08.
その後ろ姿を見届け、足音が遠ざかったのを確認してから、攻略対象者達が息を吐く。
そうすることで、教室内の空気が一変し、それぞれの素のモードに切り替わる。先に言葉を発したのは、ニヤニヤと笑うランベルトだった。
「へえ?」
「……何よ」
「エレナ嬢と一緒に帰ってるんだ?」
「そうよ。同じ寮に帰るのだし、彼女一人では危ないでしょう?」
私がそう返答すれば、素が無口無表情なアルノルドが珍しく呟く。
「……過保護」
「過保護ではないでしょう」
聞き逃すことなくすぐさま反論したというのに、セストとランベルトまでもがアルノルドに加担する。
「過保護だな」
「過保護だね〜。むしろ、一緒に帰るべきなのは妹じゃなくて婚約者であるリベリオなんじゃないの?」
ランベルトの言葉に、リベリオ殿下と二人で顔を見合わせたけれど、それも一瞬のことで、リベリオ殿下はランベルトの口を半ば鷲掴みしながら言う。
「余計なことを言うな」
(怒っている……)
まあ、そうよね。婚約者といえど名ばかりの私が、ゲームの攻略対象者であるリベリオ殿下と登下校含め一緒に行動するなんて、彼からしたら溜まったものではないと思う。
現に、ゲーム内のロザリアが食事を一緒になどと誘っただけで嫌そうだったし、とそのスチルを思い出して内心苦笑し、騒いでいる彼らを見て思う。
(私はともかく、この中の一人と好感度が高くなれば、エレナは必然的にその方と帰ることになるのよね。なんだか複雑。本当にこの中からお相手が見つかるのかしら)
エレナが彼らの本性を知ったらどう思うのかしら、卒倒しないかしら、などと余計なことを考えてしまう自分を叱咤し、皆に声をかける。
「そろそろ本題に戻りましょう」
そんな私の言葉で、彼らは表情を引き締める。
そして、先に言葉を発したのはリベリオ殿下だった。
「それにしても、ただの生徒である僕達に城下で見回りさせる? これでも一応、僕達守られる立場にある側だよね?」
「全くもってその通りなのだけれど、今年の新入生の数が多いことから、万が一に備えてのことなのではないかしら。治安が良いと言えど、城下は広いし」
私が資料に目を落としながらそう口にすると、他の皆も集まってきて資料に目を通しながら、ランベルト、アーノルド、セストの順に口々に言う。
「うわ、本当に広すぎない? もはやイジメ〜」
「……面倒くさい」
「だが、何かあった場合に魔法で実践出来るというのなら、行く価値はありそうだ」
(セストの発言だけ物騒ね……。でも、セストが珍しく乗り気なのは良いことかも)
「でも、見て。“参加は任意で”って書いてある」
リベリオ殿下の言葉に私は頷く。
「そうね。でも、風紀委員である私達の個々の魔力は高いから、不足の事態に陥った時に対処することは出来るはず。……それにほら、参加した場合は成績表にボランティアとして書かれるって」
この世界の成績表も、前世日本での学校生活で学期末に渡される制度と同じ。
第一学年から第三学年までの成績が一覧となってまとめられ、その成績表を提出して内定先が決まる。
(実を言うと、私が風紀委員会に入ったのもそれが理由。まさか、前風紀委員長から名指しで次の委員長として任命されるとは思ってもみなかったけれど)
彼らもまた同じようで、私の“成績表”という言葉に瞳を輝かせる。
「え、それなら行くよね!」
「……成績表に書かれるのなら」
「実績になるかもしれないしな」
「実績に残るようなことがないのが一番だよ、セスト。そこは履き違えないように」
リベリオ殿下の言葉に、セストが「すまない」と素直に謝罪したのを見て思う。
(……セストはリベリオ殿下の言うことは素直に聞くのね)
まあ、私への扱いが雑なことは知っていたけれど!
と、どちらが委員長か分からないわと白目を剥きながら、言葉を発した。
「では、全員参加ということで申請するわね。地図の方は……、あまり仔細に書かれていないわね。事前に下調べをしておいた方が良さそうね」
「「「「え!?」」」」
「あら、何か問題でも?」
私が尋ねると、リベリオ殿下を始め、四人は困惑したように言う。
「そこまでする必要はなくない?」
「それはダルすぎる〜」
「……休日返上は嫌」
「求められた任務だけ遂行すれば良いだろう」
「甘いわ、皆。いつ何時不足な事態が起こるか分からない。学園ではないのだから、危機感を持つことは大事よ。それに、最初から私一人で行くつもりだったから安心して」
私がこれは決定事項だと告げると、ランベルトがヒラヒラと手を振って言う。
「委員長、真面目すぎ。休める時に休まないと疲れちゃうよ?」
「休める時は休んでいるわ。とにかく、貴方達が何を言おうと、私は事前に下調べしてくる。以上、解散」
皆に下調べをしてもらうことは完全に負担になると分かっているから、皆にまで強制参加を求めるつもりはない。
だからこそ席を立ち、教室を出て廊下を歩きながら思う。
(……だけど私がここで手を抜くわけにはいかない。だってこの校外学習は他でもない、ゲーム中で重要なイベントの一つなんだもの……!)
だからこそ、この日だけは皆に参加してもらわなければいけなかった。
無事に参加の意を示してもらえた今、彼らの気が変わらぬ内に先生に全員参加の旨を伝えに行こう、と廊下を歩いていると。
「ロザリア!」
「!」
不意に大声で後ろから呼び止められ、驚き振り返れば、そこにはリベリオ殿下の姿があって。
彼は息を吸うと、私をまっすぐと見つめて言った。
「僕も下調べに行く」
「……えっ? い、いいわよ、一人で行くから」
「女の子一人で行かせるわけがないでしょう」
「!?」
思わぬ言葉に不意打ちを喰らった私を良いことに、彼は勝手に話を進める。
「いつの予定?」
「み、三日後だけれど……」
「分かった。女子寮の前で集合しよう」
「え……」
「一応そのことも含めて先生に報告した方が良いね」
そう言うと、私の手からごく当たり前のように資料を取ると、私に向かって言った。
「一緒に行くよ。それから、時間も遅いし、寮まで送る」
「え……!?」
「ほら、ボケッとしてないで。早くしないと時間がいくらあっても足りない」
「は、はい!」
やはりこれでは、委員長がどちらか分からない。
それよりも……。
(どういう風の吹き回し!? 何この状況!? 急展開がすぎる!)
と置かれた現状についていけず、頭を抱えるのだった。
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