序章2
この多目的魔法堂は、グランツィオーソ魔法音大の所有する、主に幻奏曲のテストやコンサートにて使われる、音楽ホールだ。そのため、このホールには特別な結界が張られ、ステージで行われる幻奏曲が、その中でしか効果を発揮できないようになっている。
そして、幻奏曲のテストでは、奏者の奏でる幻奏曲の、美しさ・難易度・影響効果など様々な要素から評価される。そのテストが、今、まさに行われているわけだ。
「おお!さっすが衛だよなぁ。」
と、感嘆してるのは、俺が認める数少ない指揮者にして親友でもある、諸橋轟だ。端正なルックスにビジュアル系の金髪。外見だけでなく、指揮者としても一流で、しかも、奏者としての腕も確かだ。そのため、こいつに惹かれる女性は星の数ほどいる。が、俺の知る限りで例えるなら、こいつは大型犬だ。特に彼女の前では。な。
「ああ…。紅の行進曲『麗しき炎狼の狩り』。衛らしい壮大で重厚な演奏だったな。」
「炎、っつうか、爆炎って感じだったがな。…お!次がラストだってよ。」
ステージに現れたのは、オレンジのポニーテールの女性だった。
「?…だれだ?」
「え~っと…。…空野だってよ。」
「…知ってるか?」
「うんにゃ。」
とか言ってるうちに、演奏が始まる。…翠の嬉遊曲『青き群れ鳥の舞』。か。
「……。」
演奏が始まって十秒も経ってないが、俺は顔をしかめた。ってぇのも、嬉遊曲にしては、やたら堅いは重苦しいは。音程・音量・リズム感、すべてが落第点だ。…見てみろよ。生み出された青い鳥が、地面でのたうちまわってんだぜ?
「…帰る。」
「お?」
「こんなん聞いてちゃ、耳が腐っちまうぜ。」
そう言って、俺は最上段の扉に向かい歩き出した。
「……。」
…どうした?なんで、俺の足は止まってんだ?…あんなド下手な曲に、…何を感じてる?
「どした?導?」
「…轟。」
「ん?」
「空野…なんつぅんだ?」
「…もういい。…奏くん。」
曲の途中で、俺のように顔をしかめた審査員の先公が止める。…まぁ、妥当なもんだろうな。
「空野…奏。…ねぇ。」