プロローグ
新作連載開始いたします!
楽しんでお読みいただけたら嬉しいです。
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―――
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「ッ、嘘……」
ロザリアの腕の中でぐったりしているのは、ロザリアの婚約者であるリベリオだった。
(どうして……?)
「私が、殺したの?」
ロザリアがそう呟いた刹那、ブワリと黒い魔法の光が……、暗闇よりも黒い魔法の光が彼女の身体から溢れ出る。
ロザリア、と何度も彼女の名を呼ぶ複数の声の内のひとつも、彼女の耳には届かない。
「どうして、こんなことに……」
悪いことをした覚えはない。なのに、なぜ私ばかりがこんな目に、と嘆く彼女が導き出した結論は。
「……私が皆を、不幸にする」
もう、どうだって良いと、自暴自棄になった彼女は、呪詛のように冷たく低い声音で口にした。
「こんな世界、滅びてしまえ」
―――BAD END―――
「…………」
最悪の目覚め。身体が重く、非現実的な悪夢を見るということは、風邪でも引いてしまったのだろうか。
(……大事をとって休もうかしら)
でも、そうはいかない。
私には、やるべきことが沢山ある。
自分を奮い立たせ、まずは目覚ましにと一番に顔を洗う。
洗いながら思い起こされるのは、夢の中の光景。
(私、あの光景をどこかで……。そもそも、“BAD END”って?)
いくら考えても思い当たる節はない。
それに、私が婚約者である“彼”を殺すなんてありえない。
「……縁起でもないわ」
早く忘れなければ、とタオルで顔を拭うついでに上から頬を叩いた。
春の日差しが柔らかく降り注ぐ教室の中。
座席に着きこちらに目を向ける面々を見回し、言葉を発した。
「全員集まったので、これから風紀委員会を始めます」
「待ってください」
言葉を発した私に、挙手をしてそれを制したのは、リベリオ・ベルテ第一王子殿下……、私の婚約者であるその人だった。
「何か?」
私の問いかけに、リベリオ殿下はブロンドの髪を揺らし、翠色の瞳を真っ直ぐと私に向けて言葉を発した。
「まだ一名来ておりません」
「……来ていない?」
首を傾げた私に、殿下は翠色の瞳を僅かに見開き口にした。
「ご存知ではありませんでしたか? 本日より、新入生である一人が新しく加わることになったと」
「新入生?」
問い返したその時。
「遅くなってしまい申し訳ございません!!」
「!」
断りもなく扉を勢いよく開け放って駆け込んできたその声と姿に、頭がズキリと痛む。
(私、このスチルを知っている……)
……ん? スチルとは何? いえ、それよりも、彼女の名前は。
「……エレナ・ガレッティ……。そして、私は、ロザリア・ガレッティ……」
「ロザリア?」
俯いた視界が回る。世界が反転して見えた刹那、映り込んだ面々を見て私は確信する。
(あぁ、やっと思い出した。ここは、前世プレイした乙女ゲームの世界……)
驚いたような彼ら……、ヒロインと攻略対象者達の聞き覚えのありすぎるボイスを最後に、私の脳内はキャパオーバーを迎え、一旦暗転した。
『運命を握る少女』
それは、前世プレイしていた魔法学園ものの乙女ゲームのタイトルだ。
その名の通り、プレイヤーであるヒロインが攻略対象者4名とそれぞれのルートで恋愛をし、選択肢から決まる好感度によって、ハッピーエンド、ビターエンド、バッドエンドに進む仕様となっている。
前世の私は20代のOLだったのだけれど、ある日会社の後輩から布教だと言って渡されたのがこのゲーム。
前世の人生において、最初で最後の乙女ゲームとしてプレイしたものだから、間違いようがない。
そして、何よりの問題は。
「私が、ラスボスになる悪女、ロザリア・ガレッティに転生してしまうなんて……」
寮の自室の鏡に映り込んだ自分の姿を見て絶望する。
ロザリア・ガレッティ。
藍色の髪に金色の瞳を持つ、一見気が強そうな見た目をしたガレッティ公爵令嬢。その外見のせいなのか、彼女はヒロインの恋を盛り上げる悪女……、それも、ゲームの最終局面においてラスボスとなり、彼らに立ちはだかる正真正銘の悪役なのだ。
そして、それの何が問題かと言えば。
「……リベリオ殿下ルート以外のハッピーエンドでは、ロザリアだけでなく、ロザリアの攻撃を受けた仲間達を庇ってリベリオ殿下まで死んでしまうし、ビターエンドは私がそれぞれの攻略対象者を呪いながら死ぬし、バッドエンドはまるで共通ルートのように、リベリオ殿下を殺して世界を破滅させる……」
そう、バッドエンドこそあの悪夢と同じ……。
「って、こんなの問題大アリどころか詰んでるじゃない……!」
悪役令嬢である私の死が予定調和状態なのは仕方がない……いえ、ごめん被りたいけれど、もっと嫌なのは、前世の推しであり婚約者であるリベリオ殿下を殺すだなんて。
「いえ、たとえリベリオ殿下でなくても、人を殺めたり世界を破滅させたりするようなラスボスになんてなりたくないわ」
今の私にできること。それは。
「ラスボス化回避に努める。それか、もし最悪ラスボス化したとしても、被害を出さないようにしなければ……」
そう思った私は、お医者様から過労という診断を受けた絶対安静期間の一週間、部屋で一人設定を思い出しながら対策を練り続けることになった。




