16.
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随分と長く、眠ってしまっていた気がする。
「ん…………」
朦朧とした意識の中、一番に視界に映ったのは、見慣れた自室の天井だった。
(……私……)
「ッ、お姉様!!」
「!」
その声に、ドキリと心臓が跳ねる。
ゆっくりと声の主の方を見やれば、桃色の髪から覗く金色の瞳を潤ませた、エレナの姿があった。
「エレナ……」
私が呟くように呼んだその名前は、上手く声にならずに掠れてしまって。
エレナは慌てたように水差しに入った水をコップに淹れ、私の背を起こして支えてくれながら言った。
「お姉様、お水を飲めますか?」
私は頷き、エレナからコップを受け取ると、乾いていた喉が潤う。
「ありがとう」
ようやくお礼を言えば、エレナは首を横に振る。
そして、水を飲んだおかげで覚醒したところで、自身が置かれた状況と意識を失う前の記憶を思い出す。
「……ッ、殿下! リベリオ殿下は今どちらに!?」
「大丈夫です。リベリオ殿下はご無事なので、安心してください」
「……そう。良かった……」
迷いなく言い切ったエレナが嘘を言っていないことに心から安堵し、再度ベッドに身体を沈める。
そして、エレナに向かって言葉を発した。
「ありがとう。貴女が助けてくれたのよね。光属性の魔法を使って」
私が意識を失う直前、眩いばかりの温かな光に包まれたのは、紛れもないエレナの魔法だった。
そのことを思い出して礼を述べたのに対し、エレナは「はい」とだけ頷き、表情を曇らせる。それがなぜだか意味が分からず、首を傾げた。
「なぜ、貴女がそんな顔をするの?」
「もっと私が早く着いてお姉様の援護が出来ていれば、お姉様が魔力枯渇で長くお眠りになることはなかったのにって」
エレナの言う“魔力枯渇”とは、身体を巡る魔力がなくなった状態に陥った時のこと。回復するのには、魔法を使わず絶対安静を余儀なくされるのだけれど……。
「私、そんなに長く眠ってしまっていたの?」
「はい。今日で丸二週間です」
「二……!?」
(それはいくらなんでも眠りすぎでは!?)
聞いたことがない長い期間、自分が眠ってしまっていたことに驚く私をよそに、エレナがポロポロと泣き出す。
さらに驚き目を見開く私に、エレナは慌てたように指先で涙を拭いながら答えた。
「ご、ごめんなさい、安心したら、なんだか涙が」
「……エレナ」
その様子に、エレナがどれほど私を心配してくれていたかが分かって、胸がズキリと痛む。
「不甲斐ない姉で、ごめんなさいね」
ポツリと呟いた本音を聞き漏らさず、エレナは大きく首を横に振って言った。
「それは私の方です! あの時、ドラゴンが出たと聞いて、怖くなって逃げ出してしまいそうになったのです。でも……、お姉様なら必ず、危険を顧みずに立ち向かう。そう思ったら、私も行かなきゃって、思えたんです」
「エレナ……」
(……あぁ。この子は本当に、ヒロインになるべくしてなった、芯からまっすぐで、良い子なのね……)
私は彼女の手を取ると、両手で包むように握って言葉を紡いだ。
「本当にありがとう、助けてくれて。貴女は私の命の恩人だわ」
「……ッ、はい!」
エレナはその言葉に大きく頷き、あの日彼女が発動した魔法と同じくらい、眩く温かな笑みを浮かべてくれた。
その後、エレナは「リベリオ殿下にも伝えてきます!」と言って部屋を出て行き、やがて、数分後にノックする音が部屋に響いて……。
「……リベリオだけど、入っても良い?」
(……リベリオ殿下!?)
ここは女子寮だから、男子は入れないはず。
許可が降りた!? と慌てて鏡の前に立てば、とてもではないけれど、リベリオ殿下に見せられるような格好をしていなくて。
こうなったら、とベッドの上で掛け布を被ると返事をした。
「ど、どうぞ……」
「失礼するよ」
リベリオ殿下が一言断りをいれて入ってくる足音に、ドキドキと心臓が高鳴る。
(待って!? 私の部屋、今綺麗だったかしら!? まさかリベリオ殿下がこの部屋に足を踏み入れるとは思わなかっ)
「……ロザリア?」
「……はい」
名前を呼ばれて返事をすれば、リベリオ殿下の戸惑ったような声が聞こえてくる。
「突然訪ねてきてしまってごめん。居ても立っても居られなくて。……出来れば、顔を見せてほしい」
「そ、それは無理、かも」
「なぜ?」
「……恥ずかしいから」
「…………」
(い、言ってしまった……)
なんともいえない沈黙が訪れて申し訳なく思っている私に、リベリオ殿下もまた申し訳なさそうに言う。
「ごめん、配慮が足りなかった。淑女の部屋に何の前触れもなく入るのは婚約者失格だね。出直してくる」
「ま、待って……!」
「え……!」
慌てた私がベッドから立ち上がろうとして、バランスを崩す。
その先にリベリオ殿下がいて、受け止めきれなかった彼ともつれるようにして床に倒れ込んだ。
「ッ、ごめんなさ……っ」
慌てて起きあがろうとして、その姿勢で固まる。
それは、脳裏にあの日の光景……、リベリオ殿下が私を庇い、ぐったりとした様子と重なったから……。
「あ……」
一瞬にして血の気が引き、呼吸が浅くなりかける。
その前に、リベリオ殿下が上体を起こし、私を抱きしめて……。
「大丈夫。僕も君も、助かったんだよ。君のおかげで助かった。ありがとう、ロザリア。君と無事に学園に戻ってくることが出来て、本当に良かった」
「…………ッ」
リベリオ殿下が大きな手で、私の背中をあやすようにさすってくれる。
その温かなぬくもりと、私が一番欲しかった言葉を聞いて、まるで子供のように、声をあげて泣いてしまうのだった。




