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パチンコ大好き山伏女がダンジョンの下層階で遭難した美人配信者に注文通りハンバーガーセットを届けたら全世界に激震が走った件  作者: 羽黒楓


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第30話 私の弱さがこの結果を生んだ

 翌日。

 虹子の隣の席に、零那(れいな)が座っていた。

 その美しい横顔を眺めて、虹子はほうっと息をついた。

 彼女はあまりに美しかったからだ。

 

「きれい……」


 思わず呟く。


 今日の零那(れいな)は、特に真剣な表情をしていて、それがまたかっこいいのだった。

 ダンジョンの奥でモンスターと戦闘になっても、どこかリラックスした表情の零那(れいな)

 それが、今は歯を食いしばり、眉間にシワをよせるほど眉毛を釣り上げて目の前に集中している。

 零那(れいな)の視線が追うものは――。

 

 もちろん、そんなの言うまでもない。

 パチンコ台の盤面を跳ねる銀玉たちだった。

 昼下がり、パチンコパーラーパラパラの海コーナー。

 パチンコ台の前に二人並んで座っているのだった。

 打っているのは零那(れいな)だけで、虹子はただ零那(れいな)の横顔を眺めているだけ。

 そんなに店も混んでいないし、この店は出玉の共有OKなので、店員もなにも言わない。

 一応、言い訳のために虹子の前の台の上皿にも少し球を入れてあるが。


「くっ! この台まわるのに……! でもほら虹子さん、その内当たるから見ててよ!」

「うん、見てるよ……」


 虹子はパチンコなんて見もせずに零那(れいな)の横顔を見つめている。

 人間として完璧な造形してるよね、と思う。

 なんなの、日本人でしかも山伏なのにこんな整った顔していていいの?

 

 ただ整っているだけでなく、どこか親しみやすさを感じさせる雰囲気もある。

 というか、中身の方はまあまあポンコツだ。


「あ! 来たぁっ! 虹子さん見て見て! これが魚群よ! ほらほらムリンちゃんが上から……これは当たるわっ!」


 プワンプワンプワン!

 効果音にあわせて水着姿のムリンちゃんが手招きしている。

 それとともにエビとカニが三つにそろ……わなかった。

 溺れながら画面下に消えていくムリンちゃん。


「ノオオオオオオオ!」


 綺麗な黒髪をかきむしって悔しがる零那(れいな)

 いったんハンドルから手を離し、その手をブルブル振って、


「私の気合がまだ足りなかったようね……。魚群に頼る私の弱さがこの結果を生んだ……。これからはノーマルからのビタ止まりを狙うわ。ノーマルリーチを軽視しすぎた! 一回転一回転を大事にして念力を送るわ!」


 ダンジョン最強の山伏でも、地上のパチンコ店ではその念力はまったく無力のようだったが。


「ねーお姉さま。幽霊のことなんだけど……。私、調べてみたのね。2018年にあの沼垂ダンジョンで遭難した人って、けっこういるみたい。あの子が誰なのか特定できないかなーと思ったんだけど」

「虹子さんも打ってみてよ! すっごく楽しいんだから! しかもお金も増えるかもしれない!」

「でもね、けっこう前の話だし、ニュースサイトを検索してもあんまりヒットしなくてさ」

「ほらほらそこのハンドルを握って右に回すの! ここ! ここを狙うのよ。ブッコミっていうの」

「こう? でね、やっぱり本人ときちんと話して素性を確かめてみたいんだ」

「うわっ、虹子さん、一発目で入った球でいきなり魚群リーチきた!?」

「もしかしたら遺族もいるかもしれないし……。2018年って探索者の遭難がすごく多くて、規制が厳しくなった年だったんだよ」

「カニ! でっかいカニ! カニが!」

「で、私、昔幽霊系のモンスターにこっぴどくやられたことあって、ずっと苦手にしてたのね」

「カニが! カメを! 掴んだ!」

「だから、できれば今日にでもまたダンジョンに潜りたいんだけど、お姉さま、一緒にきてくれない?」

「あたったぁぁぁぁぁっ!」

「いいかなあ?」

「うん、いいよ、よかった、虹子さん当たった! すごい! 執念の勝利ね!」

「執念なんてなにも感じてないけど」


 この店はデジタル管理ではなく、きちんと出玉が出るタイプの店だった。

 あっというまに虹子の席の後ろにドル箱が積み上がった。


「デキた! 虹子さん、よかったね!」


 自分は当たってないのに人のことは喜べる人間なのであった。 


 2時間後。


「ねー、お姉さま、そろそろやめない?」


 虹子が自分のドル箱から銀玉を掴んでは零那(れいな)の上皿にいれる。

 たまたま当たった銀玉を命の恩人に恵んであげるぐらい、虹子にしてみればなんてことないのだが。

 この作業を2時間続けているのだった。

 そろそろ虹子の腕もだるくなってきたところだ。

 虹子は当たったり外れたりしているが、零那(れいな)は外れっぱなし。


「くっ、球がガチガチと弾んで入らなくなった! 当たらない上に回りもしないこの台! でも、今、私が見捨てるわけには……! 明日データ見たときにハイエナされてめっちゃ当たってたりするとこの世の終わりくらい悔しいし!」

「目、血走ってるよ……。あと全身がプルプル震えてる……。狂気的で素敵とは思うけどここまできたら怖くなってきたからもうやめよ?」

「いや、虹子さんにもらった球を返すまで!」

「今日はもう無理だよ。じゃあ配信にまたゲストで出て! そしたらリスナーいっぱい来るから、それで返済ってことで! もう球あげない! 今日は切り上げて早くダンジョン潜ろうよ!」

「う……。じゃあ、配信で頑張って返すわ……」


 そして虹子は思い知るのだった。

 零那(れいな)みたいなポンコツが無理して配信を盛り上げようとするとどうなるのかを。


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