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03.

 私の驚きぶりに、リベリオ殿下もまた驚いたのか、僅かに目を見開いた後視線を落として呟くように言った。


「……色気のない驚き方」


 今朝登校してきた時も然り、人目があるときは、婚約者として甘やかに接してくれるリベリオ殿下。それと比べたら、とても同一人物とは思えない豹変ぶりをする。


(リベリオ殿下の場合、中性的な容姿も相まって前世では“天使”と呼ばれていたけれど……、私の前では“毒舌小悪魔”といったところかしら)


 などとどうでも良いことを考えながら、その態度にすっかり慣れた私も言い返す。


「ごめんなさいね、色気がない反応をしてしまって。驚かせる方が悪いと思うけれど」


 言葉を返しながら、またもや遅すぎる反省をする。


(私のバカ……! エレナのみならず、リベリオ殿下にまで悪役令嬢のような態度を取ってしまうなんて。自ら破滅に向かっているようなものではないの)


 そんな私を見透かしたかのように、リベリオ殿下は息を吐きながら言う。


「さっきのことだけど。妹に対しての当たりが強くなってしまうのは、君としては不本意なんじゃないの?」

「……っ」


 今度こそ当たりが強くならないように返したいけれど、何と言えば良いか分からなくて。


(前世の記憶を思い出したとはいえ、“ロザリア”としての自分の記憶の方が強いから、そう簡単に性格や言動を変えようと思っても変えられないわ……)


 などと誰に向かって言い訳をしているのか分からないまま黙るしかない私に、リベリオ殿下の言葉は続く。


「皆が掃除して下校した後もそうやって掃除しているのは、大抵自分が悪かったと思っている時でしょう? 違う?」

「っ!」


 どうして、この人は。そんなことを話した覚えはないのに、彼には見抜かれていたことに驚き、思わず掃除していた手を止め、リベリオ殿下を見やる。

 彼はじっと私を見つめたまま言葉を発した。


「僕は慣れているから良いけど、エレナ嬢は違う。『どうしたらお姉様と仲良くなれるか』と僕に聞いてきた。つまり、エレナ嬢は君に嫌われていると思っているよ」

「!」


(エレナ、もうそんなことまで彼に話す仲になっているの……?)


 どす黒い感情が胸を渦巻いたと思った刹那、勝手に口から言葉が飛び出していた。


「……だったら何?」

「え……」


 リベリオ殿下が目を見開く。それでも、私の言葉は止まることを知らない。


「私とエレナの仲が悪かったところで、貴方には関係ないでしょう?」

「……っ」


 しまった、と思った時には遅い。私は箒を握る手を強く握りしめて小さく口にした。


「……これは、私達姉妹の問題だから。余計な詮索や口出しはしないで」

「ッ、ロザリア!」


 彼が私の名前を呼ぶ。

 私は振り返ることなく、その場を後にしながら自身の記憶を辿り、またもや言い訳するように自身の複雑な心情を肯定する。


(だって、仕方がないじゃない。ロザリアとエレナ……、一歳違いの私達は、三年前に初めて会ったばかりの、本当の姉妹ではないのだから)





 私、ロザリア・ガレッティは公爵令嬢といえど、エレナとも他の令嬢とも違う少々特殊な生い立ちがある。

 それは、私は三年前まで平民として暮らしていたということ。

 平民として暮らしていたというのは、小さな街でパン屋を営んでいた両親の下で育てられていたから。

 決して裕福とは言えなかったけれど、幸せな日々を送っていた。

 けれど、その幸せが長く続くことはなかった。


 それが今から五年前、忘れもしない、十歳の誕生日を迎えた日に突然両親を亡くしてしまったことにある。

 朝、いつも通り目が覚めて、起きない両親を起こそうとしたら、すでにその身体は冷たくなっていた。二人同時、亡くなった原因は不明。ただ、触れた時の冷たい感触は、年月を経た今でも残っている。

 今でも思い出すと、胸が苦しくなり涙で視界が滲むけれど、当時はショックのあまり感情が欠落し、未だに記憶が曖昧な部分がある。


 そうして、天涯孤独の身となった私は、孤児院に入るけれど、周りと上手く馴染むことができないまま、二年という年月を過ごし……。


「初めまして、ロザリア。私は貴方のお母様の妹にあたるガレッティ公爵夫人よ」


 ガレッティ公爵夫人と名乗る、お母様によく似た女性が私の前に現れた。

 公爵夫人によると、お母様は前ガレッティ公爵の娘、つまり元は貴族の出身で、平民であるお父様と恋仲になりそのまま駆け落ちして家を出たのだという。

 初めて知る事実に驚いたけれど、確かにお母様は高貴な生まれだと納得ができる気品があったし、私にも『いつか役立つかも』と言って、今思うと淑女教育の一貫であるマナーを教えてくれていた。


 そんな私を、ガレッティ公爵夫人は『ぜひ我が家に』と迎え入れてくれて、そして……、私は“ロザリア”から“ロザリア・ガレッティ”となったのだ。


(ロザリアの出自を知ったのは、彼女に転生して自分として生きてきたから。そうでなければ、ラスボスであり悪役令嬢であるロザリアのことなんて知る由もなかった)


 乙女ゲームの中に、ロザリアについての描写は少なかった。プレイヤーにとっては不要な情報という扱いだったのだろう。

 実際、この世界において社交の場に正式に参加するデビュタントは14歳だったことから、私の出自については、“元平民”ではなく、“持病のために社交界に出られなかったガレッティ公爵家長女”と現ガレッティ公爵夫妻が説明したため、周りからはそう認知されているのだ。


(国王陛下はご存知だと思うけれど、婚約者であるリベリオ殿下は知らない。でなければ、曰く付きの私を婚約者になんて選ぶはずがないもの)

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