第31話 すべらない話
いつもの沼垂ダンジョン、地下四階。
零那と虹子、それに羽衣の三人は、配信しながら通路を進んでいた。
零那と羽衣は山伏姿。
そして、その零那の頭の上には光り輝く孔雀が乗っている。
虹子はというと、今日は背中に大きな銃を背負っていた。
そんな中、零那はしゃべり続けていた。
「それでね、羽衣が逮捕されたのよ! 住居不法侵入で! それでね、警察署に迎えに行ったら、羽衣が成長していて! すごかった! 胸の開いた服着ていて、谷間がすごいの! すごくない? だってほら見てよ、ほんとの羽衣なんてちびっこいし、胸なんか全然ないのに、その羽衣は私の三倍はある胸していてさー。太ももなんかもムッチムチで、でも中身は羽衣だから、『お姉ちゃん、ごめんなさい』とか言ってさー」
羽衣はそれを聞いて、顔を真っ赤にしつつ、
「お姉ちゃん、そういうの……やめてくんない? セクハラだよ……」
「だってすごかったんだよ、成長した羽衣は!」
虹子も呆れた顔で、
「お姉さま……その昨日見た夢の話、まだ続く? オチある? あとお姉さまの三倍ある胸と言ったらもうバランスボール胸にくっついちゃってるようなもんじゃん……」
ちらっと羽衣を見ながらそう言った。
羽衣は背が低くて小柄な16歳。
その胸にバランスボールが2つついているところを想像したのか、
「くふっ」
と笑う虹子、顔を真っ赤にする羽衣。
「もちろんオチあるよ! そこで羽衣でいきなりリーチがかかって……」
「待って、夢とはいえ何の話になったの?」
「羽衣が両端に揃ったの! で、スーパーリーチになって、そこで私がいつも見ている日当真田ってパチンコ配信者がいるんだけど、その人が出てきて、『これは大当たり確率38%のアツいリーチです』っていったところで夢から覚めたのよ!」
「で、どうなったの、お姉さま」
「おわり」
〈オチないじゃんw〉
〈今の夢の話を聞いてどう反応すればいいんだ〉
〈日当真田ってw 普段からパチンコ動画も見ているんだな〉
〈パチ好き山伏だったのか〉
〈今は勝てないからな。俺がやってたころは初代ノノシーだった〉
〈古すぎやろ、じいさんじゃん〉
配信を盛り上げようと零那はたくさん喋るのだが、その話は全部オチがなくてあまりおもしろくないのであった。
〈むしろ頭の上に孔雀が乗っているこの絵面が一番おもしろい〉
〈でも、モンスターが出てくるとこの孔雀が全部やっつけちゃうから〉
〈そこ工夫してほしいよな、俺たち戦闘が見たいのに〉
〈戦闘は孔雀があっさりかたづけて、延々夢の話を聞かされても〉
まあ、零那は零那で配信を盛り上げようと一生懸命なのであった。
だが残念なことに、零那にはあまりトークの才能がないみたいなのであった。
そうこうしているうちに、地下四階、虹子が看板を立てた場所に来た。
看板は昨日立てた場所にきちんと立っている。
「うーん、あの幽霊、今日はこないのかな?」
少しビクビクしながら虹子が言うと、
「来るでしょ。だって虹子さん、マーキングついたままだもん」
「ひぃぃっ。それ、いやなんだよねー」
「なんでそんな幽霊苦手なのよ? だっていつももっと怖そうな妖怪と闘っているんでしょ?」
「そうなんだけど、一度、ダンジョンの中で幽霊に取りつかれちゃって……。攻撃してこなかったから放っといたら、ずっと付いてきて……。ダンジョンから出たあと、うちに帰ったんだけど、そこで夜中に冷蔵庫を開けたら幽霊の顔が! チルドのとこに幽霊の首がゴロンと転がっているの! 鏡を見ると後ろにいるし! トイレに行ったら便座に座っていて私をじっと見つめているし! なんど悲鳴をあげたことか! 魔弾はダンジョンの中でしか使えないし、一度ダンジョンに戻ってから退治したんだよ。あの夜はほんと、悪夢だった。それ以降、幽霊ってだけで本能的に拒絶反応がでちゃうんだ」
なるほどねえ、と零那は思った。
それであんなに幽霊が嫌いなのか。
っていうか。
「虹子さんはダンジョンの中でしか魔弾を使えないの?」
「そりゃそうでしょ。人間はダンジョン内にいるからこそ、スキルが使えるんだよ」
「ふーん? 虹子さんも山伏の修行する? 地上でも幽霊を成仏させることくらいはできるようになるわよ」
「ほんと? それってすごいことじゃない?」
「私もまだまだだけど、修験道は修めれば地上でも洞窟でも使えるようになるわ」
「それにしてはパチンコ当たらないじゃない」
「そういうのには神様も仏様も協力してくれないから。だからこそ、私の運命力が試されるってわけよ」
「……神様も仏様も協力してくれないことなら、やめた方がよくない?」
〈そりゃそうだ〉
〈おこづかいの範囲内でやれよ〉
〈お金は大事にね〉
話を変えるように、羽衣がぼそっと言った。
「ところでさ。私もあの幽霊について調べてみたんだけど……」




