだっていってますよ。執着したら地獄行きなんだって!アインシュタインだっていってますよ!何度も繰り返すのは狂気だって!」
「なにいってんだよ、同じことを繰り返して違う結果を、欲しがったわけじゃないだろ?」
「だって!だって!ここまでやったんだ! そもそもここまで間接的に干渉したことの!目的自体がボスの力を失わないためだったのにっ! それでこんな目に遭うなんて!オールドマンもトリッカリーも見つからないし!ベビーカーには逃げられるし!英雄だって未来の枝葉の世界にまで行ったのに助けられなかったじゃないか! 一体、今どのくらい力がのこってるんだよっ!!」
大粒の涙をボロボロとこぼしてハービットが訴える。
「大丈夫だ。落ち着け」
「──大丈夫じゃない! ボスだってペナルティをもらっちゃったんだ! 幹の世界の時を巻き戻したんだぞ!世界樹の生育ごと巻き戻して違う未来を無理やり採用させたんだ! こんなことやっていいわけない!ペナルティは今までの比じゃないくらい重くなるっ。今度はもっと大変になる!」
嗚咽を漏らしながら、涙を溢れさせてハービットが訴えた。
「だから、大丈夫だよ」
「だったら今何ができるのか教えてよっ!」
頭部を巨大化させたハービットがダニエルの目の前で噛み付く寸前のように顎を開けた。
「………。なんで、避けれなそうなの?」
「………」
「……なんで、僕の耳を引っ張ってくれないの?」
「…………」
「……まさか、今のにも反応できないくらい弱ってるの? 」
「何かする必要ないだろう、噛みついたら死刑にしてやるしな。この、……ポンコツめ。とにかく大丈夫なんだ」
「だから大丈夫じゃないって!希望はもうないんだ!もう諦めましょうよ! もういったん諦めて……」
「なんで諦めるんだよ……」
「だって、だって!アインシュタインだって言ってたんだ!ほら、人は過去に学び、今に生き、だから未来に希望が持てるとか!でも僕たちにはもう希望はない!人間じゃないからだ!僕たちに希望はないんだ!そうじゃなくても過去から学べば今回は諦めて……」
いつも通り無茶苦茶なことを言いだす、ポンコツロボ。
「なんだよ。アインシュタインなんて関係ないし、その言葉だって出所不明なものだろ。最後に大切なのは疑問を持つこと、とか続くんだよ」
そこまでダニエルが言うと──
「疑問を持つって?」
泣きながらハービットがきいた。
「誰が作ったかは知らないけど、この言葉に疑問を持つんだよ。いいか。この言葉をずらすんだ……過去、現在、未来、と生きる、学ぶ、希望を持つ。これを一つずらして繋げ直す」
「ずらしても意味なんかない!」
泣きじゃくった顔でハービットが吠えた。
「まぁ、待てって。人は過去から学ばないので有名だからな、だからこそ過去じゃなくて未来のために学ぶんだ、これは必ずそうだ。生きると過去ができる、これも必ずそうなる、希望は今しか持てないし、今持つものだ」
「そんなこと考えたって、意味ないって!なんで諦めるのを嫌がるんだよっ!」
ハービットがそっぽを向いて耳だけ傾けて言う。
「聞けって。ずらしてつなげ直すとな。そうすれば……人は未来のために学び、過去のために生き、だから現在に希望が持てる、とかになる」
ダニエルがそういうと、ハービットが──
「でも、でも……、そんなもの、勝手にやってますよぉ……」
俯いてハービットが言った。
「なら、敷居が低くていいじゃないか、世界に対する責任をずっと背負い込んでいなくともいいよ。ハービット。また色々やってみよう」
ダニエルがハービットを抱き抱えて頭にキスすると、ハービットがダニエルの胸に顔を埋めてシクシクと、泣いた。
「別に失敗したって、立ち上がって歩き出せばいいのさ。希望は自然に灯るから」
「そんな保証無いですよ、ボスぅ……ヒッぐ」
「保証するよ、それが世界の原則だ。日はまた灯る」
「それ火はまた戻るですよぉ、ボスは阿呆症だなぁ……、ほんと」
はっ倒すぞ、鉄くず、などといいながら、しばらく二人で星の海を進んでいくと。
だんだんと地平線の向こうに光が見え始めた。
抱えられた泣きべそをかいていた犬が顔を出して、光を見ると、尻尾が希望を持ってブンブンと動き始めた。
終




