第三十話 うち、長く経っていいから進んできた
颯斗さんが、じっとにゃーたんを見ている。
そして慣れた手つきで撫で始めた。
「にゃーたんさんって。こうやって寝るんだな。」
「え?皆の前では寝ないんですか?」
「真面目な猫だからかな。特に夜に行動しているから。」
「そーなんだ。」
「……それくらいの関係なんだ。今の私達は。」
みんなのワイワイを眺めて颯斗さんは片手に持っていたビールを飲んで言った。
「こんな風に部屋を取って、話をしたり、鍋を囲んだり。酒を飲んだり。
そんな事、考えてたことがなかったというか。なんとなく皆がそういった仲じゃない。
そうみんなどこかで思ってたのか、なんとなく距離があって。話す程度の存在。
今日の朝までずっとそうだったんだ。本当に。」
「うち、にはそうには見えないです。」
「だろうな。でも、やってくれたよ。アンタは。」
「いやあ、ダメダメでした。今は反省してるっす。」
「まあ、正攻法ではないがな。ティアラさんはさ、今まで私達同士、話していた通り、誰も欠員を出さないためにある意味団結していたかも知れないが、別れを恐れて、仲を深めていないのがほとんどだった。高橋とキヨばあ、あそこは例外だな。
そーやって守ってきて、新人も何人も遠ざけてきたのにな。
入ってきたな、アンタはさ。土足でズカズカと。」
お酒も入って颯斗さんが柔らかい表情な気がする。というかめっちゃ本音で話してくれるタイプなのかも。
最初とイメージと違いすぎる。
「罪深いな、アンタ。」
「それいい意味すか?」
「わからない。けど、今のこの光景は。なんだか、天国にいるって思い出した。そんな仲間たちだ。」
「天国ですよ、ここは。」
「わからないのかよ。全く。そうだよ。そうなのに、自分たちで苦しい環境を作っていたなって言いたいわけだよ!」
「ああ!」
颯斗さんは本当はこんな優しくて、話しやすい人だったんだな。
まあ棘があるだけで間違ったことはずっと言ってきていなかった。
周りのことをずっとずっと、考えてきていたんだな。
「颯斗さんって、優しいですよね。」
「なっ!!!恥ずかしい事をいうな!バカ!」
「最初も止めれたし、なんか不器用なだけで。」
「あのなーーー!!!!」
「あーーーーー新人が颯斗さんにやだやだやだあーーーー!」
高橋さんが思いっきり颯斗さんにダイブして、抱きついた!
どずんと音を立てて二人が倒れ込んだ。
おいおいおいおい!まじでラブコメでしか見たこと無いぞ、こんなの!!!
「ええええええ、大丈夫っすか!?」
「いってええ!何すんだ高橋!」
「あーにゃーたんまで!もう!新人、マジ許さん。」
「おい、どけよ高橋!」
「は・や・と☆」
あまりのキャラ変。(多分みんな知らなかった。)
皆が唖然とする。
「高橋……?お前どうした?悪酔いか?」
「ぶーーーー!違いまーす。ほら!いちごって呼んでください。」
「あぁ?」
「じゃなきゃあ、のきませーん☆」
「キ、キヨばあああ!こいつをなんとかしてくれーーーー!」
「あらあら。いちごちゃん、のいてあげなきゃ。重いじゃない。」
「ふにゃあ、なんの騒ぎにゃ…… って、ええええええええええええええええええええ!」
にゃーたんはあまりに驚いて飛び跳ねた!すげえ脚力!!!久々に見たな!
「いいいいいいいいいちご!落ち着くにゃ。」
あまりの出来事にゃーたんが二足歩行になって引き剥がそうとしている!!!
天国ぱねええ!
高橋さんは勿論びくともせず、えへへへへと言っている。
「こりゃあ困ったわねえ。」
「にゃーたんもあたしのものなんだからあーみーんなあたしの!新人のじゃないわよー!」
「いやあ。うちもそうは思ってないので。」
「えへへへ。じゃあ新人ちゃんもあたしのね。」
「あははは…… あの、颯斗さん可哀想なんでのいてあげたほうが。」
「えーなんでえ?」
「こいつ酔うとこうなるタイプか…… 改めてめんどくせーー。」
「ひどおい!はやとぉ。」
「やめろおおおおおおおお」
賑やかな部屋。みんな、信頼しあって確かに繋がってたからこうなってるとうちは思う。
だって、今こんなにみんな笑ったり泣いたり感情が溢れて、人間って感じ。
最初の社交辞令なんかじゃない。
本音で、さらけ出している。そう思うから。
結果…… オーライかな?
「なんか上手くいったとかおもってんじゃねーだろなああああああ?」
「ひいい!鞠男さん。」
めちゃくちゃ酔っててお酒の匂いが全身からしてるみたいだ。
初めての感覚でうげえとなっちゃうけど、言えないよな。
「ほんと、お前やるじゃねーかよ!感動した!感動した!」
「いや、」
「お前の勇気ある行動に久しぶりに、ここが動いたぜ!」
そう言って胸を思いっきり叩いて思いっきりむせていた。
この人もなんか……
「全部!お前のおかげだな!」
「そんな、違います。たまたま。……」
いや、違うな。
「皆さんの絆が、今の時間に繋がっただけで。うちの力じゃありません。
だから、うちやっぱ。ここに入れて良かった。」
気づいたらみんながこっちを見て笑っていた。
(高橋さんなんかピースしてる、颯斗さんに馬乗りになったまま。)
「まだ仕事もしてないのに、こんなになるなんてな。」
「そうにゃ、もう30話も使ってまだ仕事してないにゃ。」
「メタい発言しません。」
うちは少し語りたい気持ちになったので、ちょっと話してみた。
「というか、天国に来てから人とちゃんと関わるようになったからというか。なんていうか。これがリアルだったのかもって思った。
うちJKだったんすけど、起きて、身だしなみ整えて、制服に着替えて、最後に今日のリップ決めちゃって。家族とご飯を食べて、登校する。
友だちにあって、何気ない日々を送りながら、時々イベントがあったりして。
これが小説やアニメだったらさ、多分なっげえよって思われるよねーって。
でも、みんな人間感情があって、ぶつかったり、手続き一つ長引いたり。当たり前の事しかしてないんです。
展開が遅くてもいい。間違えても、自分でちゃんと考えたなら。それが答えなんだって。今日思う事が出来ました。
初日からそんな風に思わせていただき、ありがとうです。」
「これからの仕事も引き続き、そうやってくれ。」
「いちごは、ティアラ好きになれたよ!」
「ほんと、いい奴がはいってきたなあ。」
「うんうん、じゃけえきっとこれから楽しくなるけん。」
「そうにゃ!きっときっと、明日もきっと大丈夫にゃ!」
酒が入ってるからの言葉かもしれない。
でもこの言葉は真に受けるかんね。
「ティアラさん、貴方はここに合いましたね。良かったです。」
「少し、怒ってますから。」
「このお詫びはまた。ほら皆さん、締めの蟹雑炊が出来ましたよーー。」
初めての飲み会。
絶対、忘れない。




