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推しを殺すラスボス(悪役令嬢)に転生してしまった  作者: 心音瑠璃


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12.

(今のところ、目立った問題は起きていないようね)


 城下を歩き、街の人々とも交流する生徒達の姿も見られて、安堵する。


「……楽しそうだね」

「え?」


 その言葉に顔を上げると、リベリオ殿下がじっと私を見つめて言う。


「僕達は、ただひたすら彼らを見守るだけだというのに」

「……そうね、楽しいわよ。だって皆、楽しそうだもの」


 私の言葉にリベリオ殿下が目を瞬かせる。


(確かに、私達は第一学年の皆の安全を見守るだけだけれど、皆が何の憂いもなく最後まで楽しめればそれで良い。ゲーム通りの展開にならないように努めるために、私はここにいるんだもの)


 それに、と彼らを指差して言う。


「私達も去年はあの子達と同じ場所にいたのよ? 覚えている? 皆バラバラに行動していたはずなのに、結局最後には風紀委員で集まるのが落ち着くと、何の合図もなく集合していたこと」


 あの時はまだ、風紀委員の彼らの素を私は知らなかった。

 それにもかかわらず、私も彼らも、気が付けば一緒にいて。


「結局ゴミ拾いをしたり見回りをしたり。根っから風紀委員だと周りから言われたわ」

「覚えてるよ。……元から面識があった僕達の間柄はともかく、君と僕達はまだ出会ったばかりだった。それでも、なぜだか皆が君の周りに集まった。君は、不思議な魅力に溢れている人だから。皆、放って置けないんだろうね」

「え……」


 何の前触れもなくリベリオ殿下の口から紡がれる言葉は、初耳であり驚くべきもので。私が息を呑んでいる間にも、続きは澱みなく紡がれていく。


「風紀委員は立候補制。あまりの辛さに当時の第二学年は既に全員辞めてしまっていたから、風紀委員は第三学年の二名と新しく入った僕達五名の合わせて七名。それでもあまりの仕事量の多さと地味な仕事に、僕達は後悔さえ覚えて辞めたいと思っていた。だけど、辞めなかった。それはなぜだと思う?」

「……分からない」

「君がいたからだよ、ロザリア」

「!」


 驚く私に、リベリオ殿下は私から目を逸らすことなく言葉を続ける。


「風紀委員会で唯一の女子生徒だった君が、弱音一つ吐かず真面目に仕事をしていた。僕達はそんな君を見て、彼女が頑張っているなら頑張らなければと思った。……正直に言えば、意地のようなものだったのかもしれない」

「意地……?」

「そう。ちっぽけなものだけどね。だから、前風紀委員長が名指しで次の委員長は君だと指名した時は、誰もが納得したし適任だと思ったよ。君以上に風紀委員長に相応しい人はいないと思っていたから」

「……それは、買い被りすぎだし大袈裟よ。私はそんな立派な人間ではないわ」

「大袈裟でも何でもなく、君は立派な人間だよ」


 きっぱりと言い切るリベリオ殿下の言葉に目を瞠る。


(なぜ……)


「どうして、急にそんなことを? 何か変なものでも食べた?」

「! ……だから、どうして君はいつもそういうことを」

「だって、今までそんなこと、言われたことがなかったから……」


 視線を落とした私に、リベリオ殿下が小さく笑う。


「な、なぜ笑うの?」

「いや。……君でも、そんな顔をするんだと思って」


(そ、そんな顔!?)


 どんな顔をしているのだろう、と片手で頬を抑えていると。

 不意にドクンと、心臓が嫌な音を立てる。


(……えっ?)


 自身の身体を襲う、強烈な違和感。


「……ロザリア?」


 私の隣を飛んでいるリベリオ殿下が私の異変に気付いたのか名前を呼ぶけれど、その声が遠のき、代わりに、脳に直接語りかけてくるように別の声が届く。



 ――ようやく見つけた。もう逃さない……



(……何、この声)


 地を這うような声音。全く身に覚えのないはずなのに、なぜだか聞いたことがある。そんな不気味な声と言葉に、ゾクリと背筋が凍る。

 箒を持つ手がガタガタと震え、みるみるうちに身体から血の気が引いていき……。


「ッ、ロザリア!!」


 覚醒したのは、リベリオ殿下が大声で私の名を呼んでから。

 焦ったように、こちらに手を伸ばす彼の姿が次第に遠ざかっていくのを見て初めて、今自分の手に箒がなく、あてがなくなった自身の身体が真っ逆さまに落ちていっているのだと自覚する。


(あ……)


 空を飛ぶには、箒がなくてはならず、今手元にない。

 となると、風魔法を使って少しでも地面に叩きつけられる衝撃を緩和しなければ、と頭の片隅ではわかっているけれど、先ほどの声が思い出されてしまい、上手く魔法が扱えなくて……。


(もう、駄目)


 ギュッと目を閉じたけれど、訪れたのは、強い衝撃ではなく柔らかく包み込むような温もりで……。


「大丈夫!?」


 その声にハッと目を開ければ、そこには、見たことがないほど必死な形相をした、リベリオ殿下の姿があった。

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