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パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件  作者: 羽黒楓


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第9話 夢だったらいいのに

「わわわ、大変!」


 お客が目の前で突然倒れたので、零那(れいな)はびっくりして駆け寄った。


「大丈夫ですか!」


 お客は二十歳くらいの女性だった。

 防刃チョッキを着ていて、足元もブーツで固めてある。

 探索者らしい格好だ。

 明るい髪色のショートボブ、すっきりした目鼻立ち、すごい美人さんだ、と思った。

 でも、顔色は青白くて、唇もかさかさ。


「あのー、お客さん!」


 声をかけると、その女性はうっすらと目を開けて、つぶやいた。


「喉……喉が渇いた……。コーラ……コーラが飲みたい……」

「コーラ? コーラならありますよ! まだ冷たいです!」


 零那(れいな)は袋からコーラを取り出す。

 まだ氷は溶け切っていないみたいだった。

 女性はコーラに手を伸ばそうとはするが、力が入らないみたいでうまくカップを握れない。


「あの、私、手伝います」


 零那(れいな)は女性を抱え起こす。

 すごく軽かった。

 左手で女性を支えながら、右手でストローをさしたカップを女性の口に近づける。

 女性は薄い色の唇でストローを咥えると、ゴクッゴクッとおいしそうに飲み込んだ。

 Lサイズのコーラを一気に半分ほど飲むと、女性は、


「冷たくて脳がバグるくらいおいしい……」


 と言ってからポーっとした表情で零那(れいな)を見つめ、


「……ママ?」


 と呟いた。


「ママじゃないです。ウービーイーツです」

「ママじゃないの……? じゃあ、お姉さま?」


 言われて、零那(れいな)羽衣(うい)の顔を思い浮かべた。


「お姉ちゃんではありますけど……」

「お姉さま……もっと、もっとコーラが飲みたい……」


 ストローを彼女の口に近づけると、パクリと咥えてさらにゴクゴクと飲む。


「……ハンバーガーもありますけど、食べます?」

「食べる……食べさせて……」

「えーー。……甘えん坊なお客さんだなあ」


 でも、チップ十万円のことを思い出して、零那(れいな)は片手でハンバーガーの包みを開くと、女性の口元に持っていく。

 女性はハンバーガーにハグッと食いつくと、もしゃもしゃとおいしそうに食べ始めた。

 真っ青だった女性の顔に血色が戻ってくるのがわかった。

 正座している零那(れいな)の膝の上に自分のお尻を乗せて、パクパクとハンバーガーを食べさせてもらう女性。

 もはや、零那(れいな)に抱き起こされている、というよりも、抱き着いている、と言った方が近い。

 そしてハンバーガーを食べつくすと、


「ポテトも……」

「あの……そろそろ、自分で食べられるのでは……?」

「ポテトも!」

「は、はい」


 チップ十万円には逆らえない。

 ポテトを数本とって口元にもっていくとパクパクと食いつく女性。

 あっという間にほとんど平らげてしまった。


「もうないの、お姉さま?」

「えーとこれが最後の一本……」


 それにも食いつくと、すぐに食べ終わり、


「塩……塩気がもっとほしい……」

 

 などと供述しつつ、女性はなんと零那(れいな)の指に吸い付いてきた。


「え、ちょ、まって、それは……うひぃっ!」


 背筋が震えた。

 なにこの人、怖い。


「うーん、おいしい! 満足! 死ぬ前にきれいなお姉さまに甘えられる夢を見られてよかった……神様、ありがとう!」

「神様もいいですけど、できればお礼は仏母大孔雀明王ぶつもだいくじゃくみょうおう様にお願いします」

「ぶつも……? だいくじゃくみょーおー……? なにそれ」

「山伏が信仰する仏様です」

「ふーん? ……で、私、いつ死ぬんだろう?」

「死ぬんですか?」

「死なないの?」

「死なないと思いますけど……。顔色も良くなってきましたし、これだけ食欲があれば死なないんじゃないでしょうか」


 ラッキーセットについてきていたナプキンで手を拭いながら零那(れいな)はそう言う。


「え、あれ!? これ、死ぬ前の夢じゃないの!?」

「夢じゃないと思います。夢だったらいいのに……。今日、二時間で二万円負けちゃったのよね……夢だったら……いいのに……」


 がっくりとうなだれる零那(れいな)

 どうやら本当に夢じゃないことを理解したようで、虹子は手を口にあて、目を見開いて言った。


「嘘……。ダンジョンの地下六階だよここ……。まさかウービーイーツの人がほんとに来てくれるなんて……」

「入り口で止められかけて危なかったですよ。アカウントバンの危機でした。受注しといて届けないのは重罪ですから。ところで、ずっと気になってたんですが、あれ、なんです? 放っといていいやつですか?」


 零那(れいな)が指さす先には、トンボほどの大きさのドローンが飛んでいた。


「あー、あれはカメラ。放っといていいやつだよ」


 そう、この様子は全世界配信されているのだ。

 零那(れいな)には分からないが、コメント欄はとんでもなく賑わっていた。


〈待て待て待て、これ、本物の人間!?〉

〈ウービーイーツがダンジョンに来た!? そんなことある!?〉

〈なんでこんな格好してるの、この人〉

〈山伏? 山伏なの、この女?〉

〈注文してから一時間もしないうちに来たぞ〉

〈嘘だろ、ここダンジョンの地下六階だぞ〉

〈ありえない〉

〈アルマードベアはどこ行った?〉 

〈頭が混乱してくる〉

〈よく見たらこの山伏、すげえ美人だな〉

〈とにかくニジーが助かって良かった〉

〈いや待って、助かった、のかこれ?〉

〈地下六階にはアルマードベア以上のモンスターがうじゃうじゃしているぞ。大丈夫か?〉


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