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パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件  作者: 羽黒楓


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第4話 コーラが飲みたい

 24時間がたった。

 虹子は部屋の隅で小さくなって座り込んでいる。

 彼女はS級探索者だった。

 日本でも十指に入る実力者なのである。

 その彼女が、全く歯が立たないモンスター。

 そいつの気配はまだドアの向こう側に感じられる。


 国の救助隊は救助不可能と返答してきた。

 もともと、地下六階以降の探索は自己責任であり、国としても立ち入りの禁止を何度もアナウンスしていたところでこの遭難だった。

 国の救助隊と言ってもそもそもが地下五階までしか救助に行かない、と何度も周知していたのだから仕方がないことだった。


 仲間の高レベル探索者にも連絡をとってみたが、答えは全員が否、だった。

 これも仕方がない。

 虹子は日本トップクラスの探索者であり、その虹子が倒せないモンスターを倒せる探索者なんて少なくとも国内にはいなかった。

 頼みの綱のSS級探索者の知り合いもいたが、今はブラジルにいるらしい。

 

「食糧も尽きてきたな……」


 日帰りの予定だったので、このダンジョンに持ち込んだ食糧は、一日分しかなかった。

 残りはチョコバーがわずか一本。

 これであとどのくらいもつだろうか。

 そもそも、水筒が空だ。

 どうにかして水分補給をしなければ。

 部屋の中を見回してみる。

 このダンジョン、湧き水が豊富なのだが、この部屋に限って言えばどこにも水が見当たらなかった。


「どうしよう……」


〈あきらめるな〉

〈がんばれ、きっとなんとかなる〉

〈ちょっとニュースになってたけど、甲子園出場校の暴力事件で扱いが小さかったな〉


「ふふふ……。死ぬときはこんなもんか……。モンスターに食われて死ぬとか嫌だからね。できるだけこの部屋に籠城するよ」


 二十年間の人生が走馬灯のように頭を駆け巡る。

 いろんなことがあったなあ、と虹子は思う。

 ほとんどがいやな思い出だ。

 苦労に苦労を重ねた。

 やっとダンジョン配信者としての地位を確立できたと思ったら、これか。


「ねー、みんな、聞きたいんだけど。モクドナルドでさ、ラッキーセットってあるじゃん。あれ、今回のおまけはパケモンのグッズなんだよね。まだ買えるかなあ?」


〈ああ、前回数量足りなくて騒ぎになったから、今回はめちゃくちゃ数揃えたらしいよ〉

〈まだグッズはもらえる〉

〈テンバイヤー涙目らしい〉

〈でも、今日までだよ〉


「そっか。今日までか。あれ、欲しかったんだけどなー。ふふふ。小さいころずっとひとりぼっちでさ。ゲーム買うお金もないから、パケモン図鑑の中古本を買って何度も読み返したっけ。何度も何度も読み返したんだよね。だから、今回のパケモングッズは絶対欲しかったのに……こんなことになって……」


 虹子の目に、自然と涙があふれてきた。


「人生って、残酷だよね。せっかく成功の糸口が見えたって思ったら、こんなことになって死んじゃうんだもん……。ハンバーガー、食べながらさ。ポテトも食べながらさ。コーラ飲んでさ。パケモングッズ眺めてさ。そんなのが、私の小さな幸せだったのに……なんで、……ど、どうして、こ、こ、こんな……ううう……」


 言葉の最後の方は嗚咽にまみれてしまった。


 最後に……せめて……ラッキーセットを、食べたかったなあ。

 グッズ、欲しかったなあ。


 もう、私は死んでしまう。

 私という存在はこの世からなくなってしまう。

 二十年間の苦しい人生は全部無駄だったんだ……。


 ポロポロと涙がこぼれる。

 タブレットを抱き寄せる。

 電池は残り10%。

 あと数時間も持たないだろう。


 ああ、モクドナルドが食べたい。

 食べたいなあ。


 ウービーイーツのアプリをたちあげる。

 そして、店を選択。

 モクドナルド新潟万代店。

 ラッキーセットを選択。

 ドリンクはコーラ。Lサイズに変更。

 配達場所は……。

 現在位置を検索。

 もちろんダンジョンは登録されていなくて、緯度と経度と高度が表示された。

 配達を依頼する、のボタンを押そうとして――。

 せっかくだから、チップも設定しておこう。

 こんなダンジョンの下層階に来てくれるってんなら、いくらでも出すよ。

 ウービーイーツのアプリでは、配達員に渡せるチップ額に上限がある。

 その上限額である十万円に設定して、配達を依頼する、のボタンをタップ、そして確定。


「えへへ……私、なにやってんだろ……。こんなところに来てくれる人なんて、いるわけないのに……」

 

     ★



 パチンコに一日の売り上げすべて(二万円)を吸い取られた零那(れいな)は、店から出るとげっそりとした顔でスマホのアプリを立ち上げた。

 魚群を三回も引いたのにまさか一度も当たらないとは。

 希望を与えてどん底に落とすなんて……。

 なんてひどい。

 今日は負けた。

 でも、人生は続くのだ。

 明日という日は必ずやってくる。

 だから、明日こそ……勝てる気がする!

 前向きに(パチンコで)勝負し続けることを決心した、そのときだった。


 ピロリロリン。ピロリロリン。


 ウービーイーツのアプリから通知が届いた。

 配達依頼だった。


「チップ十万円!? 行くしかないじゃん!」



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