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04.

 翌日の昼休み。


「キャーッ!!」


 昼食をとり終えて中庭を歩いていたところ、不意に耳に届いた悲鳴に顔を上げれば、女子生徒の一人が空から落ちてくるのが見えて……。


「ッ、風よ!」


 取り出した杖を掲げ、咄嗟に口を吐いた言葉は呪文となり、杖から強い風が吹き荒れる。

 風は女子生徒の身体を守るように包み、そして……、彼女はストンと足から着地した。


「……っ」


 その場に座り込む彼女の周りに、近くにいた友人らしき女子生徒が数名駆け寄ってくる。

 それを見て、私は声をかけた。


「……一年のセレステ様ね」

「え……!? は、はい。た、助けていただきありがとうございました」


 慌てて立ちあがろうとするけれど、先ほどのショックで上手く立ち上がれない彼女に、私は「そのままで良いわ」と言ってから言葉を続ける。


「私は風紀委員会委員長のロザリア・ガレッティよ」

「ロ、ロザリア様!? た、大変失礼いたしました……!」

「気にしないで。それよりも、貴女はここで浮遊魔法の練習を?」

「はい……」


 浮遊魔法とは、名前の通り空を飛ぶ魔法のこと。

 私は息を吐いてから言った。


「浮遊魔法は一年の後半で習得する魔法であり、失敗すると先程のように危険を伴う魔法だから、正式に習うまで実践は禁止。それから、魔法の特訓は練習場のみ可能。今ので二つの規則を破っているから、本来であれば謹慎は免れないわ」

「き、謹慎……」


 口を震わせ、より一層顔色をが悪くなるのを見て、静かに言葉を発した。


「……だけど、今回はまだルールを知らなかった新入生として見逃すわ」

「え……」

「その代わり、これらの学園の規則はきちんと生徒手帳に書いてあるはずだから、しっかり目を通すこと。次はないと思って」

「……っ、はい! 気を付けます! ありがとうございます!」


 セレステ様は泣きながら頭を下げる。

 地面に座り込んだままの彼女を見て、手を差し伸べながら尋ねた。


「怪我はない?」

「っ、は、はい」

「……そう。それなら良かった」

「!」


 ホッと息を吐き、伸ばされた手を握って彼女を引っ張り起こし、「ごきげんよう」と断ってからその場を後にすると。


「さすがは委員長」

「!?」


 声をかけられそちらを見やれば、ヒラヒラと手を振るランベルトとリベリオ殿下を含めた、風紀委員の皆がいて。


「み、見ていたの!?」

「もちろん♪」

「…………」

「無視!?」


 完全にこの状況を面白がっているランベルトをスルーし、他の面々を見て口を開く。


「盗み見とは悪趣味ね」

「君が誰よりも早く動いたから静観したんだよ。ここで僕達が出て行ったら騒ぎになる。ね、賢明な判断でしょう?」


 そう悪戯っぽく笑って言うリベリオ殿下に言葉を返す。


「確かに、無駄に外面が良い貴方達が出てきてしまったら、それこそ処罰は免れなかったでしょうね」

「無駄にって……、こう見えて処世術なんだよ?」

「…………」


 彼らに疑いの眼差しを向けながら思う。


(どうして私が彼らの本性を知ることになってしまったのか……。それが本当に偶然だったのよね)


 半年前、私が委員長になったばかりの頃、風紀委員会の教室で寛いでいた彼らと鉢合わせしてしまったのだ。

 話し方も仕草も、とても高貴な身分とは思えない適当さに、最初は別人かと疑ったけれど。


(『婚約者だし、委員長の前でお行儀よくするのも疲れたから丁度良かった』なんて口にしたリベリオ殿下を筆頭に、全員が全員その日から私の前では本性を出すようになったのよね〜……)


 本当、乙女ゲームのプレイヤーの皆様にも見せてあげたいわ、とできれば私も知りたくなかった、夢を見させてほしかったかも、と深いため息を吐く私をよそに、彼らは勝手に盛り上がる。


「そういえば、ロザリアって女子からすんごいモテててファンクラブまであるらしいよ!」


 なぜだか嬉々として語り出したのは、乙女ゲームでは色気担当、本性はただのお調子者のランベルト。


「興味ない」


 それをバッサリと切り捨てたのは、外面貴公子、内面無表情無口なアルノルド。


「同感だ」


 そう同意の言葉だけを口にしたのは、正統派騎士の仮面を被った中身脳筋俺様のセスト。


(とんだ残念詐欺師達だわ……)


「もう、皆大人気ないなあ。でもやっぱ一番面白くないと思っているのは、リベリオでしょ?」

「はあ?」

「あはは、全然素直じゃなくておもしろ〜い」

「何を言っているのか分からないんだけど」


 私にはついていけない男子のノリ。

 素の彼らを見ていると、やりとりが小学生みたいだし、よく分からないし、正直呆れてしまうことの方が多いけれど、でも。


(……リベリオ殿下、楽しそう)


 そんな楽しそうな彼らを見ているのが楽しい、と思ったり思わなかったり。


「……ロザリア」

「何?」


 三人のやりとりは今もなお続いているけれど、リベリオ殿下は私の名前を呼ぶと、私から視線を逸らさないまま、なぜだか無言の状態が続く。


「……あの?」


 なんだかそれがこそばゆく、居た堪れない気持ちになり、恐る恐る言葉を発したけれど。


「……何でもない」


 リベリオ殿下は逡巡してから、誤魔化すように言葉を濁した。


(……変なの)


 何か言いたいことでもあったのだろうか、と首を傾げたけれど、リベリオ殿下はその後何もなかったかのように、彼らの戯れに再度加わるのだった。

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