14.
(やはり魔物が現れてしまった……っ)
万が一逃げ遅れてしまった生徒や城下の人々がいるかもしれないということで、念のため、ランベルト、アルノルド、セストの三人には城下の確認に向かってもらった。
そして、リベリオ殿下と私は、最大限の速度で魔物の出現場所へと向かっている。
(ゲームの内容を知っているのは私しかいない。不自然にならないよう上手く立ち回りつつ、彼らや城下の人々の命を守らなければ……!)
箒を持つ手に力を込め、風の抵抗を受けないよう上体を倒しつつ、前だけを見据える。
リベリオ殿下の飛行速度が桁違いなおかげで、数十秒後には魔物の姿をはっきりと確認することが出来た。
だけど。
「…………ッ!?」
「ドラゴン!?」
(まさか、そんな)
リベリオ殿下の言葉に、これが夢ではないのだと残酷な現実を突きつけられる。
その理由は。
(私が知っている、ゲームに出てきていた魔物と違う……!!)
どのルートにおいても、城下視察イベントで現れる魔物は共通しており、その魔物は火を噴く虎の見た目をしていて、飛ぶことはなかったはず。
それが今、私達の目に映っているのは、真っ黒な見た目をした、建物ほどある大きな身体を持ち上げるほどの翼を持つドラゴンだった。
リベリオ殿下は、それでも臆することなく速度を緩めずに近付くと、やがてギョロリと私達の存在に気付いた赤い瞳と目が合って……。
「……ッ!!」
その瞬間、頭痛と共に記憶が蘇る。
(このドラゴン、悪役令嬢であるロザリアがラスボス化した時に一緒にいた魔物じゃない!?)
なぜそんな魔物が、この時期に城下に現れるの!?
と背中を冷や汗が伝った、その時。
「ロザリア! 身体を右に!!」
「え……!?」
リベリオ殿下の鋭い指示が飛んだことで意識を戻した時には、ドラゴンの口から放たれた黒い火の玉のようなものが私達目掛けて飛んできていて……。
「「……ッ」」
言われた通り右に上体を倒したことで右へと急旋回した私達の横を、黒い火の玉は通り過ぎていく。
刹那、ドォンッという凄まじい轟音がしたためリベリオ殿下の腕越しに後ろを振り返ると、地面が抉れるように穴が開き、黒い魔法の光が煙のように上がっていて……。
「ロザリア! 歯を食いしばって!」
「!!」
リベリオ殿下は私の腰に回した腕に力を込めると、急降下して次の攻撃を避ける。
その魔法は、今度は建物に当たって、爆発音のような凄まじい衝撃と共に壁が粉砕した。
「街が……!」
(なぜ!? なぜこんなに執拗に攻撃してくるの……!?)
このイベントでは、出現した魔物の数は多かったものの、さほど強い魔物ではなかったことと早い段階でヒロインであるエレナが覚醒したことから、被害は最小限に抑えられたとあった。
それなのに、今私達の目の前にいる魔物は、ゲームでは最終盤に出てくる強い魔物で……。
この日のために事前に準備と覚悟をしたはずなのに、予想もしていなかった強力な魔物を前に、焦りだけが募る私とは対照的に、リベリオ殿下は冷静に口にした。
「他の皆がここにきていないということは、生徒や街の人々の避難に時間がかかっているのかもしれない。この魔物を相手にするのは二人では無理だ。援護が来るまで、魔物をここではない場所に移動させよう」
「広場! この道を突き当たりに右へ曲がった先に広場があるわ!」
「分かった! そっちへ向かおう!」
「はい!」
(そうよ、ここにはリベリオ殿下もいる。しっかりしなければ!)
私は気合いを入れるため大きく返事をすると、リベリオ殿下の飛行速度が更に速さを増す。
背後を振り返れないほどにグングンと景色は流れるけれど、すぐ近くを黒い火の玉が飛んできては当たり、それらを破壊する様を見るに、私達を追いかけてきているのが分かる。
「見えた!」
リベリオ殿下の言う通り、そこは私が事前に目星をつけていた噴水のある広場があって。
「噴水がある……。これなら強い魔法を使えるかもしれない」
リベリオ殿下の言葉にハッとする。
(そうだわ、リベリオ殿下をはじめ王族であるベルテ家の得意な属性は水。水辺が近くにあると、その恩恵を受けてより強い魔法を扱える)
私はその言葉を受けて、リベリオ殿下に向かって言った。
「広場に着いたら箒から降りましょう! 私が光属性の魔法で盾になるわ!」
「!? 君にも光属性の魔法を扱えるの!?」
リベリオ殿下が私に尋ねているのは、私達ガレッティ家は光属性を扱うことの出来る唯一の家系なのだけれど、その魔力量には個人差があるということ。
(覚醒後のエレナの足元にも及ばないけれど、私にも一応光属性を扱うことが出来る)
「……魔物相手に実践したことはないから分からないけれど、私もガレッティ家の者として教わり、魔力量は強い方だと言われたの」
そう言って彼を安心させるため笑みを浮かべてみせれば、リベリオ殿下は「そう」と笑って言った。
「僕も、同じことを陛下に言われた。同じく、魔物相手に実践したことはないけどね」
その言葉に二人で笑い合うと、私は頷き、口にした。
「ではお互いに、お手並み拝見といきましょう!」
広場に着いた瞬間、二人で箒から飛び降りるようにして地面に降り立つ。
そして、すぐさま魔物と対峙するように杖を取り出した私は、光属性の呪文を唱えた。
「光よ。私に力を貸して」
この世界において魔法とは、神の力を借りて初めて使うことができ、その強さは、魔法をどれほど愛し、欲するかによって変わってくる。
だから、私利私欲だけで魔法を使おうとする者には魔法は扱えないし、強さだけを追い求めても神は応えてくれない。
(さすが、乙女ゲーム……。愛が全ての原動力、ということよね)
神から選ばれ、愛された者だけが使える魔法。
私に今、必要な力は。
目を閉じ、ギュッと祈るように手を握り、心からの願いを口にする。
「私の大切な人を、どうか守って……!」
「……!!」
刹那、眩いばかりの光が私達を包み込んだ……―――




