第68話 ヤミバイト⑤
三分どころか、十分たっても彩華さんは戻ってこなかった。
私は通路の角に向かって声をかける。
「あのーー……彩華さん? あの、大丈夫ですか?」
だけど、返ってくるのは静寂だけだった。
人の気配がない。
もしかしたら……そこに彩華さんがいない……!?
ヒュッ、と私の喉が締まった気がした。
うまく呼吸できない。
そう、私は今、とんでもなく怖くなって、筋肉が硬直し、横隔膜まで麻痺しちゃったのか、息を吸うのも苦しくなってきた。
もし。
こんな地下四階で彩華さんとはぐれでもしたら……。
私は初心者のE級探索者。
モンスターと出会ったら、悲鳴を上げる間もなく、殺されちゃう。
「彩華さん? 彩華さん! 彩華さーーーーん!」
曲がり角の向こう側に大声で叫ぶが、返事はない。
私は後ろを振り返る。
なにかがいたような気がしたからだ。
でも、それは気のせいで、私の目に入るのは、ゴツゴツとした岩でできた、ダンジョンの壁や床、それに天井だけだった。
「彩華さん、失礼しますね!」
私はそう言って角の向こう側をひょいと覗いた。
誰もいなかった。
そこには誰もいなかったのだ。
彩華さんがいたという痕跡すらほとんどない。
いや、実はあった。
ダンジョンの床に、直径一メートルほどの水たまりができていた。
ここでおしっこしてる最中に、彩華さんに何かがおこったのかもしれない。
え?
ちょっと、待って。
彩華さんのことも心配だけど。
ここに彩華さんがいないってことはさ。
今一番危ないのって私じゃないの?
実戦経験のないE級探索者が、武器ももたずに地下四階にいる。
地下四階って、最低でもB級くらいないと探索できない。
いや、B級ですら、おそるおそるだと思う。
A級になって初めて地下四階から五階に向かう階段を発見できるくらいなのだ。
そんな場所を、E級のド初心者が一人で?
私の頬の筋肉が私の意志とはまったく関係なく、ピクピクピクッ! と痙攣した。
恐怖と緊張が筋肉に伝わって、勝手に痙攣を始めているのだ。
どうしようどうしようこれなにがおこったの彩華さん、なにかモンスターに襲われて連れ去られた? でもでも彩華さんはS級だし、きっと大丈夫、もし連れ去られたのだとしても、すぐにそいつをやっつけて、私のところへ戻ってきてくれる。
……本当にそうかな?
だって、何も言わずに姿を消すなんて、彩華さんもなにかトラブルにあったんだと思う。
だとしたら、ここでじっとしているのは、逆に危ないかもしれない。
じゃあ、戻る?
でも、一人でこの地下四階から地上へ戻るなんて……。
その間にもモンスターは襲ってくるよね?
そのとき、私は彩華さんの言葉を思い出した。
『もし探索中に私とはぐれたら、かならずそこを目指して私の助けを待つのよ』
そうだ、これだ!
こういう時のために彩華さんは私の地図アプリにセーフポイントの場所を登録しておいてくれたんだ!
私はYphoneを取り出し、地図アプリを表示する。
「一番近いセーフポイントは……こっちね」
地図アプリによれば、そこには地下五階への階段があって、そこを降りたすぐそばに、彩華さんが設置したセーフポイントがあるはずだった。
結界が張ってあって、絶対安全な場所だって言ってた。
さすが彩華さん、ちゃんといろいろ考えてるんだ!
私は地図アプリを見ながら、希望を持ってダンジョンの通路を進んでいく。
地図アプリの表示通り、そこには階段があった。
私はほっとしながら、その階段を一歩一歩降りて行った。
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