第75話 思いを馳せる
零那が取り出したペンダントは、3センチほどの大きさで、真鍮の土台に透明なクリスタルが埋め込まれており、そのクリスタルの中には白い石のようなものが入っている。
それを見てトメが言った。
「かっこいい……。なんか中二病っぽくてゴスに似合いそうだな。あいつ、趣味いいじゃないか」
零那はペンダントを手の平に乗せて、皆に見せる。
「ふふふ。ヤッちゃんのお母さん、すごいものを持っていたよ。これはかなりの念が込められている。とても高校生の持ち物とは思えないわ」
「そうなのか?」
「うん、ヤッちゃんが中学生のころ、お年玉で買ったんだって。でも、趣味で買ったおもちゃ、なんてもんじゃないわよこれ。今の状況からするとベストの法具とさえ言えるわ」
羽衣も零那の手の平を覗いてきて、
「あ! これ……!」
と絶句した。
「さすが羽衣ね、気づいたでしょ?」
「うん、すごい……これって、もしかしたら……ワンチャン……」
「それはまだわからないわ。まだ言わないで」
虹子が零那と羽衣の顔を交互に見る。
「えー、なにこれ、お姉さま、羽衣ちゃん、これいったいなんなのか説明してよ」
零那はもったいぶって「ふふん」と笑うと、ペンダントの秘密を皆に話し始めた。
それを聞いて、虹子は目を見開き、ペンダントを凝視した。
「これ……そういうものなの……?」
トメは眉を寄せ、ため息をつく。
「こんなものがあるとなると……。気分的に除霊はしづらくなるな……」
四人が零那の手の平の上のペンダントを見つめる。
それぞれが、まだ高校一年生だったヤミ――大平深夜の人生に思いを馳せた。
★
零那は自転車トレーラーの中からドローンを取り出した。
「まず、ドローンを飛ばすわよ。持ってきたから虹子さん、セッティングお願い」
「あ、うん」
虹子が零那からドローンを受け取り、スイッチを入れてから床に置く。
そしてyphoneを操作すると、ドローンはプロペラを回し始め、シュイーンというかすかな音とともに宙に浮いた。
トンボほどの大きさのドローンは零那たち全体を撮影できる場所に移動していく。
「ヤッちゃんのお母さんにも見えるようにしないとね」
「でも、それならお母さんだけが見えるようにしたらいいんじゃない?」
虹子の言葉に零那はちょっと言葉につまってから、小さな声で言った。
「……だって、配信するとお金がもらえるのよね……?」
「うん、まあ」
「どのくらい稼げる?」
「わかんないけど、人類が未到達の階層を目指すわけだから……。うまくいけば何百万円とか入るかも」
「私、羽衣を大学に進学させること、まだ諦めてないから!」
それを聞いてトメが口角をかすかにあげた。
「いいな、そういうの。私もお兄ちゃんに学費を出してもらったんだ。そういうことなら協力するぞ」
撮影を始めると聞いて、あわてて鏡を見始めた羽衣が、ふわふわの髪の毛をいじりながら言った。
「まーたお姉ちゃんそういうこと言う……。お姉ちゃん、パチンコやるお金が欲しいだけなんじゃないの? それに、私は受験よりお姉ちゃんとダンジョン探索者やりたいんだってば!」
「でも羽衣は勉強は嫌いじゃないじゃない」
「まあそうだけど。新しい知識が身につくのは楽しいし」
「だったら! 羽衣はちゃんと大学に行って勉強して陽キャのグループに入ってバーベキューでウェーイって言ってほしい!」
虹子も鏡を取り出して化粧を直し始めている。
「そんなん、これが終わったらこの四人でバーベキューやろうよ! きっと楽しいよ! 阿賀野川の河川敷でいいとこあるんだよ!」
トメも長いツインテールにブラシを入れ始めている。
「それ、私も入っているのか……?」
「トメさん、バーベキュー、嫌なの?」
「…………まあどうしても、というなら……。家族でやったことはあるが、友達とはやったことないからな」
「友達! 嬉しい、トメさん、私たちを友達だと思ってくれてるんだね! 私もだよ!」
言われてトメは顔を少し染めて、
「ふん」
と言った。
そしてコンパクトを取り出して前髪をいじり始める。
結局みんな女の子なのだった。
カメラに映るとなると、見た目を気にせずにはいられないのだ。
ただ一人を除いては。
零那は身だしなみに興味がないらしく、スマホを取り出し、何かを見ている。
「お姉さまはいいよね、そのままで超美人だし……なに見てるの?」
「動画……。これ、来週行きつけの店に入るのよ……」
スマホからは、男のyootuberの、甲高い声が聞こえてきていた。
『日当真田の新台チャレンジ! 今日はeツーパンマンを最速初日で実戦していきたいと思います!』
トメがそれを聞きながらボソッと言った。
「パチンコか……私は競馬派だからな……。そっちのが面白いぞ」
羽衣の鋭い声が飛んだ。
「トメさん! お姉ちゃんに変なこと教えないでください! これ以上ギャンブルにはまったら困るんです!」




