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パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件  作者: 羽黒楓


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第45話 私が壊れる

 どうしてこんなことに、と三日月零那(れいな)は思った。

 目の前の光景が信じられない。

 物事が壊れるなんて、一瞬だ。

 そんなことが起こるなんて。

 目の端がヒリヒリと痛い。

 涙が溢れてきているのだ。

 全身が熱い。

 汗が吹き出してくるのを感じていた。

 手が震える。

 心臓がバクバクと痛いほどに鼓動している。

 ああ、こんな。

 こんな壊れ方をするなんて。

 そして。

 零那(れいな)の目の前の。


 パチンコ台が大音響を出した。


『キュイーンターイム!』


 ギュルンギュルン。

 リールが回る。

 キーーーン!

 甲高い音が響く。

 両端に赤い7が止まる。

 ガギィン!

 真ん中に7が止まり、三つ並んだ。


『フィーバー!』


「へ……へへへへ……虹子さぁん」


 零那(れいな)は呆けた声で隣に座る虹子に話しかけた。


「これぇ……壊れちゃったぁ……」

「へ? 壊れたの、これ?」

「だってぇ……連チャンがぁ……とまらないのぉ……。永遠にラッシュなのぉ……」


 大当たりが終わる。

 台が叫ぶ。


『キュイーンターイム!』


 ギュルンギュルン!

 キーーン!

 ガギィン!


『フィーバー!!』


「ひひひふふふまた当たったぁ……永遠にラッシュから抜けないよぉ……これで42連チャン目……」


 涙が溢れて止まらない。

 ああ、こんなことがあっていいのだろうか。

 パチンコを打ち続けて、いつの日か、負けるのが当たり前だと思い込んでしまっていた。

 一生懸命ウービーで稼いだお金があっという間に吸い込まれていくのを、悲しく、恐ろしい気持ちで眺めていた。

 そしていつしか、負ける自分の脳がダメージを受けること自体に、快感を覚えるようになっていた。

 もはや、勝つ喜びではなく、負けて脳内にダメージを受け、感情を大きく揺さぶられることに依存していたのだ。


 しかし、今日は違う。


『キュイーンターイム!』


 ギュルンギュルン!

 キーーン!

 ガギィン!


『フィーバー!!』


「また……終わらない……終わらないよぉ……」


 全身が熱い。

 空調の効いたパチンコホールの中なのに、まるで炎天下の真夏、太陽の直射日光を浴びているようにも思えた。

 汗が吹き出す。

 額から大きな粒が流れ落ち、ポタッと落ちた。

 もう今は全身汗でびしょ濡れだ。


「あのぉ、お姉さま? 今日はあの幽霊の正体を探るための話し合いをするんじゃなかった……?」


『キュイーンターイム!』


 ギュルンギュルン!

 キーーン!

 ガギィン!


『フィーバー!!』


「ひひひひふふふふふふ……あつぅい……暑いよぉ……虹子さん……上着……上着脱がせてぇ……」


 虹子はハァ、とため息をついて零那(れいな)の身体からスポーツウェアを脱がせてやる。

 Tシャツ一枚になる零那(れいな)、汗でびっしょりになっていて、水色のブラが透けちゃっている。


「やっぱだめだめ」


 虹子はそう言ってスポーツウェアを零那(れいな)の肩にかける。


『キュイーンターイム!』


 ギュルンギュルン!

 キーーン!

 ガギィン!


『フィーバー!!』


「壊れてるぅ……この台、壊れてるよぉ……」

「で、どういう作戦で行こうか考えたんだけど。あの幽霊の子ってカメラに映らないじゃない? だから顔を配信で写して知っている人を探す作戦も使えないよね?」


『キュイーンターイム!』


 ギュルンギュルン!

 キーーン!

 ガギィン!


『フィーバー!!』


 喜び。

 歓喜。

 絶頂。

 ああ、私はいまこの世のすべてを手に入れたのだ、と零那(れいな)は思った。

 全身の神経が喜びの歌を歌っているような気持ちになった。

 毛穴という毛穴が開き、零那(れいな)の意識からは目の前の回るリール以外、なにもなくなっていた。


『キュイーンターイム!』


 ギュルンギュルン!

 キーーン!

 ガギィン!


『フィーバー!!』


「壊れるぅ……私が壊れる……壊れちゃうよぉ……」

「お姉さま、よだれよだれ」


 ハンカチで零那(れいな)の口を拭く虹子。


「で、いい作戦を思いついたんだけど! これ、絶対いけるからこれで行こう!」

「うんうんそれでいいわよ……ああ……も、もう……脳みそが……とろけて口から出そう……」

「これよだれじゃなくてお姉さまの脳みそだったりしないよね!? いやだからね、これからお姉さまの部屋に行ってさ」


 零那(れいな)は聞いていない。

 この台はフーバーキュイーンラッシュ。

 キュイーンタイムと呼ばれるラッシュ状態に入ると、当選確率1/6.9の状態が10回転プラス保留1回転分続く。

 継続率は約80%、零那(れいな)はそれに勝ち続けて今は50連チャン目に入っていた。


「ひひひひひひふふふふふ、神様仏様ありがとう……」

「いやあ……仏様はパチンコで勝たせるとかしないと思うなあ。これでお姉さま、またパチンコにハマるよね……。あ、悪い賭け事の神様とかの仕業はありえるかも」


 虹子は零那(れいな)の汗と涙とよだれをハンカチで拭きながらそう言った。


「ハンカチじゃ拭ききれないよ……バスタオル持ってくればよかった」


 そして。


 ついに、ラッシュタイムが終わりのときを告げる。

 

 特に派手な演出もなく、普通に7が外れてキュイーンタイムが終わった。


「お姉さま、残念だったね……。って、お姉さま!?」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 零那(れいな)は身体を椅子の背もたれに預けて、大きく息を弾ませている。

 たまにピクッピクッと身体が震えてる。


「……………………うーん………………。これ……お姉さまだから私はいいと思うけど、お姉さまじゃなかったらドン引きしてたよ……」


 かなり微妙そうな顔をしながら、虹子はそう言った。


「ねえ虹子さぁん、私、今、腕、ついてる? なんかしびれて感覚がないわ……」

「あんなに強くハンドル握ってるから……ほらぁ、ガチガチじゃない!」


 虹子が零那(れいな)の手を握ってモミモミする。


「ああー虹子さん、それ気持ちいー」

「我ながら私達、なにやってんだろうね」

「パチンコだよぉ」

「わかってるよ! もう、ほんとにしょうもない人だなぁ……でも美人だから全部許した」

「許された……神様仏様、私は極楽にいける……」

「いや、どうかなあ? 私は許すけど、仏様ってこんな山伏を許すかなあ?」


     ★


 零那(れいな)が落ち着きを取り戻すのにそれから十分はかかった。


「ふう。悪かったわね、虹子さん。もう大丈夫よ。でもすごい体験だった……こんなこと、あるのね……。じゃ、上皿分打ち終わったら交換して部屋に帰るわよ……。羽衣(うい)になにかおみやげ買っていかないと。ケーキがいいかな? あ、ケーキ食べながら虹子さんの作戦ってやつを聞くわよ」


 とか言っているうちに。

 

『リーーーーーチ!』


 トゥットゥク♪トゥットゥク♪トゥットゥク♪トゥットゥク♪

 トゥクトゥクトゥクトゥク……。

 トゥルルルルルルルルーーーン!

 バシッ!


『フィーバー!』


「もうええわ!」


 思わず叫んでしまう虹子だった。


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