第99話 オオカミの空
同じころ。
トメの身体がピクリと動いた。
全身に貼り付けられていたお札も揺れる。
零那は真言を唱えるのをやめ、トメに呼びかける。
「トメさん! トメさん!? 大丈夫!?」
トメはゆっくりと半身を起こす。
その顔にもお札が何枚も貼られている。
「うわー……キョンシースペシャルだ……」
ヤミが能天気に言う。
そのトメに、つららがかけよってきた。
「お姉さん!」
「はいスト―――ップッ! そのお札、強力なのよ、触るとあんた一瞬で消滅するよ」
ビクッとして足を止めるつらら。
トメはまだ状況が分かっていないようで、
「山伏……幽霊……つらら……」
そして自分の腕や身体を見る。
「これは……意識がある……。私は、幽霊になれたのか……?」
「違います。トメさん、生きてるんですよ!」
羽衣がほっとした表情で言った。
トメはお札の中から覗く目を見開き、
「マジか……」
と呟いた。
ニンジャ装束は焼けてしまっていて、ほとんど裸だ。
とは言っても体中に軟膏が塗りたくられ、その上からお札が何十枚と貼られている。
トメはゆっくりと立ち上がると、お札の一枚をはがして自分の肌を見る。
「ほとんど治ってる……」
「そのお札、ヒーバーの特別製で強力だから! よかったー、あんまりひどいやけどだったから、治癒法術がうまくいかなかったらどうしようかと思ったわよ」
そして、トメの背中に持ってきていたバスタオルを優しくかける。
零那はその上からトメに抱き着いた。
「ごめんなさい! 私、油断してたわ。まさか、トメさんと虹子さんを狙うなんて……! ほんとにごめんなさい!」
「なにを言っている。私も虹子も探索者だ。自分の命は自分の責任だ。……いやむしろ、私はお前に礼を言う立場だ。言いたい。ありがとう。ありがとう、零那、羽衣。それに……つららもだ。ありがとう」
ヤミが自分を指さしているのを無視してトメは続ける。
「で、虹子はどうしてる……?」
「そ、そうだ、虹子さんのことも助けなきゃ! 羽衣、配信どうなってる!?」
羽衣がタブレットを取り出す。
そこに映っているのは、虹子がキブングと闘っている姿……ではなかった。
見知らぬ中年の男と、後ろ手に縛られている虹子の姿だった。
中年の顔はトカゲに似た顔立ちをしていて、下品な笑みを浮かべている。
どうやら日本人のようだった。
髪が薄く、バーコードのように少ない髪を無理やり頭部に撫でつけている。
カメラの側にあるのだろうライトの光で頭がキラキラ光っていた。
「ふふふ、見えているか? 俺はモンスター保護団体、オオカミの空の軍事を担当している、西村という者だ」
「は?」
いきなりの展開に、零那たちは混乱する。
「俺たちはモンスター保護のために全世界から寄付を募り活動している。お前ら探索者、特にS級以上の探索者はモンスターと地球に害をなすゴミどもだ。だから俺がこいつやそこにいるだろうニンジャに呪いの刻印を彫り、お前らをここに呼び寄せたのだ。今俺は地下20階にいる。こいつを助けたくば、まっすぐここへ来い」
え、なにこいつ?
オオカミの空?
聞いたことない団体だけど、え、なに、モンスター保護団体? え? どういうこと? え?
零那の頭の中はパニック状態だ。
羽衣やトメも同じようで、眉間にしわをよせてその画面を見ている。
「ほえ~~~」
ヤミだけはのんびりした様子でその配信を見ていた。
西村はドスの聞いた声で言った。
「いいか? あと24時間でここに来なければ、こいつを……殺す! 早く来るんだな!」
西村の隣に立たされている虹子も叫ぶ。
「お姉さまぁ! 助けて! 助けて! ひ、ひどいことされる……。たすけてぇぇぇぇっっっ!!!!」
零那はギリッと奥歯をかみしめると、
「みんな、トレーラーに乗って! 全速力で行くわよ!」
★
まったく同じころ。
虹子は落とし穴の中でキブングに向けて引き金を引いた。
三点バーストのタタタン! という乾いた音が響く。
虹色の軌跡を描いて弾丸が発射され、しかしキブングは背中から大きくのびた舌でそれらをいとも簡単にはじき返した。
「お姉さま……お願い……早く来て……!」




