07.
(なっ……な)
目の前には、良い笑顔を浮かべる推し兼婚約者であるリベリオ殿下。
その殿下が私に差し出しているのは、焼き目がつき美味しそうなお肉が刺さっている串焼き。
しかも、一つ食べた後の串焼きを私に向けて差し出すその姿は……。
(こ、これは、いわゆる“あーん”というもの……って、悪役令嬢の私がこんな乙女ゲーム展開的状況になぜ陥っているの……!?)
太陽が高い位置にあり、雲ひとつない青空の下。
活気あふれる城下で、私達がなぜこんなことになっているのか。
事の発端は、三日程前に遡る。
「はい、委員長。先生から資料を預かってきました」
エレナと和解することが出来て早二週間。すっかり風紀委員として様になり、頼れるエレナの姿に、私は笑みを浮かべて資料を受け取る。
「ありがとう、エレナ」
そう感謝を述べれば、彼女は今日も可愛らしい笑みを浮かべた。
(さすがはヒロイン、笑顔を見ただけで和むわ)
と、つられて口角が上がるのを感じていると、なんだか視線を感じてそちらを見やれば、風紀委員であり攻略対象者である彼らが物言いたげにこちらを見ていた。
「……何か?」
尋ねた私に、アルノルドが猫を被ってにこやかに口を開く。
「いえ、なんだか委員長の雰囲気が変わったなと」
「え?」
突然何、と驚く私に、ランベルトが馴れ馴れしくこちらに近寄ってきて言葉を引き継ぐ。
「そうそう。ご機嫌というか、こう、雰囲気が柔らかくなりましたよね」
「は?」
どういう意味、と尋ねるよりも先に、セストが答える。
「特に、エレナ嬢が風紀委員会に加わってから」
「!」
セストの言葉に思わずエレナを見やれば、エレナもまた驚いたように目を丸くした後、笑って言った。
「そうだったら嬉しいです!」
「……っ」
真っ直ぐな笑顔を直視できず、思わず視線を逸らした私に、ランベルトが余程驚いたのか、限りなく素に近い状態で私に詰め寄る。
「えー、怪しい。何かあったんですか? 教えてください」
(っ、完全に面白がっているわね……!)
注意しなければ、と口を開きかけたけれど、それを遮るように前に出たのはリベリオ殿下で。
「はいはい、私語は謹むように」
そう言いながら、彼はランベルトの背中を押す。
そしてあろうことか、私の耳に顔を寄せて囁いた。
「良かったね」
「!?」
耳に吐息が触れたのがくすぐったくて、私は慌てて耳に手をやり彼を見上げると、彼はしてやったりと笑みを浮かべる。
でも、その笑みが柔らかくも見えて顔が熱くなるのを感じて、誤魔化すように目の前に仕事に集中する。
(それにしても……、先生からの資料って何かしら)
何も聞いていないけれど、と一通り資料に目を通してから席を立つと、それぞれの仕事をしている皆に声をかける。
「全員、聞いて。次の大仕事が決まったわ」
「大仕事?」
リベリオ殿下の言葉に頷くと、エレナにも伝わるようにあえて話題を振る。
「エレナ、もうすぐ新入生の一大イベントがあるわよね」
「……あっ、校外学習のことでしょうか?」
エレナの言葉に、リベリオ殿下もまた思い出したように言う。
「あぁ、民の暮らしを知るため、城下に視察に行く行事ですね」
エレナを含めた新入生にとって初めての行事、それが城下視察。
魔法学園に在籍している生徒は、卒業後、他国に渡る以外の皆が魔法使いとして国に貢献することになる。
そのために、城下に暮らす民達がどのように生活しているかを知り、魔法使いである自分達に何が出来るかを考えさせる、という名目の行事だ。
前世で言う“社会科見学”のようなものだけど。
「問題は、新入生全員で校外へ行くということ」
「……つまり、私達に彼らの見回りをしてほしい、と?」
リベリオ殿下の言葉に、「えぇ」と頷き肯定すると、エレナが目を丸くする。
「校外学習の見回り……風紀委員の仕事って、そんなに大変なことまでしなくてはならないのですか?」
「今年は、例年に比べて生徒の人数が二十名ほど多いそうなの。元々、その日は第一学年以外の学年はお休みになり、先生方が全員視察に同行するのだけど、念のため私達にも手伝ってもらえたらという話らしいわ」
「そうなんですね……」
「というわけで、その日は貴女は参加する側だから、今日は先に帰って良いわ。一緒に帰れなくてごめんなさいね」
「いえ! お仕事お疲れ様です。皆様も、お疲れ様です。お先に失礼致します」
エレナはそう挨拶してから皆に頭を下げると、鞄を手に部屋を出て行った。




