第二十七話 うち、正しさを知らなかった
「ティアラさん。貴方、何がしたいんだ。」
少し低い声で颯斗がうちを睨みながら威嚇するように言った。
ああ、やっぱり怒ってる。こえー。
「連帯責任、と言ったな。こうやって一人ひとりの揚げ足をとっていくつもりか?」
「揚げ足?そういった意味じゃないです。違うことを違うって思ってると伝えるだけっす。」
「私達は!何年もこの形でやってきた!!!!やっと10年、誰も失わない形にしてきたんだ。なのに!お前はそこにちゃちゃいれやがって!
余計な話をするな!不要に人を責め立てるんじゃない!」
「颯斗、ティアラの話を聞くにゃ。」
「にゃーたんさん、元飼い主だから感情移入してるのかわからないが、全体の輪を乱すのは私は許せないんだ!」
「輪だったんですか?ここって。」
颯斗さんの顔が一気に曇る。
入ったばかりのうちにわかった。
うちを拒否する気持ちが一緒だっただけで、一致団結してるわけじゃない。
仲が良いわけじゃない。連携がとれているわけじゃない。
だから、こうなった。
バカだけどわかる。
「みんながみんな周りを信じていないし、関心もあまりないじゃん。
あったらこんな空気じゃなくね?キヨばあの事だって注意出来たしね多分。
なんとなく関わって、でも深く関わらない。
でも誰かが消えてしまうのは嫌だから、そのためな一つになることが出来る。
うちからみたらここはそんなチームっす。違いますか?」
「なんだと……」
「チームなんでしょ?輪っていうならなんで助けてあげないんすか?」
「私とキヨばあは行っただろ!」
「鞠男さんは何してたんですか?」
「はあ?」
いきなり名指しされて目をまんまるにしてる鞠男さんはうちを次の瞬間睨みつける。
「俺がいなくてもなんとかなる。いつもそうだから別に。」
「ほら、輪だったらかけつけるっしょ。どーなんすか颯斗さん。」
「それは…… いや、」
「鞠男さんが輪に入ってるなら、現場にいるはずです。何をしていたんですか?」
「新人!お前それ以上言うなら俺等だって黙ってねーぞ!」
鞠男さんが立ち上がって声を荒げた。
ご丁寧に机をたたきながらで威嚇も見せた。
うちは、こういうやつが、正直好きではない。
「鞠男さん、落ち着きんしゃい。」
「こんな不愉快なのは久しぶりだ!新人!お前はたった数時間で俺等のなにがわかる!
俺等の努力をなにわかった顔して話してんだよ!いい加減にしやがれ!
颯斗だって、みんなここまでどんだけ苦労したか!!!」
「わかんないっすよ!そんなの。」
「「「「はあ!?」」」」
みんながうちを頭おかしいんじゃね?みたいな顔で見てる。
え?そんなムズい話ししてるのかなー?
とにかく、うちの話がいまいち伝わってない気がするっていうか、うちもごちゃごちゃしているかもしれない。
うちなりに、ゆっくり話してみよう。
「今話しているのは、うちが数時間で感じたことっす。
でも誰もなんていうか、うーん。もう!ムズい話しが嫌いなんすよ!うち!」
「なんで急に馬鹿になんだよ!」
「だーかーらー!みんなの話!皆のこともっと知りたいって言いたかったの!!!!!」
「「「「はあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」」」
「その為に今の…… 時間が?」
「はい。思った事言っただけですけど。少し皆さんの事がわかりました。」
「な、なんなのこの子!!!!」
すると北杜さんが急にケタケタケタと笑った。
唖然とする部屋の中、そんな笑い方する人いるんだとか思いながらみんな固まってる。
「うわあ、ティアラさん。本当に貴方は面白い。
こんなごちゃまぜな空気にしておいて、今!そんな事いいます?」
「だって!」
「皆さん、新人さんもいらっしゃることですし、
まあ、今回は初回だから、優しく、言いますね。」
瞬間、部屋の空気がぐわっと寒くなった。
この大きな感情に一気に飲み込まれる。そう、北杜さんの。
目がカッと大きく開き、うち、いやうちらを見ている。
これがあの優しい北杜さん……?
まるで人から、中身から変わったようでめっちゃ怖い。
「正しい事を言うことだけが正義じゃないし、正解じゃない。
ティアラさんにとって、貴方たちにとっての正しさでここにいらっしゃると思い尊重しています。
先程ティアラさんにはお伝えしましたが、優しさには種類があります。
そこを把握しないまま押し付け合ったり、勝手に決めつけたり、見て見ぬふりをしたり、感受を伝えなかったり。そうやって勝手なことばかりしているからこうなるんですよ?
新人に何言わせてるんですか?
新人に何させてるんですか?
これはあなた達が日頃から何もしなかった、結果がこれだ。反省しろ。」
全員が体ごとこわばっているのがわかる。
ピリピリした空気。北杜さんがここの偉い人ってのがようやくわからされた瞬間だった。
だって北杜さんが今この空間を動かしていて、誰も反論も動いたりも出来ないんだから。
うちにふと目を向けられた瞬間、ビクッと体が跳ねる。
「ティアラさん。勢いは良しです。素晴らしい。貴方は思っているほど馬鹿ではな合いと思います。むしろ頭の回転は早い。そこは評価していたとおりだ。これからもこのチームにその力を貸してほしいと思います。」
「え、あ、はい。」
「ではひとつ質問です。
いまこのメンバー、空気で食べる蟹鍋は美味しいでしょうか?」
「え……」
冷静に周りをみた、皆、気まずそうだったり、泣いていたり、下を向いている。
あ…… うち、間違えた。
「正しい言葉は誰かにとっての不正解でもあります。
今貴方が知った気になった事も、その方のあくまでひとかけら。
全てをわかったつもりで話していないと今仰った。しかし、あの伝え方では喧嘩打っているのと全く変わりません。」
「ででも、北杜さんは続けてって……」
「気づいてほしかったからですよ。」
「え」
北杜さんがゆっくりうちの方にやってきた。
優しい空気と怒りの空気が入り混じった気持ちがぐちゃぐちゃになりそう。
「先程、貴方はまるで主人公になったように話していました。もちろん得られた情報や、思い直しも各々あったかもしれませんね。そこは感謝します。
みなさんに喝をいれていただき、空気を変えてくださった。それは計算内です。
しかし。やり方、タイミングはどうでしょう?貴方は歓迎会にしたいと言った。
その場でこんなみんなが声を荒げ、喧嘩になって。今、こんな空気になった。そんな方の歓迎会?みなさんはどう思うでしょうね。」
うちはなんにも言えなかった。
北杜さんの言う事は全て、正しかった。
うちが言った歓迎会。台無しにしたのはうちだ。
理由がどうであれ、事実。
「歓迎会は改めますか?皆さんに任せますよ?」




