05.
明けましておめでとうございます!
本年もよろしくお願いいたします。
「お姉様」
「!」
不意に鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえてきたため振り返ると、そこには、食事を載せたトレイを持ち、恐る恐ると言ったふうに私の顔色を伺うエレナの姿があった。
「お隣、座ってもよろしいですか?」
「……っ、空いているのだから、許可を取る必要はないわ」
(ま、またやってしまった……! ロザリアとしての私も前世の私も、なぜだか口調が厳しくなってしまう……。不意に声をかけられた衝撃もあったから、なおさら)
そうよね、今は夕食の時間。女子寮の食堂なのだからエレナと出会うことだってあるわよね、と内心頭を抱えながら、気まずさから食事を摂る手を速める私に、エレナがポツリと呟いた。
「……私のこと、お嫌いですか」
「えっ」
エレナは私の方をじっと見つめ、言葉を発する。
「風紀委員会で遅刻してしまったこと、お姉様にご指摘をいただいて酷く反省しております。今後このようなことは一切しないと、誓います」
「……どうして、そこまでして風紀委員会に?」
「え……」
私の質問に驚くエレナに向かって言葉を続ける。
「風紀委員会は、生半可な覚悟では出来ない。実際に陽の目を浴びるのは生徒会の方で、風紀委員会はそのサポートや地味な仕事が多い、いわば“雑用係”のようなもの。貴女も、その忙しさは噂で聞いたことがあるでしょう?」
これは、乙女ゲーム中でも語られなかったこと。ずっと疑問に思っていたことを彼女に投げ掛ければ、彼女は「はい」と頷いた。
「それなら、なぜ」
「お姉様がいらっしゃるからです」
「!」
思いがけない言葉にエレナを凝視すれば、彼女は俯きながら言う。
「不純な動機だと、分かっております。ですがこれは、好機だと思ったのです」
「…………」
エレナが私をじっと見つめる。その視線に居た堪れなくなるけれど、グッと堪え、なんとか口を開く。
「早く食べないと冷めるわよ」
「あ……」
食堂が混んできたこともあり、食事を終えた私が席を立つと、エレナが悲しそうな表情をするのを見て言う。
「続きは私の部屋で。委員会の仕事をして待っているから」
「っ、はい……!」
エレナが満面の笑みを浮かべる。キラキラと眩しくも見えるその綺麗な笑みは、到底私には真似出来そうにないもので。
(……彼女がヒロインというのも頷けるし、これは攻略対象者達も放って置かないはずだわ)
と納得し、その場を後にした。
十数分後、自室の扉を外から控えめにノックする音がした後、「エレナです」と名乗る声が聞こえてきた。
風紀委員会の仕事をしていた私は資料を閉じ、扉を開けると、そこには制服とは違う室内着を着たエレナの姿があった。
「どうぞ、入って」
「お、お邪魔します」
エレナは恐る恐るといったふうに部屋に入る。
その様子を見て、思わず口にした。
「そういえば、貴女を私の部屋に招き入れるのは初めてかしら」
「はい。なので、初めてお姉様とこうしてお部屋でお話しすることができてとても嬉しいです!」
屈託のない笑顔でそう言われてしまえば、今まで避けていた自分の行動が恥ずかしく感じてしまう。
「そ、そう。私も、貴女とお話しすることが出来て嬉しいわ。こちらに座って。ハーブティーを淹れるから」
「わ〜!」
それだけで、嬉しそうにするエレナの姿を横目で見ながら思う。
(ずっと一人っ子だったから、急に妹だと言われてもどう接して良いか分からなかったけれど……)
「お姉様、このハーブティー、とっても美味しいです!」
エレナがハーブティーを一口飲み、感動したように瞳をキラキラとさせるのを見て、自然と口角が上がるのが鏡を見なくても分かる。
そうして少しの間、二人でハーブティーを味わつてから、エレナに気を遣わせないよう、先に話を切り出した。
「先ほどの話の続きだけれど。風紀委員会に入ったのは、私が理由なの?」
「! ……はい。お姉様と同じ景色を見てみたかったんです」
「え……」
「も、もちろん、風紀委員会の委員長でいらっしゃるお姉様の足元に及ばないとは分かっております。ですが……」
エレナが口籠もり、膝の上で拳を握ったのを見て、私は静かに言葉を発する。
「……私が貴女を避けていたことに気付いていて、その理由を知りたいから風紀委員会に入ったのね?」
「! は、はい……」
エレナの硬い表情に、私も逡巡してからそれに対しての答えを伝えるべく口を開いた。
「……そうね、この気持ちを上手く伝えられるか分からないけれど……、戸惑いが大きかった、というのが一番の理由かしら」




