序章4
「はぁ…。まったく…」
嫌んなるぜ。…あ?…あの空野ってやつのことだ。あれから、あいつの演奏が気になって、まともに勉強もできねぇんだから。
大体において、すべてが落第点のド下手クソが、だからな。そんなやつ気にかける俺もどうかしてるかな?
…さて、次、か。まあ、どうせテストは今日で終わりだ。一日くらい無駄にしても…。…?…なんだ?なんかざわめいてやがるが…
「…指揮者がいない!?」
…おいおい。マジかよ。
確かに、あんなやつの指揮なんかしたくはねぇだろうが、だからって蹴る話があるかってんだ。その指揮者とやらも相当なヘタレだな。
「…はい。…だから、不合格でいいです。」
シンとしてっから、オレンジポニーテールの呟きはここまで届いてきやがる。
…ってか、ふざけんな。俺がわざわざ聞きに来てやってるってのに。…仕方無ぇ。
「俺がやる。」
どよめく。ってほどの人数はいねぇが、少々のざわめきは起こる。
「…あんた、…だれ?」
「…緋月導。」
それが、俺、緋月導と空野奏の、ファーストコンタクトだった。
「…さって♪そろそろだね。」
睡眠はしっかりとったし、ザックリ練習もした。準備はバッチリ。さ、別室の理戸を呼びに行こうか。
「理戸~?そろそろだよ?」
コンコンとノックをして、話しかけるんだけど。…おかしいな。返事がない。眠っちゃってるのかな?…って、あたしじゃあるまいし。
取っ手をひねってみると。…なんだ。鍵かかってないじゃん。
「理戸~?……」
ドクンと鼓動がやけに大きく聞こえた。…部屋の中は真っ暗で。…人の気配なんてあるはずもない。
…そう、だよね。今までが、おかしかったんだ。
あたしは、無情なほどの真実を引っ提げて、ステージへ向かった。
「…指揮者がいない!?」
「…はい。…だから、不合格でいいです。」
そうだよ。どうせ、やっても意味ないってのは…うっすら分かってたんだから。…いい機会だし、さ。今日で…
「俺がやる。」
その時は空耳かと思った。だって、都合が良すぎるだろ?…でも、はじかれるように目を向けると、それは現実で…
「…あんた、…だれ?」
歩み寄ってくるのは、昨日の赤髪セミロング。
「…緋月導。」
それが、あたし、空野奏と緋月導の、ファーストコンタクトだった。