序章1
部屋に流れる夢想曲が、突如行進曲に変わる。その激しい旋律のギャップに、俺はビクリと肩を震わせ目を覚ました。
流れる音楽。書きかけのキャンパスノート。…状況把握。
「…俺としたことが…」
まったく。溜息も出るもんだぜ。日課の夜勉の途中で寝ちまうたぁな。
書きかけのノートには、分かるやつは分かるが、大抵のやつは分からねぇだろう、「アダージョ」とか「ズモルツァンド」とか「トレ・コルデ」とかの単語の羅列。簡単に説明すると、音楽用語だ。
このメモをとっている曲から考えると、三十分ほどうたた寝していたらしい。
仕方ねぇから、コーヒーでも淹れて一日を始めるか。と、思った矢先、携帯が着信を告げる。液晶画面には、見慣れた親友の名前。
「もしもし?」
「おはー!導!朝早く悪い!」
「そう思うんなら、掛けてくんな。切るぞ。」
「ああっ!悪い!悪い!謝るから切らないでぇっ!」
「…何か用か?」
「あのさ?今日暇?」
「…ああ、予定はないぜ?」
「今日、演奏科のテストがあるんだってよ?見に行こうぜ?」
…奏者のテストか。ちょうどパートナー居ねぇから…、まぁ、無駄にはならねぇな。
「いいけど。…何時からだ?」
「えっとな。…八時半からスタート。」
「分かった。適当にメシ食ってから行くわ。多目的魔法堂だろ?」
「おう!待ってるぜぇ!」
電話を切った後。俺はメシを調達しに、近くのコンビニへ出かけた。
穏やかな春の日差し。そりゃ、布団の魅力が増すってもんさ。
日差しのように穏やかな朝を騒ぎ立てるように、携帯の着信が鳴り響く。…んん。もっと寝かせてくれてもいいだろう?
「…もしもしぃ?」
「おはようございます。奏さん。」
「…理戸?…何か用?」
「用も何も。今日は、多目的魔法堂でテストなんで…」
その言葉は張り手のように強烈で、あたしの意識は、一気に飛び起きた。
「ああああっ!!」
「っ!か、奏さん?」
「ごめん!理戸!今すぐ用意するからぁっ!」
「今から!?お願いですから急いで…」
ブツッと相手の意志お構いなしに電話を切る。
ああ。昨日の部活ハードだったからなぁ。九時間も寝ちゃってるしぃ!
…っていうか、普段がてんでダメなんだから、テストに落ちたらどうなることか…理戸にも思いっきり迷惑かけちゃってるし。ああっ!もうっ!!
あたしは、あっと言う間に着替えを済ませ、焼いてない食パンを、よくアニメで見るようにくわえて家を飛び出た。