17.
「……落ち着いた?」
「!」
リベリオ殿下の優しい声が鼓膜を震わす。
それだけで、どっと今の状況を理解し、羞恥に身悶える。
(わ、私、今とんでもない醜態を晒しているような……!)
「……ロザリア?」
私の名を呼びながら、身体を離そうとするリベリオ殿下に顔を見られたくなくて、咄嗟に縋り付くように顔を俯かせる。
「み、見ないで! 今、みっともない顔をしているから」
「……みっともないって?」
「あ、貴方にはとても見せられないような顔」
(は、恥ずかしい! 寝起きのままに加えて泣きじゃくるなんて……!)
どうしようと焦る私に、リベリオ殿下は困ったように言った。
「でも、だからと言って、このままの体制の方がよほど……」
(体制?)
「……ッ!」
指摘されたことでようやく、私がリベリオ殿下に寝衣のまま抱きつくという大胆な行動に出てしまっていることに気が付き、慌てて後ろに飛び退く。
「ご、ごごごごめんなさい!!」
(な、何しているの、私……!)
恥ずかしくて穴があったら入りたい! と慌てる私に、リベリオ殿下は上着を脱ぐと、そっと私の肩にかけてくれた。
「え……」
驚く私に、リベリオ殿下は耐えきれないと言ったふうに、ふはっと笑う。
「そこまで焦らなくても」
「だ、誰のせいだと」
「僕のせいだね。でも、元気そうで安心した」
「ッ、あ、貴方がまさかここにくるとは思ってもみなかったから……」
「特別に許可が降りたんだ。婚約者の特権で」
「!」
リベリオ殿下が私の頬にそっと手を伸ばす。
そして、私を見つめて言った。
「……ようやく、目が合った」
「……ッ」
「心配してた。ずっと……、生きた心地がしなかった」
そう口にしたリベリオ殿下の目元には、綺麗な顔にそぐわない、くっきりとしたクマが出来ていた。
「……心配、してくれていたの?」
「え?」
つい口を吐いた言葉に、リベリオ殿下が目を丸くする。
失言だったかも、と思った私に、案の定リベリオ殿下は目鯨を立てて怒った。
「するに決まってるよね!? それとも、婚約者の心配をしない冷血漢だと君には思われてるわけ!?」
「そ、そうではないけれど!」
「けれど何?」
「……そこまで心配してくれているとは思わなくて、驚いて……」
リベリオ殿下は私の発言に、こめかみを押さえて言った。
「……いや、君に無理をさせた僕が悪かったんだから、君を責める権利はないよね」
「え……」
そう言うと、リベリオ殿下が不意に頭を下げた。
それに一拍反応が遅れてしまったけれど、状況を理解して慌てて言葉を発する。
「か、顔を上げて!? 貴方が謝る必要なんて何も」
「君を守ろうとしたのに、力不足で君を危険な目に遭わせた」
「で、でも、その後私を守ってくれたじゃない」
「それは当然だよ。君が僕を守りたいと言ってくれるように、僕も君を守りたい。僕が君を守るのは、婚約者としての義務だ」
「義務……」
思わず呟いた言葉に、今度はリベリオ殿下が慌てる。
「待って、誤解しないで。義務だから君を守るんじゃなくて、その……」
リベリオ殿下は視線を落とすと、何を思ったか、私の膝の上に合った手を握る。
そして。
「君に傷ついてほしくない。僕にとって君は……、大切な人だから」
「……!」
そう言ったリベリオ殿下の顔は真っ赤で。
私もつられて頬が熱っていくのが分かって慌てる。
「あ、貴方は優しすぎる」
「それは君でしょう? いつもひとのことを優先して、自分のことは後回し。それどころか、自己犠牲な節がある。……僕はもっと、君に頼ってほしいのに」
「……ッ」
(こ、これは夢……?)
リベリオ殿下らしからぬ発言、でも、これは夢ではないと言っているかのように……、握られた手に力が籠る。
「……どうすれば、君の力になれる? もっと強くなれば、君は僕を認めてくれる?」
「〜〜〜ッ」
「ロザリア!?」
もう、キャパオーバーだった。
リベリオ殿下に握られていた手を引っ込め、両手で顔を覆う私に、リベリオ殿下が慌てたように言う。
「ご、ごめん、嫌だった? それとも、具合が悪い?」
「……嫌じゃない」
「え?」
「……嬉しい」
「……!」
それは、素直に口から出た言葉だった。
(嬉しいんだわ、私)
他でもない、彼が私を気にかけてくれることが。
たとえ特別な意味がなかったとしても、私にとって、彼が力になりたいと言ってくれていることが、ずっとひとりぼっちだと思っていた私の心に、深く水の波紋のように広がっていって……。
「……そうか。もっと早く、こうすれば良かったのか」
「え? ……ッ!!」
刹那、身体が浮いて悲鳴を上げる。
それは突然、何の前触れもなく彼に横抱きにされたから。
完全に不意を突かれ、油断した私は、顔を覆っていた手をどかしてしまう。
それにより、間近に彼と目が合って……。
「……うん、やっぱり君は可愛い」
「〜〜〜ッ!?」
(な、な……!? そ、空耳!? 空耳じゃ、ない……!?)
と、パニックに陥る私を、リベリオ殿下はまるで壊れ物でも扱うかのようにそっとベッドに横たえてくれ、私に掛布をかけてくれる。
そして。
「おやすみ、ロザリア。ゆっくり休んで」
(ね、眠れるわけがない!!)
そう思ったけれど、目を瞑ったらあっという間に眠気に襲われて……。
「……だ」
意識を手放す寸前、彼が何かを呟いた、気がした。




