第一章 4
理戸と対面。話す事って…あれだよねぇ…
「ねぇ、理戸。なんであの時逃げたの?」
沈黙も気まずいからね。いっそ、あたしから切り込むさ。
「…不合格になるのは目に見えていました。そうなると、越野家の名を汚すことになります。」
…だと思ったよ。じゃあ…
「…じゃあ、はなからあたしなんかと組まなければよかったじゃない。なんで、あたしのパートナーになったの?」
「…奏さんのことを気に入っているからです。奏さんがどんな音楽を奏でようとどうでもいい。…でも、奏さんのパートナーを志願する人は、…ボクくらいでしょ?」
…はは。そんな風に言われると、逆に気持ちいよね。…結局、理戸もそんなやつ、なんだね。
うつむき、自嘲加減に笑む。そうじゃないと、…泣いちゃうからさ。
「もう、いいよ。…あたし、…ここ、辞めるから。」
「!?…奏さん!」
「ほっといて!!」
ほっといてよ!…お願いだから…
ああ。眠ぃ。昨日の夜勉はちょっと気合入れすぎたか。
あくびをかみ殺し、食堂へ向かう。ろくに朝飯も食ってねぇから、腹も極限状態だ。
「…奏さん!」
んん?…不吉な名が聞こえたぞ?
進む廊下の左に曲がった先を、窓から斜めに見る。
「ほっといて!もういいの!!」
「パートナーはボクが務めます!…他でもないボクがやるんです。問題ないじゃないですか?」
…ああ…、…そういうこと、ね。…こいつぁ…ちょいとヤキ入れてやらねぇとな。
「離して!」
「離しません!奏さんは、ボクのパートナーなんですから。」
「…おい。そこの黒キノコ。」
え?…なんで…あんたが?
「…緋月?」
「緋月…先輩…」
「なんでもめてっかは、…まぁ、そこそこ見当はつく。…とりあえず、黒キノコ。オメェは現在無関係だ。とっとと消えろ。」
「?…何を言ってるんですか?ボクは、奏さんの…」
「パートナーです。…ってか?…生言ってんじゃねぇぞ?」
ゾクリと血がざわめき立つ。
な、に?緋月って、こんなに怖いやつだったの?
「指揮者と奏者は2人で1つ。裏切りは許されねぇし、…1人で逃げるなんざ、もってのほかだ。」
絶対零度に燃える炎みたいな、どこまでも静かに、凍り尽くすような、怒り。
「テメェのような低能は指揮者失格だ。越野家だか何だか知らねぇが…目障りだ。二度と空野の前に現れんな。」
おら、いくぞ。と、緋月が腕を引く。…なんだか知らないけど…これって、助けてもらったのかな?